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第2章 偽の繋がり、真の絆

「うわーすげー高いな。」
修学旅行三日目、つまり最終日。午前中にクラス別行動で太秦の映画村に行った後、午後からは旅行の締めくくりとして学年全体で清水寺に来た。
「飛び降りてみれば?きっと気持ちい「沙世がまず手本見せろよ?」
気持ち良さそうに、清水の舞台の欄干から下を見ていた秀人に沙世がそう言ったが、途中で黒い笑みによって遮られた。
遠慮しときます、とひきつった表情で沙世は言う。
「でも、ほんと気持ちいいよなー。」
「だな。眺めもいいし。」
翔太と真も欄干の方により、眼前の景色に目を細めた。
周りには高い建物がなく、緑が広がる。吹き寄せる少し冷たい風が心地よい。
深呼吸をゆっくりした香緒里に、雪音は声をかけた。
「ねぇ、香緒里。後で下にある地主神社に行かない??」
「地主神社??」
「私も行きたい行きたーい!」
「じゃ、三人で行こっか。あ、地主神社っていうのは、縁結びの神様が祀られてる神社なの。行ってみる価値はあるかもよ?」
固まる香緒里に、雪音は簡単に説明をした。
縁結びねぇ。
好きな人どころか、まともに恋をしたことのない香緒里には、少し無縁な場所のように感じたが、断る理由もないのでついていくことにした。


清水寺のすぐ傍には、地主神社という縁結びで有名な神社がある。神代、つまり縄文時代に作られたと言われている、由緒ある神社だ。
清水寺から延びる道に連なるお土産屋や店を見てくると言った秀人たちと別れた香緒里、雪音、沙世の女子三人はその地主神社に行く。
二人のお目当ては縁結びのお守りと、恋占いの石。
真が好きな沙世はともかく、雪音に好きな人がいるという話を香緒里は聞いたのとがなかった。
かわいく、きれいで。そして女の子らしく優しい雪音はモテる。苛められていた時期は下火になっていた人気もここ最近は取り戻している。
その雪音が好きな人と付き合えなくて、というのはなかなか想像し難い。よっぽど難しい相手なのだろうか?
いろいろ考えたあと、香緒里は聞く。
「雪音って、好きな人いるの??」
「いるよー。」
「え、誰々ー!?うちのクラスの人!?」
沙世も話に乗ってきた。目が輝いている。
「んーー?翔太だよ。」
隠しもせず、恥ずかしがる素振りもなく、雪音はあっさり答えた。
「え?うそ!?」
「ええええええーー!?」
香緒里は一時停止をし、沙世は大きな声を上げ、周りの視線を感じて慌てて口をふさいだ。
「なんで、翔太なの??え、秀人とかじゃなくて??」
顔が、とか能力が、とかそういう意味ではなく動機としてなぜ翔太なのか、だ。
秀人や真に比べると見劣りしてしまうが、翔太は別に顔が整っていないわけではなく、どちらかといえばかわいらしい感じの顔立ちであるし、能力であっても勉強運動共に平均値より上ではある。
だが問題はそこではない。
秀人を好きになるのならば、助けてくれたから、という理由がつく。しかし、雪音が笑いながら口にした答えは香緒里にはよくわからないものであった。

「なんで、ねぇ。なんとなく、かな?気がついたら好きになってたの。理由というより、好きなところならいろいろあるけど、きっかけは明確にあるわけじゃないわ。」
「あー、それはわかるかもー気付いたら、てのはあるよねー。」
頭上にクエスチョンマークが浮かぶ香緒里とは対照的に、沙世は納得したように頷いた。
なんとなく、か。好きになるのに理由はいらないものなのだろうか。
「香緒里は、好きな人いたことないの?」
雪音に問われ、香緒里は頷いた。
「じゃあ、もしかしたらまだわからないかも。でも、そのうち絶対わかるわよ。」
にっこりと笑う雪音の顔は輝いていて、本当にきれいに見えた。
早く行こう、という沙世の言葉にその笑顔は少し形を変えて楽しそうなものとなった。
「さ、香緒里も!」


楽しい修学旅行も、もう少しで終わりとなる。
この心の安らぎがいつまでも続くといいのに。
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