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第2章 偽の繋がり、真の絆


「おかえりー、遅かったね。」
部屋に戻ると雪音達は布団に寝転がりながらテレビを見ていた。布団の周りにはお菓子が散乱している。完全にリラックスモードだ。

「一階に行ったら、秀人と真がいて、話してたら遅くなっちゃった。」
「ね、ね、やっぱり二人とも、呼び出されてた!?」
棗は興味津々に香緒里を見た。他の四人もこちらを見ている。
「あー、そうみたい。秀人に至っては15分おきに呼び出されてたみたいだよ。」
「うわーさっすがー。」
感嘆の声を上げる棗達に香緒里は問う。
「やっぱりすごい人気あるんだ?」
「そりゃそうよー校内一のイケメンだもの。」
「まぁ私たち的には目の保養で充分だけど。」
ねぇー、と棗と静と朱里は顔を見合わせて声を揃えた。憧れは憧れで充分、ということらしい。

「でも、沙世は?」
雪音は沙世の方を見た。
「真のこと、好きなんでしょ?うかうかしてると奪われちゃうよ?」
「真は好きでもない人とか、自分のことよく知らない人と簡単に付き合ったりしないもん。」
きっぱりそう言い切った沙世に『さすが幼馴染み。』と五人は思った。よく真のことを理解している。確かに見た目はチャラついたイメージ があるが、実際は軽くない。
「そういえば、秀人も同じようなこと言ってた。」
「二人を落とすのは難易度が高いってことだね。」
「落とすつもりもないくせにー。」
朱里が言い、静がつっこむ。六人の笑い声が部屋に響く。穏やかで和やかな夜。今日は気持ち良く寝れそうだ。
香緒里は穏やかに微笑みながらそう心の中で呟いた。


「はよー、って眠そうだな。」
朝食を部屋で済ませて、朝の集会を終えた後、今日の日程である班行動のためにロビーに集まると、会って開口一番、秀人は香緒里にそう言った。
「昨日遅くまで話してたからあんま寝てない………」
「の、割には雪音と沙世は元気そうだけど?」
「沙世は話してるうちに寝ちゃったし、雪音も2時にはもう寝てたから……私は目が冴えちゃって、結局寝たのは5時くらい……。」
「なるほどな。ま、無理すんなよ。」

あ!と声をあげて、雪音と話していた沙世が香緒里の方を向いた。
「今日行く所の順番ってどうなってるの?」
「あ、それ俺も思ってた。」
五人の視線が香緒里に集まる。
「なんでみんな覚えてないのよ……北野天満宮、仁和寺、金閣寺、銀閣寺、三十三間堂の順!」
「さっすが香緒里♪」
秀人が言うとからかっているようにしか思えない。
「班長押し付けたこと、恨むわよ。」
「副班長は引き受けただろ?」
しれっと言った秀人に対して香緒里は溜め息をつきたくなった。
「香緒里ーー!運転手さんが呼んでるよー。」
「あ、うん。今行く!」
雪音に呼ばれて香緒里は慌ててそちらに駆けて行く。今日は普通のタクシーより大きい、バンくらいの大きさのタクシーに班ごとに乗って京都市内を回ることになっている。タクシーの運転手と話している香緒里を見て、笑みを浮かべている秀人に翔太は苦笑いをした。
「秀人、ほんと人をからかうの好きだよなぁ。Sっ気あるだろ。」
「まぁな。否定はしない。」
少し黒い笑みを浮かべて秀人は答えた。Sっ気……どころじゃなくて、もしかして秀人はドSかもしれない……と翔太はそう思ったが口には出さなかった。


最初の目的地、北野天満宮。大宰に左遷されてしまった菅原道真が、死後 起こしたといわれる災異、たたりを収めるため建てられたとされる歴史ある建造物で、祀られている道真に勉学の才があったために学問の神社としても有名である。
学業の御守りなども置いてあるので学生が学業成就のために訪れることも多い。
来年、受験生である香緒里達もそのために来た、と言ってもいい。
「うわ、大きい。」
敷地に足を踏み入れた香緒里はそう洩らす。参道の向こうには大きな社殿がある。歴史好きな翔太は、嬉しそうにカメラを構えて写真を撮っている。
「あとでおみくじ引かないとねー!あと御守り御守り!」
歴史好きでなくても観光をしているためか、沙世のテンションも高い。
「あ、あれ。」
香緒里は参道の脇にある、黒い牛の石像を指差した。
「撫でると頭がよくなるっていう牛――――」
だよね、と香緒里が言う前に秀人以外の四人はその石像の方へ走った。
「必死すぎたろ、あいつら。そうまでして頭よくなりたいのか?」
「行く気ゼロね、秀人。まぁ確かにあんたには必要ないかもしれないけど。」
常に学年トップの彼にとってはきっとその行為は無意味に近い。牛を丁寧に撫でる四人を見て秀人は面白そうな顔をした。成績的に言うと、沙世や真はそんなによくない………というか、悪い。勉強しないせいもあるが。雪音、翔太は平均的だ。
「お前は?行かなくていいのか?」
香緒里自身の成績は学年の中ではいい方だ。大抵トップ20に入る。石像の方に四人と行かなかったのはただ単に出遅れたからだ。
「行くよ、成績は上げたいし、来年は受験生だしね。秀人も行こう?思い出作りだと思って、ね?」
しょうがないな、と言いながら秀人は香緒里の後を追った。


「うわ、最悪………。」
数分間、牛の像の周りに群がった後、参拝をして、そのままおみくじを引いた。引いたおみくじを見て、香緒里は少しだけ顔をしかめた。
「何?どーした?」
ひょいと香緒里の持つおみくじを秀人は覗きこみ、吹き出した。
「くっ、くくくっ、あははは、香緒里、お前、 大凶って…………!」
「え?何?大凶!?」
他の四人も珍しげに覗きこむ。 そして、沙世と真は秀人と同じように吹き出し、雪音と翔太は苦笑いをした。
「マジで大凶だ!あははは、香緒里すっごい!」
「大凶なんて引いたやつ、初めて見た!」
「さすがに………ちょっと気の毒ね。」
「ちょっと見せて?」
爆笑する三人の横で、翔太は香緒里から渡されたおみくじを読む。雪音は三人を見て、また苦笑しながら翔太の声に耳を傾ける。
「汝災い降りかかり―――って、長いね。ちょっと待って、要約してみるから。」
「翔太って古典得意だっけ?」
「得意ってほどではないけど、そこそこ。歴史好きだから、そういうの読む機会多いし。……………『あなたにはいくつかの災いが降りかかるでしょう。家族関係、友人、恋人とのトラブルなどよくないことが度重なり起こるでしょう。何をやっても予想と反対の展開に。しかし反対に良き友人に巡り合う可能性も。周りや自分を見つめ直すことで運気は変わるでしょう。 』だって。うーん、微妙だね………前半は悪いことしか書いてない。」
「だ、大丈夫よ!私たちがいるから!ね?たかがおみくじだから、気にしない気にしない!」
既によくないことは起きているから、あながち間違っていないのかもしれない。半笑いを浮かべながら香緒里は思う。
これからまだ何か起こるのだろうか?

「凶とか出た場合、あそこの木の高い所に結べばいいって言うから、結びに行こうよ。」
「そうね、それがいいわよ。行こ、香緒里。」
頷いて、まだ笑っている三人を見た。
「雪音と翔太は誰かさん達と違って、優しいわねー?」
「さーてと、私、御守り買ってこようかなー。」
「俺もそーしよ。」
「俺はその辺見て回ってくるー。」
沙世、真、秀人は香緒里の視線を避けるようにそれぞれ散っていった。香緒里達は顔を見合わせて苦笑い。


楽しい楽しい旅行に、ポツリと垂らされた黒い染み。不吉な予告が、予告だけで済まなくなるとは、この場にいる誰も予想しなかった。
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