第5章 青嵐吹く夏
期末試験の答案返却及び学年順位発表日。
緑ヶ丘では答案返却と順位の発表は同日に行われる。そして中間試験と違い、期末試験では30位までの成績が開示される、つまり廊下に貼り出される。誰が学年の中で頭がいいのかがよくわかるため、成績上位陣はそわそわするのだ。
成績上位陣ではないが、1年C組でもそわそわ……いや、ピリピリした表情で向かい合う二人がいた。
美愛と悠は、机を挟んで向かい合っており、その手にはそれぞれの答案が握られている。
「「せーのっ!」」
「合計203点、232位!!」
「合計198点、235位!!」
「え、マジで……??」
「よっしゃ!うちの勝ちやな!!!」
「あーーっくっそ負けたぁぁぁぁ!!!」
お互い答案を机に叩きつけ、点数と順位を叫ぶ二人。教室中に聞こえるレベルの声だったが、果たして聞こえてよかったのだろうか、と香緒里ら思う。
ちなみに、マジで?と引き気味に言ったのは沙世である。
お世辞にも自慢出来るとは言えないその答案用紙を沙世は覗き込む。
「赤点ばっかだけど、これ大丈夫なの?」
「夏休み中に補習するってさっき言われたわ………しゃーない、ろくに勉強してへんもん。」
「さ、最低限はしようね………?」
「俺勉強嫌いなんだよなー……」
「それには同意や。」
諭す香緒里に二人は肩を竦めた。
勉強してないからこの成績、というのならば、勉強すればもう少し点数取れるのではないか、と真面目な香緒里は真面目に心配してしまう。
「あ、外の見に行こーぜ!秀人頭いいんだろ?中間の時は順位聞きそびれたんだよなー。」
「あー入学式に代表挨拶してたくらいだもんなぁ、頭いいんやろ。」
「お前よりずっと良さそうだな。」
「いやあんたに言われたないわ!!」
相変わらず言い合いながら教室を出ていく二人に香緒里と沙世、そして由美は着いていく。
「頭いいというか、ねぇ?」
「きっと今回も……ね。」
予想出来る秀人の結果に香緒里と沙世は顔を見合わせた。
成績上位者の掲示がされているところに行くと、既に人集りが出来ていた。
友人やクラスメイトの順位を確認する者、通りすがりに眺める者、様々だったが、皆一様にして順位が書かれている模造紙の1番左上を指差したり視線を送ったりしていた。
「は!!???満点!!??」
【1位、1年A組 新谷秀人 900点】
皆がざわついていたのは悠が叫んでいたのと同様の心境だからであろう。
あーやっぱり、と香緒里は半笑いになる。香緒里達に関しては今更驚きもしない。中学の頃から満点以外を取っているところを逆に見たことがない。
中間テストもオール満点であった。
「おー、香緒里達も見に来たんだ。」
秀人と真が近付いてきて声を掛けてくる。話題の人の出現に周囲はザワつくが当の本人は相変わらず全く気に止めていない。
「おい秀人どういうことだよ!?なんで100点なんて取れるんだよ!!」
「どうもこうも、普通に授業聞いてただけだけど。」
「悠、諦めろ、人種が違う。」
三人のやり取りを聞きながら、改めて順位表を眺めると、秀人の下に見知った名前があることに気が付く。
【2位、1年E組 鮎川亮 892点】
「え、亮、やば。」
「何なにー?…………は!?はっぴゃくきゅーじゅーにてん……!?」
9教科100点満点ということは、892点だと100点や99点が並んでいるのだろうということはわかる。
秀人に匹敵する驚異的な点数を取る人が校内にいるとは思ってもみなかった。秀人にとっては楽々入れる高校であったとはいえ、県内でもそこそこ上のランクの学校であったはずである。
「亮は昔から頭いいのよーむしろ亮より頭いい人がこの学校にいたなんてびっくり。」
香緒里の肩口からひょっこり顔を出した奈津が言う。後ろには雪音や翔太、亮もいる。
「一通り勉強はしているからな、別に普通だ。」
「ここにもいたよ人種が違うのが………」
「すごいねぇ……。」
「すごいねぇ、て香緒里も頭いいでしょーが。」
感心していると沙世に小突かれる。
【13位、1年C組 吉崎香緒里 823点】
「えー………なんやねん香緒里も勉強出来るんか……」
「うーん、出来る、というか………昔から、勉強していい成績取れば褒めてくれるんじゃないかって思って毎日勉強してたから…………夏休みとかも暇で勉強してたし………。」
母に褒められたい、見てもらいたい一心で頑張っていた。結局それも実子でなく差別されていたため無駄ではあったのだが。
「香緒里……!!」
「健気……!!」
困った顔をして言った香緒里に雪音と沙世はギュッと抱き着いた。
健気!かわいい!いっぱい褒める!等言いながら香緒里とイチャイチャする二人を事情を知らない美愛たちはぽかんと眺める。乗り損ねた秀人が少しつまらなさそうな顔をしているのを見て、翔太は苦笑した。
「そういえば、圭も頭いいのよねー。」
きゃー圭くん頭もいいんだー!なんて言われながら少し遠くで女の子に囲まれている圭を見て奈津は言う。確かに27位のところに圭の名前があった。
「兄が1位で弟が27位なのに、なんであんたはビリから数えた方が早いんや?」
「うるせー!そんなのこっちが聞きてーよ!!」
「あ、そうや。私が勝ったんやからあんた約束守ってな?」
「あーそうだった……部活終わったらな………。」
テストで勝った方がアイスと飲み物奢り、という約束をそういえば期末テスト前にしていた気がする。結局、なんだかんだ言い合いながらも仲はいいんじゃないかと香緒里は思っている。
男子バスケ部は部活停止期間が終わり、今日からまた部活が出来るようになる。
心無しか秀人も朝からそわそわしている。
「よかったね、今日から部活。」
「おー久しぶりにバスケしっかり出来るからな。」
「これでほんとに一安心、てやつね!」
沙世がキリッとした顔で言う。なぜそこでドヤ顔をするのか。
テストも終わり、もうすぐ夏休みが始まる。
部活があるため、夏休みに入ってすぐに自宅に帰省する者は少ないが、皆大体の人はお盆には帰ると言っている。
私はどうしようかな、と香緒里はぼんやり考える。少し遠いが新しい自宅に帰るか、でも帰ったところで父は仕事でほとんど家にいない。
今年の夏はどう過ごそうか。
緑ヶ丘では答案返却と順位の発表は同日に行われる。そして中間試験と違い、期末試験では30位までの成績が開示される、つまり廊下に貼り出される。誰が学年の中で頭がいいのかがよくわかるため、成績上位陣はそわそわするのだ。
成績上位陣ではないが、1年C組でもそわそわ……いや、ピリピリした表情で向かい合う二人がいた。
美愛と悠は、机を挟んで向かい合っており、その手にはそれぞれの答案が握られている。
「「せーのっ!」」
「合計203点、232位!!」
「合計198点、235位!!」
「え、マジで……??」
「よっしゃ!うちの勝ちやな!!!」
「あーーっくっそ負けたぁぁぁぁ!!!」
お互い答案を机に叩きつけ、点数と順位を叫ぶ二人。教室中に聞こえるレベルの声だったが、果たして聞こえてよかったのだろうか、と香緒里ら思う。
ちなみに、マジで?と引き気味に言ったのは沙世である。
お世辞にも自慢出来るとは言えないその答案用紙を沙世は覗き込む。
「赤点ばっかだけど、これ大丈夫なの?」
「夏休み中に補習するってさっき言われたわ………しゃーない、ろくに勉強してへんもん。」
「さ、最低限はしようね………?」
「俺勉強嫌いなんだよなー……」
「それには同意や。」
諭す香緒里に二人は肩を竦めた。
勉強してないからこの成績、というのならば、勉強すればもう少し点数取れるのではないか、と真面目な香緒里は真面目に心配してしまう。
「あ、外の見に行こーぜ!秀人頭いいんだろ?中間の時は順位聞きそびれたんだよなー。」
「あー入学式に代表挨拶してたくらいだもんなぁ、頭いいんやろ。」
「お前よりずっと良さそうだな。」
「いやあんたに言われたないわ!!」
相変わらず言い合いながら教室を出ていく二人に香緒里と沙世、そして由美は着いていく。
「頭いいというか、ねぇ?」
「きっと今回も……ね。」
予想出来る秀人の結果に香緒里と沙世は顔を見合わせた。
成績上位者の掲示がされているところに行くと、既に人集りが出来ていた。
友人やクラスメイトの順位を確認する者、通りすがりに眺める者、様々だったが、皆一様にして順位が書かれている模造紙の1番左上を指差したり視線を送ったりしていた。
「は!!???満点!!??」
【1位、1年A組 新谷秀人 900点】
皆がざわついていたのは悠が叫んでいたのと同様の心境だからであろう。
あーやっぱり、と香緒里は半笑いになる。香緒里達に関しては今更驚きもしない。中学の頃から満点以外を取っているところを逆に見たことがない。
中間テストもオール満点であった。
「おー、香緒里達も見に来たんだ。」
秀人と真が近付いてきて声を掛けてくる。話題の人の出現に周囲はザワつくが当の本人は相変わらず全く気に止めていない。
「おい秀人どういうことだよ!?なんで100点なんて取れるんだよ!!」
「どうもこうも、普通に授業聞いてただけだけど。」
「悠、諦めろ、人種が違う。」
三人のやり取りを聞きながら、改めて順位表を眺めると、秀人の下に見知った名前があることに気が付く。
【2位、1年E組 鮎川亮 892点】
「え、亮、やば。」
「何なにー?…………は!?はっぴゃくきゅーじゅーにてん……!?」
9教科100点満点ということは、892点だと100点や99点が並んでいるのだろうということはわかる。
秀人に匹敵する驚異的な点数を取る人が校内にいるとは思ってもみなかった。秀人にとっては楽々入れる高校であったとはいえ、県内でもそこそこ上のランクの学校であったはずである。
「亮は昔から頭いいのよーむしろ亮より頭いい人がこの学校にいたなんてびっくり。」
香緒里の肩口からひょっこり顔を出した奈津が言う。後ろには雪音や翔太、亮もいる。
「一通り勉強はしているからな、別に普通だ。」
「ここにもいたよ人種が違うのが………」
「すごいねぇ……。」
「すごいねぇ、て香緒里も頭いいでしょーが。」
感心していると沙世に小突かれる。
【13位、1年C組 吉崎香緒里 823点】
「えー………なんやねん香緒里も勉強出来るんか……」
「うーん、出来る、というか………昔から、勉強していい成績取れば褒めてくれるんじゃないかって思って毎日勉強してたから…………夏休みとかも暇で勉強してたし………。」
母に褒められたい、見てもらいたい一心で頑張っていた。結局それも実子でなく差別されていたため無駄ではあったのだが。
「香緒里……!!」
「健気……!!」
困った顔をして言った香緒里に雪音と沙世はギュッと抱き着いた。
健気!かわいい!いっぱい褒める!等言いながら香緒里とイチャイチャする二人を事情を知らない美愛たちはぽかんと眺める。乗り損ねた秀人が少しつまらなさそうな顔をしているのを見て、翔太は苦笑した。
「そういえば、圭も頭いいのよねー。」
きゃー圭くん頭もいいんだー!なんて言われながら少し遠くで女の子に囲まれている圭を見て奈津は言う。確かに27位のところに圭の名前があった。
「兄が1位で弟が27位なのに、なんであんたはビリから数えた方が早いんや?」
「うるせー!そんなのこっちが聞きてーよ!!」
「あ、そうや。私が勝ったんやからあんた約束守ってな?」
「あーそうだった……部活終わったらな………。」
テストで勝った方がアイスと飲み物奢り、という約束をそういえば期末テスト前にしていた気がする。結局、なんだかんだ言い合いながらも仲はいいんじゃないかと香緒里は思っている。
男子バスケ部は部活停止期間が終わり、今日からまた部活が出来るようになる。
心無しか秀人も朝からそわそわしている。
「よかったね、今日から部活。」
「おー久しぶりにバスケしっかり出来るからな。」
「これでほんとに一安心、てやつね!」
沙世がキリッとした顔で言う。なぜそこでドヤ顔をするのか。
テストも終わり、もうすぐ夏休みが始まる。
部活があるため、夏休みに入ってすぐに自宅に帰省する者は少ないが、皆大体の人はお盆には帰ると言っている。
私はどうしようかな、と香緒里はぼんやり考える。少し遠いが新しい自宅に帰るか、でも帰ったところで父は仕事でほとんど家にいない。
今年の夏はどう過ごそうか。