第1章 いじめなんて
「マジキモくない?」
「教室の空気が汚れるんですけど〜」
昨日と同じように朝からイタズラを仕掛けられ、容赦ない言葉を浴びせられる。
よく雪音や石川達は一学期からこれに耐えていたと思う。
不登校にもならずに。
二日目にして結構堪えるものがある。
ターゲットが香緒里に移ったせいか二人に対するいじめは嘘のように消えた。
結局いじめる相手なんて誰でもいいのか。
ただの遊びにしかすぎないのか。
そう思うほどに。
----------------
「はい、じゃあ今日は四人組を作って校内の好きな場所をスケッチしに行きましょう。では行動して下さい。」
美術の時間が始まると担当の先生はそう言った。
最悪…間が悪すぎる。
この状況で誰と組めばいいのか…。
香緒里は少し顔を歪めた。
これじゃ沙世達の思う壺だ。
沙世と沢田はこちらを見ていやらしく笑っている。
誰もあんたと組む人なんていないよ、と言うように。
溜め息をつきそうになった時、目の前に誰かが立った。
顔を上げると予想外の人が立っていた。
「雪音…?」
「香緒里、一緒に…やらない?」
安山雪音は少し震え、青く強張った顔を香緒里に向けてそう言った。
びっくりして思考が一時停止をした。
彼女はどれだけの勇気を持って香緒里に話しかけたのだろう。
下手したらまたいじめられることになることは予想がつく筈だ。
それなのに…
香緒里は一瞬目を閉じ、開けた後微笑んだ。
「ありがとう。」
そして教室を見回す。
「新谷、石川。一緒にやろう。」
興味なさげに後ろの方の席に座り、黒板を眺めていた新谷と、俯きじっとしていた石川は香緒里の方を見た。
返事をしない代わりに新谷は無言で立ち上がり、石川も戸惑いながらもそれに倣った。
香緒里も席を立ち、雪音と共に教室を出る。
横目に沙世達が面白くなさそうに舌打ちをしているのを見ながら…
香緒里達は四階まで上がり、自分達の教室と正反対の場所にある一番端の音楽室に入った。
授業で使っていないその教室はひっそりと静かで、日差しだけが差し込んでいた。
窓際の席に座ると雪音は大きく息をついた。
「…怖かったぁ…。」
「本当、ありがとね、雪音。あのままだと私一人だった。」
その隣に座った香緒里はホッとした表情をしている雪音にそう言った。
「だって、香緒里も私のこと助けてくれたから。そのお返し。私からも、ありがとう。」
雪音はにっこり笑った。
改めて雪音を見て、やっぱり美人だと香緒里は思う。ぱっちりした目に柔らかな髪、穏やかな雰囲気、整った顔。
それのせいで沙世は雪音をいじめていたのかもしれない。
憶測でしかないが。
「なんか、情けないな。俺だけ何も出来ないでいて。」
石川はそう言って三人を見た。
「俺らに付いて来ただけ、偉いだろ。普通だったら沢田達からの仕返しが怖くて一緒に来ないぞ?」
「そうかな……でも、ありがとう。」
穏やかな表情になる石川を見て香緒里は微笑み、その後スケッチブックを広げる。
「しっかしさ、見たか?あいつらの顔。」
「悔しそうな顔してたよね。」
「ね。」
「怖かったけど、ちょっとすっきりしたかもな。」
「ざまーみろ、だな。なんでもあいつらの思い通りに行くなんて大間違いだっつーの。」
新谷が言い、他の三人も頷き、その後顔を見合わせて笑った。
理由があったわけではないが、何故かおかしかった。
そして、心強かった。
一人じゃない、そう思えたから。
ありがとう、と香緒里はもう一度呟いた。
「教室の空気が汚れるんですけど〜」
昨日と同じように朝からイタズラを仕掛けられ、容赦ない言葉を浴びせられる。
よく雪音や石川達は一学期からこれに耐えていたと思う。
不登校にもならずに。
二日目にして結構堪えるものがある。
ターゲットが香緒里に移ったせいか二人に対するいじめは嘘のように消えた。
結局いじめる相手なんて誰でもいいのか。
ただの遊びにしかすぎないのか。
そう思うほどに。
----------------
「はい、じゃあ今日は四人組を作って校内の好きな場所をスケッチしに行きましょう。では行動して下さい。」
美術の時間が始まると担当の先生はそう言った。
最悪…間が悪すぎる。
この状況で誰と組めばいいのか…。
香緒里は少し顔を歪めた。
これじゃ沙世達の思う壺だ。
沙世と沢田はこちらを見ていやらしく笑っている。
誰もあんたと組む人なんていないよ、と言うように。
溜め息をつきそうになった時、目の前に誰かが立った。
顔を上げると予想外の人が立っていた。
「雪音…?」
「香緒里、一緒に…やらない?」
安山雪音は少し震え、青く強張った顔を香緒里に向けてそう言った。
びっくりして思考が一時停止をした。
彼女はどれだけの勇気を持って香緒里に話しかけたのだろう。
下手したらまたいじめられることになることは予想がつく筈だ。
それなのに…
香緒里は一瞬目を閉じ、開けた後微笑んだ。
「ありがとう。」
そして教室を見回す。
「新谷、石川。一緒にやろう。」
興味なさげに後ろの方の席に座り、黒板を眺めていた新谷と、俯きじっとしていた石川は香緒里の方を見た。
返事をしない代わりに新谷は無言で立ち上がり、石川も戸惑いながらもそれに倣った。
香緒里も席を立ち、雪音と共に教室を出る。
横目に沙世達が面白くなさそうに舌打ちをしているのを見ながら…
香緒里達は四階まで上がり、自分達の教室と正反対の場所にある一番端の音楽室に入った。
授業で使っていないその教室はひっそりと静かで、日差しだけが差し込んでいた。
窓際の席に座ると雪音は大きく息をついた。
「…怖かったぁ…。」
「本当、ありがとね、雪音。あのままだと私一人だった。」
その隣に座った香緒里はホッとした表情をしている雪音にそう言った。
「だって、香緒里も私のこと助けてくれたから。そのお返し。私からも、ありがとう。」
雪音はにっこり笑った。
改めて雪音を見て、やっぱり美人だと香緒里は思う。ぱっちりした目に柔らかな髪、穏やかな雰囲気、整った顔。
それのせいで沙世は雪音をいじめていたのかもしれない。
憶測でしかないが。
「なんか、情けないな。俺だけ何も出来ないでいて。」
石川はそう言って三人を見た。
「俺らに付いて来ただけ、偉いだろ。普通だったら沢田達からの仕返しが怖くて一緒に来ないぞ?」
「そうかな……でも、ありがとう。」
穏やかな表情になる石川を見て香緒里は微笑み、その後スケッチブックを広げる。
「しっかしさ、見たか?あいつらの顔。」
「悔しそうな顔してたよね。」
「ね。」
「怖かったけど、ちょっとすっきりしたかもな。」
「ざまーみろ、だな。なんでもあいつらの思い通りに行くなんて大間違いだっつーの。」
新谷が言い、他の三人も頷き、その後顔を見合わせて笑った。
理由があったわけではないが、何故かおかしかった。
そして、心強かった。
一人じゃない、そう思えたから。
ありがとう、と香緒里はもう一度呟いた。