第2章 偽の繋がり、真の絆
「キャー鹿がいっぱい!かわいい!」
奈良公園に着き、まず目に付いたのは鹿で。沙世ははしゃぎながら、カメラのシャッターを押している。
「あはは、あれ、小鹿じゃない?角が小さいわね〜。」
「ね。かわいい。」
「ってか、お前ら鹿に気を取られてばっかいると鹿の糞踏むぞ、あっちみたいに。」
秀人の目線の先を辿ると、どこか別の中学校の生徒の一人が、糞を踏んだらしく騒いでいるのが見えた。
確かに足元を見ると鹿の糞があちこちに落ちている。
「そういえば、鹿の糞とかいうお菓子があるんだよね。」
「げっ、何それ?美味しいの?」
「うん。私のお姉ちゃんが修学旅行に行った時に買ってきてくれたんだけど、美味しかったよ。なんか、小さいお饅頭の中がチョコなの。」
「何それ超美味しそう!あとで買わないと!」
雪音の言葉に沙世は目を輝かせた。
ほんと、食べ物には目がないんだから…と、香緒里は呆れ半分にそう思い、苦笑した。
「ほら、前の班と離れちゃったよ。さっさと追いつこう?」
初めて見た、大仏というものは教科書で見たよりもずっと、壮大で迫力があった。東大寺大仏殿。金色に輝くその巨体は見る者を圧倒させ、僅かに外から入り込む光によってより一層、神々しさを増していた。
かと言って、怖くはなく。逆に見ていると心が安らいでいく気がした。
周りの生徒達が感嘆の声を漏らしたり、写真を撮ったりしている中、香緒里は食い入るように大仏を見ていた。
「香緒里、そろそろ行くぞ?」
「わっ!え、あぁ、秀人か……びっくりした。」
ポンと肩を叩かれて慌てて後ろを振り向くと秀人が立っていた。
「前のクラスが動き出してるから、俺らのクラスもそろそろだろ。」
秀人は出口の方を指差しそう言う。
そのすぐ後に、担任の声掛けにより大仏殿を後にする。
「気に入ったのか?大仏」
「気に入ったというかなんというか………」
どちらかと言えば魅入られたに近い。
うーん、と首を捻る香緒里を見て秀人は少し笑い、話題を変える。
「午後は班別で自由行動だよな?どこに行くんだっけ?」
「あぁうん、そう。春日大社と五重塔のあたりを回る予定。」
「そっか。晴れて良かったな、とりあえず。この広い公園を雨の中回るのは相当しんどいな。」
「ほんとね。」
上を見上げると、色とりどりの葉の隙間からきれいな青空が見える。
昔も、こんな景色を見た気がする。
「わー!お母さん見てみて!ドングリこんなにあるー!」
あれは、何年前だっただろうか。
山に登ってみたいという姉の希望で、秋に東京の高尾山に行った。
「あらぁいいわねぇ。」
ドングリを見つけてウキウキと母に見せる姉。
同じ目線まで屈み、姉の頭を撫でる母。
それを微笑み見つめる父。
なんて幸せな家族だろう。そこだけ切り取れば。
「ねぇお母さん、まつぼっくりもあったよ。」
少し離れたところで香緒里はしゃがみ込み、母を振り返る。
だがその母は聞こえているのかいないのか、こちらを見もしない。
「まつぼっくり…………」
あぁあの時見上げた空も、同じようなものだった………
「よーし!午後も歩くぞーーー♪」
昼食を終えた後の午後の自由行動は沙世の掛け声によって始まった。
春日大社までは少し時間がかかる。
少し木の茂った道をのんびりと歩いて行く。
「ねぇ、鹿せんべいって人も食べていいものなの………??」
香緒里は道端にある、鹿せんべいを売っているお店を見て言う。
「なんかその質問、沙世みたいね?」
「なにそれぇどーいうことよー!なんで私なのよー」
「食い意地が張ってそうな感じがじゃねぇか?」
「食べられたとしても不味そう……」
「でも食ってるやついるぞ?」
翔太の言葉の後、秀人は少し前にいる別の学校の生徒と思われる集団を指差した。
なるほど、確かに食べている。その表情は微妙なものだったが。
「とりあえず、鹿せんべい持ってれば鹿も寄ってきてくれるよね??私買ってくるー!!!」
そう言って沙世は1人お店に行き、さっさと買って戻ってくる。
袋を開けながら、戻ってきた。
後ろに鹿を連れながら。
「ちょっ、沙世!!後ろ後ろ!鹿!!!!」
「えええっ!!ちかっ!近ーーっ!!いたいっ」
沙世のお尻を鼻先でぐいぐい押しながら1匹の鹿がぴったりと後ろにくっついている。そして、周りの鹿もわらわらとこちらに向かっている。
「なんでなんでーー!??」
堪らず沙世は駆け出した。なぜか香緒里の腕を掴んで。
そして鹿は2人を追いかけ走り出す。
「沙世なんで巻き込むのよ!??」
「だってぇだってぇ!!!!」
「とにかくその鹿せんべいを離すのよ!」
「わわかった!!!えいっ!!!」
手に持っている鹿せんべいを沙世は爆笑している4人の方に投げる。
野球少年の性なのか、向かって投げられてきたその鹿せんべいをボールをキャッチするかの如く真は受け取ってしまう。
鹿達は今度は4人に向かって突進。
踵を返して4人は駆け出す。
「なんで受け取ったんだよ!!!」
「いや、なんか、つい癖で!!」
「もーー真のバカーー!!」
「あーーーもう貸せっ!!!あっち行けよぉぉ!!!!」
走りながら秀人は真の手から鹿せんべいを奪い取り、道から外れた方に思いっきり投げたーーーーーー
奈良公園に着き、まず目に付いたのは鹿で。沙世ははしゃぎながら、カメラのシャッターを押している。
「あはは、あれ、小鹿じゃない?角が小さいわね〜。」
「ね。かわいい。」
「ってか、お前ら鹿に気を取られてばっかいると鹿の糞踏むぞ、あっちみたいに。」
秀人の目線の先を辿ると、どこか別の中学校の生徒の一人が、糞を踏んだらしく騒いでいるのが見えた。
確かに足元を見ると鹿の糞があちこちに落ちている。
「そういえば、鹿の糞とかいうお菓子があるんだよね。」
「げっ、何それ?美味しいの?」
「うん。私のお姉ちゃんが修学旅行に行った時に買ってきてくれたんだけど、美味しかったよ。なんか、小さいお饅頭の中がチョコなの。」
「何それ超美味しそう!あとで買わないと!」
雪音の言葉に沙世は目を輝かせた。
ほんと、食べ物には目がないんだから…と、香緒里は呆れ半分にそう思い、苦笑した。
「ほら、前の班と離れちゃったよ。さっさと追いつこう?」
初めて見た、大仏というものは教科書で見たよりもずっと、壮大で迫力があった。東大寺大仏殿。金色に輝くその巨体は見る者を圧倒させ、僅かに外から入り込む光によってより一層、神々しさを増していた。
かと言って、怖くはなく。逆に見ていると心が安らいでいく気がした。
周りの生徒達が感嘆の声を漏らしたり、写真を撮ったりしている中、香緒里は食い入るように大仏を見ていた。
「香緒里、そろそろ行くぞ?」
「わっ!え、あぁ、秀人か……びっくりした。」
ポンと肩を叩かれて慌てて後ろを振り向くと秀人が立っていた。
「前のクラスが動き出してるから、俺らのクラスもそろそろだろ。」
秀人は出口の方を指差しそう言う。
そのすぐ後に、担任の声掛けにより大仏殿を後にする。
「気に入ったのか?大仏」
「気に入ったというかなんというか………」
どちらかと言えば魅入られたに近い。
うーん、と首を捻る香緒里を見て秀人は少し笑い、話題を変える。
「午後は班別で自由行動だよな?どこに行くんだっけ?」
「あぁうん、そう。春日大社と五重塔のあたりを回る予定。」
「そっか。晴れて良かったな、とりあえず。この広い公園を雨の中回るのは相当しんどいな。」
「ほんとね。」
上を見上げると、色とりどりの葉の隙間からきれいな青空が見える。
昔も、こんな景色を見た気がする。
「わー!お母さん見てみて!ドングリこんなにあるー!」
あれは、何年前だっただろうか。
山に登ってみたいという姉の希望で、秋に東京の高尾山に行った。
「あらぁいいわねぇ。」
ドングリを見つけてウキウキと母に見せる姉。
同じ目線まで屈み、姉の頭を撫でる母。
それを微笑み見つめる父。
なんて幸せな家族だろう。そこだけ切り取れば。
「ねぇお母さん、まつぼっくりもあったよ。」
少し離れたところで香緒里はしゃがみ込み、母を振り返る。
だがその母は聞こえているのかいないのか、こちらを見もしない。
「まつぼっくり…………」
あぁあの時見上げた空も、同じようなものだった………
「よーし!午後も歩くぞーーー♪」
昼食を終えた後の午後の自由行動は沙世の掛け声によって始まった。
春日大社までは少し時間がかかる。
少し木の茂った道をのんびりと歩いて行く。
「ねぇ、鹿せんべいって人も食べていいものなの………??」
香緒里は道端にある、鹿せんべいを売っているお店を見て言う。
「なんかその質問、沙世みたいね?」
「なにそれぇどーいうことよー!なんで私なのよー」
「食い意地が張ってそうな感じがじゃねぇか?」
「食べられたとしても不味そう……」
「でも食ってるやついるぞ?」
翔太の言葉の後、秀人は少し前にいる別の学校の生徒と思われる集団を指差した。
なるほど、確かに食べている。その表情は微妙なものだったが。
「とりあえず、鹿せんべい持ってれば鹿も寄ってきてくれるよね??私買ってくるー!!!」
そう言って沙世は1人お店に行き、さっさと買って戻ってくる。
袋を開けながら、戻ってきた。
後ろに鹿を連れながら。
「ちょっ、沙世!!後ろ後ろ!鹿!!!!」
「えええっ!!ちかっ!近ーーっ!!いたいっ」
沙世のお尻を鼻先でぐいぐい押しながら1匹の鹿がぴったりと後ろにくっついている。そして、周りの鹿もわらわらとこちらに向かっている。
「なんでなんでーー!??」
堪らず沙世は駆け出した。なぜか香緒里の腕を掴んで。
そして鹿は2人を追いかけ走り出す。
「沙世なんで巻き込むのよ!??」
「だってぇだってぇ!!!!」
「とにかくその鹿せんべいを離すのよ!」
「わわかった!!!えいっ!!!」
手に持っている鹿せんべいを沙世は爆笑している4人の方に投げる。
野球少年の性なのか、向かって投げられてきたその鹿せんべいをボールをキャッチするかの如く真は受け取ってしまう。
鹿達は今度は4人に向かって突進。
踵を返して4人は駆け出す。
「なんで受け取ったんだよ!!!」
「いや、なんか、つい癖で!!」
「もーー真のバカーー!!」
「あーーーもう貸せっ!!!あっち行けよぉぉ!!!!」
走りながら秀人は真の手から鹿せんべいを奪い取り、道から外れた方に思いっきり投げたーーーーーー