狼使いと黒獣使い(文スト)
名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
太宰に拾われた日から、凜音達はそれぞれ世話係の元で訓練を受けつつ、簡単な任務を受け持ち、仕事を初めてながらテキパキとこなしていった。
3人は失敗と成功を繰り返し、順調に成長していっていた。
あれから数年が経った今。
太宰がポートマフィアを離れ、元羊の中原中也が幹部になり、凜音も幹部に加わった。
芥川は遊撃部隊隊長に。
銀は黒蜥蜴のメンバーに。
それぞれ森の采配でその役職につき仕事をしていた。
「闇に咲く花は闇にしか憩えぬ」
任務終わり、外の月明かりを眺めながら凜音は言った。
そこに近づいてきた紅葉が声をかけた。
「クフフ、好きじゃのぉ凜音や。そんなに気に入ってるのかえ?」
「姐さん。そうですね。いつまで太宰さんは、光の下にいれるのかなぁって思って」
太宰の居場所は幹部達と首領しか知らない。そして、幹部である凜音と紅葉は太宰が"探偵社"にいるということを知っていた。
「凜音は何故そこまで太宰の事を思う」
紅葉は凜音が太宰のことを嫌っていることを知っていながら、少し意地悪な言い方で聞いた。
「その言い方はとても嫌ですね。私はただ、龍に笑って欲しいだけ。その為に太宰さんは必要なんです」
「そうかえ。おっと、追加の任務じゃの。凜音をご指名じゃ」
「そうですね。では、行ってきますか」
表情を作って、人を助けるためにと探偵社で仕事をしていても、いつか必ず耐えられなくなる日がくる。
人間という生き物は、いつまでも道化のように生きることは出来ないのだから。
side太宰
凜音は異能である狼達を纏めあげ、自身も仕込み刀を持ち、敵を殲滅していく。
そんな姿から"狼使い"や"赤い死神"と言われていた。
(凜音ちゃんには似合わないね)
太宰は白い少年を目の前にしてそんな事を思った。
かつて自分が拾った子供の1人。
"操られた"母親に捨てられた子供。
太宰は彼女を拾ったあと、その母親について調べていた。そして見つけた情報にあった母親は子供を捨てるような人物ではなかった。
では何故捨てたのか。
それはある異能力者により操られていたから。
おそらくその異能力者は凜音の異能力が欲しかったのだろう。
しかし手に入れることは出来なかった。
なぜなら凜音は、芥川に保護され、その後ポートマフィアに連れていかれたからだ。
もちろん、その情報を手に入れた時点でその異能力者はポートマフィアの敵とみなし、殺した。
理由は単純。ポートマフィアを攻めてきたから。
そしてその母親はというと、無事異能による洗脳が溶け、娘を探し始めた。
しかし、母親は未だに娘を見つけることは出来ていない。
なにせ、母親は娘が異能力者だということに気づいていないのだから。
「あの、太宰さん。本当にここに虎が来るんですか?」
ふと白い少年、中島敦がそんな事を聞いてきた。
今は敦と人喰い虎を探していた。
そして、太宰は国木田にメモを渡し、探偵社の面々を集めさせ、外で待機させている。
なにせ、今探している人喰い虎は太宰の目の前にいるのだから。
だから太宰は敦の質問に来るよとだけ答えた。
それに対し、敦は焦ったようになんで分かるんですか!と質問してきた。
「敦君。君がヨコハマに来たのも、人喰い虎が目撃され始めたのも、同じ日だ。この意味が分かるかい?」
「何を言って....」
「人食い虎は敦くん、君なのだよ」
太宰が言い終わるのと同時に満月の光がちょうど敦のいるところを照らしはいじめ、敦の体は変化していった。
そして現れたのは、月明りに反射してキラキラと光る毛並みに敦と同じ珍しい朝焼け色の瞳を持った虎だった。
彼は、太宰と同じ異能力者だったのだ。
その虎は、太宰を見ると一気に襲い掛かってきた。太宰は間一髪で避けるも、虎の爪は並べられてあった箱を破壊していた。
その地面にも爪痕が見えることからその威力が計り知れるだろう。
「グルルルルルル!!」
「凄いなぁ。獣に食い殺される最後というのもなかなか悪くないが、君では私を殺せない。異能力『人間失格』」
壁際まで追い詰められた太宰は、なおも冷静に虎を見据え、迫ってくる虎に対して自身の異能力『人間失格』を使った。
『人間失格』とはあらゆる異能力を触れただけで無効化させる異能力だ。
異能力に対抗出来る最強の能力とも言えるその能力は、虎に触れた瞬間発動し、異能力が解け元の少年の姿に戻った。
少年敦は異能力が発動したショックで気絶していたため、そのまま太宰の胸元に倒れ込んできた。
「.....男と抱き合う趣味はない」
太宰はそう言って敦を離した。その後ろではコンクリートに顔から落ちた敦が変な声を出していた。
「太宰!!!」
「あぁ遅かったね国木田君。虎は捕らえたよ」
「まさか、この小僧が?」
「そう。虎に変身する異能力者だ」
「まったく.....」
太宰の説明を聞いて、国木田はため息を吐いた。
原因は国木田がポケットから出したらメモにあった。
「なんだこのメモは」
「十五番街の倉庫に虎が出る、逃げられぬよう周囲を固めろ。実に簡潔でいいメモだ」
太宰がメモを読みそう答えると、国木田は呆れたように、要点が抜けとる、次からは事前に説明しろと、太宰を論すように言った。
「おかげで非番の奴らまで駆り出す始末だ。後で皆に酒でも奢れ」
その言葉と同時に三人の人影が姿を現した。
それぞれ探偵社の与謝野晶子、江戸川乱歩、宮沢賢治だった。
「なんだい、怪我人はなしかい?つまんないねぇ」
「なかなかできるようになったじゃないか太宰。まぁ、僕には遠く及ばないけどねぇ」
「でも、この人どうするんです?自覚はなかったわけでしょ?」
探偵社の面々が好き勝手喋る中、賢治の言葉に国木田が返した。
「そうだな。どうする太宰?一応、区の災害指定猛獣だぞ」
「うふふ、実はもう決めてあるんだ。ウチの社員にする」
そう太宰が言った瞬間、突然目を開けられないほどの強風が吹いた。
それは一瞬のことで、強風が止んだのを確認し目を開けると、今までそこにいた敦が何処にもいなかった。
そして、先程までなかった別の気配がある事に気づいた。
「ごきげんよう。探偵社の皆さま」
その凛とした声が倉庫に木霊した。
声のした方に目を向けると、月明かりを浴び真っ赤な髪をなびかせ敦を横抱きにした女性が立っていた。
「この子は私達ポートマフィアが貰い受けます。それと、この子の異能を解いて下さりありがとうございます太宰さん」
「君は.....」
「あら?もしかして忘れてしまったんですか?無責任な人ですね」
太宰はその女性にとても見覚えがあった。忘れるはずもない。自分が拾った子供の一人なのだから。
しかし、他の探偵社の面々は乱歩を除いて訳が分からないという顔をして太宰を見ていた。
だが太宰はその視線を気にすることなく、目の前の女性を警戒しながらじっと見て、彼女の名前を言った。
「凜音ちゃん.....」
「あら、思い出してくれましたか。まぁ忘れられてても構いませんでしたけれど。時間がないのでこれで失礼します」
「待て!行かせないよ!」
「"ルツ"」
その場にいた探偵社の面々は太宰の声で気を取り直し、それぞれ彼女から敦を取り返す為に動こうとした。
しかし、凜音が一声掛けた瞬間それは叶わなかった。
なぜならそこに、大きな狼が5匹現れたからだ。
その狼たちは探偵社の面々を凜音に近づかせないよう牽制するように立っていた。
「ルツ。私が本部に着くまでその人達の相手をしなさい。殺しても構わないわ」
「グルルル」
ルツと呼ばれた他の狼より一回り大きい狼が凜音の指示に了承を示すように鳴いた。
それを合図に狼たちはそれぞれ動き出した。
"太宰さん。貴方の帰りをお待ちしています"
凜音は最後、激しい戦闘が行われている中、一言そう言い残してその場を去っていった。
「おい太宰!この狼達はさっきのポートマフィアの異能力なんだろう!何とか出来んのか!」
「国木田君。この狼達は彼女に触れなければ解除できないんだ。彼女が本部に着くまでの間このまま持ちこたえるしかないよ」
「クソっ!赤髪に狼達。聞いていた数よりは少ないが、狼使い、赤い死神か!」
国木田がこの場にある情報から彼女が誰なのか当てたようだ。
しかし.....
「数が少ないのは、彼女が5匹で十分だと判断したからだろう。後もう5匹は居るはずだ」
「俺たちの力をあわせても5匹の力に押し負けてる。狼という規格外の生き物だからか.....」
規格外の生き物。確かに狼は今は絶滅してこの世にいない。だからこそ狼の力を計り知ることは出来ない。
だが、太宰は知っていた。この狼達の力が増していることを。
当初はただ暴れるだけだったため対処は簡単だった。
だが今はどうだろうか。それぞれが連携して攻撃してきているため、逃げる隙さえない。
「ちっ、どうにかして逃げる隙が出来ないかねぇ」
「このままじゃ消耗戦になってしまいますよぉ!」
与謝野と賢治がそれぞれ狼の攻撃を躱しながら言った。
ここから本部まで車で行ったとしてもかなり時間が掛かる。
このまま押され続ければ、最悪死人が出る。
そう思った時、狼たちの動きが止まった。
そして、狼たちは何事もなかったかのように去っていった。
どうやら戦闘に夢中になりすぎて時間を忘れていたようだ。
既に深夜と言ってもいい時間になっていた。
「終わっ....た」
「ふぅ。あんなのを相手にしなければならないとは、もっと力をつけなければ」
戦闘に夢中になりすぎて時間を忘れていた。つまり、狼たち達は他のことを気にする暇さえ与えなかったということ。
もしあれが10匹だったらと思うとゾッとする。
「あんな奴らの相手、妾は二度とごめんだね。ところで太宰。さっきの子......」
「与謝野先生。その話はまた後で」
「.....そうかい」
後ろで隠れていた乱歩以外はみんな、今の戦いで憔悴しきっていた。
乱歩は推理を担当としているため、戦闘に参加することはないのだ。
「お疲れ様ぁ〜」
「乱歩さん。お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。それより太宰、早くお前とあの女性との関係を話した方がいいんじゃないの?」
「あぁ。乱歩さんの言う通りだ。話してもらおうか、太宰」
国木田が乱歩に乗って太宰に話を促した。
しかし、太宰は疲れたから明日話すよ、と言ってそそくさと帰ってしまった。
side凜音
少し時間をさかのぼり、太宰たちが狼と戦っている頃。凜音はというと、迎えに来させた車に敦とともに乗っていた。
しばらく走っていると、敦が目を覚ました。
「んっ........あれ、ここは?」
「おはよう敦君。気分はどう?」
起きたばかりでまだ状況が把握出来ていない敦に、声をかけると、やはりびっくりした顔をして、誰なのか聞いてきた。
「私は結城凜音、ポートマフィアよ。単刀直入に言うわ。敦君、ポートマフィアに入らない?」
「えっ........?」
「私たちは貴方の事を歓迎するわ。どうかしら?今帰る宛てもないでしょう?」
「マフィアが、どうして僕なんかを?」
自分の今の状況が分かってきたのか、冷静に聞いてきた。
確かに、彼からすれば不思議な話だろう。
孤児院から出たばかりの自分を何故マフィアが勧誘しているのか。
実際、当初は敦を懸賞首として捕らえる予定だった。しかし、首領が敦の異能力に興味を持ち、ポートマフィアに入れる方が合理的最適解だと判断をした。
「異能力というのは知ってる?」
「い、いえ」
「異能力というのは、少数の人間が持つ不思議な力のこと。そして、不思議な力を持つ人の事を異能力者というの。君もその一人なのよ。自覚はまだ無いようだけれど、孤児院を追い出された本当の理由は、敦君が虎に変身するからよ」
「僕が異能力者?そんなはずは........」
「敦君に自覚がないのはそこの院長のせいね。ずっと周りや敦君にバレないようにしていたけれど、結局周りにバレて、追い出すしか無くなったんでしょ」
敦のことは事前に調査していた。
敦は孤児院で育ち、虐待を受けていたようだ。院長曰く躾だということだが、これは立派な虐待だ。
とにかく、敦は孤児院でかなり酷い扱いを受けていたようだ。
こんな環境では異能力の制御どころか制御出来ずに暴れてしまうのは当然だろう。
異能力に詳しくないただの人間が、異能力者を育てようとしたからこうなったのだ。
恐らく、ヨコハマで狙われるようなことがなかったら、敦はこのまま軍警に捕まり、処刑されていたかもしれない。
「もし、私たちの誘いを断れば、勿論敦君の気持ちを尊重するわ。でも、制御出来ずに暴れ回って、軍警に捕まって処刑されるのがおちね」
「そうな!制御の仕方なんて知りません!」
「だから、ポートマフィアに入らない?って誘っているのよ。ウチに入れば制御訓練もある。多少の荒事もあるけど、入ったばかりでそんな仕事はまず任されないわ」
「でも、人殺しは........」
「そんなこと言っていたら、敦君が死ぬわよ。ヨコハマは異能力者にとって、安全でもあり危険な場所でもあるの。懸賞金がかけられているのだから尚更危険よ」
「僕は何もしてないのに!?」
「何もしてなくても懸賞金をかけられることはあるわ。さぁ、もうすぐ本部に着くわ。勧誘を受けるのか、受けずに死ぬのか。どっちにする?」
これは敦にとっては選択肢は無いに等しい。
生きたい敦は、受けずに死ぬ方を選ぶことが出来ないのだ。
実際、死ぬかどうかは運次第だが、生きる確率は低いだろう。
ここは既にポートマフィアの領域内だ。こんな所で彷徨っていれば殺されるのは確実だ。
そして、敦は決断した。
「分かりました。ポートマフィアに入ります」
「えぇ。ポートマフィアへようこそ、敦君。さぁ、着いたわ。ここがポートマフィアの本部よ」
そう言って凜音は敦の手を引き車を降りた。
そこにあったのは幾つも建った高層ビルだった。
まるで闇に溶け込んでいるような、そんな雰囲気を纏ったビルはある意味異質だった。
「さっ、まずは首領の所に行きましょう」
「え......?」
「敦君は私の勧誘を受けてくれた。挨拶に行かないといけないでしょう?」
「は、はい」
「緊張しなくてもいいわよ。私がいるから」
敦は、今まで感じたことの無い空気が漂うここに不安を感じていたが、私がいるからという言葉で少し落ち着くことが出来た。
これからはここが、敦の住む世界だ。
暗く深い闇に覆われた世界。けして光が差し込むことはない。
一度入ってしまったら二度と出ることの出来ない闇。
彼はそこに足を踏み入れてしまったのだった。
NEXT→
━━━━━━━━━━━━━━━
<設定>
【結城 凜音(ゆうき りんね)】
狼を操り、仕込み刀で敵を切る。彼女の与える死から逃れることは出来ない。そんな姿から狼使い、赤い死神と呼ばれている。
ポートマフィア幹部
芥川の為なら何でもする
【中島 敦】
凜音の勧誘を受け、ポートマフィアに入る。
孤児院育ち。
【ルツ】
狼たちの纏め役。
他の狼より知能が高く人の言葉を理解することが出来る。
凜音の命令は絶対。
太宰嫌い。
━━━━━━━━━━━━━━━
<後書きみたいなやつ>
最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
かなり遅い投稿となりました💦
次の投稿はなるべく早めにしたいと思います。
最近は寒くて布団から出られない日々。
そういえば、クリスマスイブらしいですね(❁´ω`❁)
イルミネーションとか見てみたいなぁ〜
とまぁこんな感じで、ご意見ご感想を良かったら聞かせてください(❁´ω`❁)
また次回お会いしましょう!
3人は失敗と成功を繰り返し、順調に成長していっていた。
あれから数年が経った今。
太宰がポートマフィアを離れ、元羊の中原中也が幹部になり、凜音も幹部に加わった。
芥川は遊撃部隊隊長に。
銀は黒蜥蜴のメンバーに。
それぞれ森の采配でその役職につき仕事をしていた。
「闇に咲く花は闇にしか憩えぬ」
任務終わり、外の月明かりを眺めながら凜音は言った。
そこに近づいてきた紅葉が声をかけた。
「クフフ、好きじゃのぉ凜音や。そんなに気に入ってるのかえ?」
「姐さん。そうですね。いつまで太宰さんは、光の下にいれるのかなぁって思って」
太宰の居場所は幹部達と首領しか知らない。そして、幹部である凜音と紅葉は太宰が"探偵社"にいるということを知っていた。
「凜音は何故そこまで太宰の事を思う」
紅葉は凜音が太宰のことを嫌っていることを知っていながら、少し意地悪な言い方で聞いた。
「その言い方はとても嫌ですね。私はただ、龍に笑って欲しいだけ。その為に太宰さんは必要なんです」
「そうかえ。おっと、追加の任務じゃの。凜音をご指名じゃ」
「そうですね。では、行ってきますか」
表情を作って、人を助けるためにと探偵社で仕事をしていても、いつか必ず耐えられなくなる日がくる。
人間という生き物は、いつまでも道化のように生きることは出来ないのだから。
side太宰
凜音は異能である狼達を纏めあげ、自身も仕込み刀を持ち、敵を殲滅していく。
そんな姿から"狼使い"や"赤い死神"と言われていた。
(凜音ちゃんには似合わないね)
太宰は白い少年を目の前にしてそんな事を思った。
かつて自分が拾った子供の1人。
"操られた"母親に捨てられた子供。
太宰は彼女を拾ったあと、その母親について調べていた。そして見つけた情報にあった母親は子供を捨てるような人物ではなかった。
では何故捨てたのか。
それはある異能力者により操られていたから。
おそらくその異能力者は凜音の異能力が欲しかったのだろう。
しかし手に入れることは出来なかった。
なぜなら凜音は、芥川に保護され、その後ポートマフィアに連れていかれたからだ。
もちろん、その情報を手に入れた時点でその異能力者はポートマフィアの敵とみなし、殺した。
理由は単純。ポートマフィアを攻めてきたから。
そしてその母親はというと、無事異能による洗脳が溶け、娘を探し始めた。
しかし、母親は未だに娘を見つけることは出来ていない。
なにせ、母親は娘が異能力者だということに気づいていないのだから。
「あの、太宰さん。本当にここに虎が来るんですか?」
ふと白い少年、中島敦がそんな事を聞いてきた。
今は敦と人喰い虎を探していた。
そして、太宰は国木田にメモを渡し、探偵社の面々を集めさせ、外で待機させている。
なにせ、今探している人喰い虎は太宰の目の前にいるのだから。
だから太宰は敦の質問に来るよとだけ答えた。
それに対し、敦は焦ったようになんで分かるんですか!と質問してきた。
「敦君。君がヨコハマに来たのも、人喰い虎が目撃され始めたのも、同じ日だ。この意味が分かるかい?」
「何を言って....」
「人食い虎は敦くん、君なのだよ」
太宰が言い終わるのと同時に満月の光がちょうど敦のいるところを照らしはいじめ、敦の体は変化していった。
そして現れたのは、月明りに反射してキラキラと光る毛並みに敦と同じ珍しい朝焼け色の瞳を持った虎だった。
彼は、太宰と同じ異能力者だったのだ。
その虎は、太宰を見ると一気に襲い掛かってきた。太宰は間一髪で避けるも、虎の爪は並べられてあった箱を破壊していた。
その地面にも爪痕が見えることからその威力が計り知れるだろう。
「グルルルルルル!!」
「凄いなぁ。獣に食い殺される最後というのもなかなか悪くないが、君では私を殺せない。異能力『人間失格』」
壁際まで追い詰められた太宰は、なおも冷静に虎を見据え、迫ってくる虎に対して自身の異能力『人間失格』を使った。
『人間失格』とはあらゆる異能力を触れただけで無効化させる異能力だ。
異能力に対抗出来る最強の能力とも言えるその能力は、虎に触れた瞬間発動し、異能力が解け元の少年の姿に戻った。
少年敦は異能力が発動したショックで気絶していたため、そのまま太宰の胸元に倒れ込んできた。
「.....男と抱き合う趣味はない」
太宰はそう言って敦を離した。その後ろではコンクリートに顔から落ちた敦が変な声を出していた。
「太宰!!!」
「あぁ遅かったね国木田君。虎は捕らえたよ」
「まさか、この小僧が?」
「そう。虎に変身する異能力者だ」
「まったく.....」
太宰の説明を聞いて、国木田はため息を吐いた。
原因は国木田がポケットから出したらメモにあった。
「なんだこのメモは」
「十五番街の倉庫に虎が出る、逃げられぬよう周囲を固めろ。実に簡潔でいいメモだ」
太宰がメモを読みそう答えると、国木田は呆れたように、要点が抜けとる、次からは事前に説明しろと、太宰を論すように言った。
「おかげで非番の奴らまで駆り出す始末だ。後で皆に酒でも奢れ」
その言葉と同時に三人の人影が姿を現した。
それぞれ探偵社の与謝野晶子、江戸川乱歩、宮沢賢治だった。
「なんだい、怪我人はなしかい?つまんないねぇ」
「なかなかできるようになったじゃないか太宰。まぁ、僕には遠く及ばないけどねぇ」
「でも、この人どうするんです?自覚はなかったわけでしょ?」
探偵社の面々が好き勝手喋る中、賢治の言葉に国木田が返した。
「そうだな。どうする太宰?一応、区の災害指定猛獣だぞ」
「うふふ、実はもう決めてあるんだ。ウチの社員にする」
そう太宰が言った瞬間、突然目を開けられないほどの強風が吹いた。
それは一瞬のことで、強風が止んだのを確認し目を開けると、今までそこにいた敦が何処にもいなかった。
そして、先程までなかった別の気配がある事に気づいた。
「ごきげんよう。探偵社の皆さま」
その凛とした声が倉庫に木霊した。
声のした方に目を向けると、月明かりを浴び真っ赤な髪をなびかせ敦を横抱きにした女性が立っていた。
「この子は私達ポートマフィアが貰い受けます。それと、この子の異能を解いて下さりありがとうございます太宰さん」
「君は.....」
「あら?もしかして忘れてしまったんですか?無責任な人ですね」
太宰はその女性にとても見覚えがあった。忘れるはずもない。自分が拾った子供の一人なのだから。
しかし、他の探偵社の面々は乱歩を除いて訳が分からないという顔をして太宰を見ていた。
だが太宰はその視線を気にすることなく、目の前の女性を警戒しながらじっと見て、彼女の名前を言った。
「凜音ちゃん.....」
「あら、思い出してくれましたか。まぁ忘れられてても構いませんでしたけれど。時間がないのでこれで失礼します」
「待て!行かせないよ!」
「"ルツ"」
その場にいた探偵社の面々は太宰の声で気を取り直し、それぞれ彼女から敦を取り返す為に動こうとした。
しかし、凜音が一声掛けた瞬間それは叶わなかった。
なぜならそこに、大きな狼が5匹現れたからだ。
その狼たちは探偵社の面々を凜音に近づかせないよう牽制するように立っていた。
「ルツ。私が本部に着くまでその人達の相手をしなさい。殺しても構わないわ」
「グルルル」
ルツと呼ばれた他の狼より一回り大きい狼が凜音の指示に了承を示すように鳴いた。
それを合図に狼たちはそれぞれ動き出した。
"太宰さん。貴方の帰りをお待ちしています"
凜音は最後、激しい戦闘が行われている中、一言そう言い残してその場を去っていった。
「おい太宰!この狼達はさっきのポートマフィアの異能力なんだろう!何とか出来んのか!」
「国木田君。この狼達は彼女に触れなければ解除できないんだ。彼女が本部に着くまでの間このまま持ちこたえるしかないよ」
「クソっ!赤髪に狼達。聞いていた数よりは少ないが、狼使い、赤い死神か!」
国木田がこの場にある情報から彼女が誰なのか当てたようだ。
しかし.....
「数が少ないのは、彼女が5匹で十分だと判断したからだろう。後もう5匹は居るはずだ」
「俺たちの力をあわせても5匹の力に押し負けてる。狼という規格外の生き物だからか.....」
規格外の生き物。確かに狼は今は絶滅してこの世にいない。だからこそ狼の力を計り知ることは出来ない。
だが、太宰は知っていた。この狼達の力が増していることを。
当初はただ暴れるだけだったため対処は簡単だった。
だが今はどうだろうか。それぞれが連携して攻撃してきているため、逃げる隙さえない。
「ちっ、どうにかして逃げる隙が出来ないかねぇ」
「このままじゃ消耗戦になってしまいますよぉ!」
与謝野と賢治がそれぞれ狼の攻撃を躱しながら言った。
ここから本部まで車で行ったとしてもかなり時間が掛かる。
このまま押され続ければ、最悪死人が出る。
そう思った時、狼たちの動きが止まった。
そして、狼たちは何事もなかったかのように去っていった。
どうやら戦闘に夢中になりすぎて時間を忘れていたようだ。
既に深夜と言ってもいい時間になっていた。
「終わっ....た」
「ふぅ。あんなのを相手にしなければならないとは、もっと力をつけなければ」
戦闘に夢中になりすぎて時間を忘れていた。つまり、狼たち達は他のことを気にする暇さえ与えなかったということ。
もしあれが10匹だったらと思うとゾッとする。
「あんな奴らの相手、妾は二度とごめんだね。ところで太宰。さっきの子......」
「与謝野先生。その話はまた後で」
「.....そうかい」
後ろで隠れていた乱歩以外はみんな、今の戦いで憔悴しきっていた。
乱歩は推理を担当としているため、戦闘に参加することはないのだ。
「お疲れ様ぁ〜」
「乱歩さん。お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。それより太宰、早くお前とあの女性との関係を話した方がいいんじゃないの?」
「あぁ。乱歩さんの言う通りだ。話してもらおうか、太宰」
国木田が乱歩に乗って太宰に話を促した。
しかし、太宰は疲れたから明日話すよ、と言ってそそくさと帰ってしまった。
side凜音
少し時間をさかのぼり、太宰たちが狼と戦っている頃。凜音はというと、迎えに来させた車に敦とともに乗っていた。
しばらく走っていると、敦が目を覚ました。
「んっ........あれ、ここは?」
「おはよう敦君。気分はどう?」
起きたばかりでまだ状況が把握出来ていない敦に、声をかけると、やはりびっくりした顔をして、誰なのか聞いてきた。
「私は結城凜音、ポートマフィアよ。単刀直入に言うわ。敦君、ポートマフィアに入らない?」
「えっ........?」
「私たちは貴方の事を歓迎するわ。どうかしら?今帰る宛てもないでしょう?」
「マフィアが、どうして僕なんかを?」
自分の今の状況が分かってきたのか、冷静に聞いてきた。
確かに、彼からすれば不思議な話だろう。
孤児院から出たばかりの自分を何故マフィアが勧誘しているのか。
実際、当初は敦を懸賞首として捕らえる予定だった。しかし、首領が敦の異能力に興味を持ち、ポートマフィアに入れる方が合理的最適解だと判断をした。
「異能力というのは知ってる?」
「い、いえ」
「異能力というのは、少数の人間が持つ不思議な力のこと。そして、不思議な力を持つ人の事を異能力者というの。君もその一人なのよ。自覚はまだ無いようだけれど、孤児院を追い出された本当の理由は、敦君が虎に変身するからよ」
「僕が異能力者?そんなはずは........」
「敦君に自覚がないのはそこの院長のせいね。ずっと周りや敦君にバレないようにしていたけれど、結局周りにバレて、追い出すしか無くなったんでしょ」
敦のことは事前に調査していた。
敦は孤児院で育ち、虐待を受けていたようだ。院長曰く躾だということだが、これは立派な虐待だ。
とにかく、敦は孤児院でかなり酷い扱いを受けていたようだ。
こんな環境では異能力の制御どころか制御出来ずに暴れてしまうのは当然だろう。
異能力に詳しくないただの人間が、異能力者を育てようとしたからこうなったのだ。
恐らく、ヨコハマで狙われるようなことがなかったら、敦はこのまま軍警に捕まり、処刑されていたかもしれない。
「もし、私たちの誘いを断れば、勿論敦君の気持ちを尊重するわ。でも、制御出来ずに暴れ回って、軍警に捕まって処刑されるのがおちね」
「そうな!制御の仕方なんて知りません!」
「だから、ポートマフィアに入らない?って誘っているのよ。ウチに入れば制御訓練もある。多少の荒事もあるけど、入ったばかりでそんな仕事はまず任されないわ」
「でも、人殺しは........」
「そんなこと言っていたら、敦君が死ぬわよ。ヨコハマは異能力者にとって、安全でもあり危険な場所でもあるの。懸賞金がかけられているのだから尚更危険よ」
「僕は何もしてないのに!?」
「何もしてなくても懸賞金をかけられることはあるわ。さぁ、もうすぐ本部に着くわ。勧誘を受けるのか、受けずに死ぬのか。どっちにする?」
これは敦にとっては選択肢は無いに等しい。
生きたい敦は、受けずに死ぬ方を選ぶことが出来ないのだ。
実際、死ぬかどうかは運次第だが、生きる確率は低いだろう。
ここは既にポートマフィアの領域内だ。こんな所で彷徨っていれば殺されるのは確実だ。
そして、敦は決断した。
「分かりました。ポートマフィアに入ります」
「えぇ。ポートマフィアへようこそ、敦君。さぁ、着いたわ。ここがポートマフィアの本部よ」
そう言って凜音は敦の手を引き車を降りた。
そこにあったのは幾つも建った高層ビルだった。
まるで闇に溶け込んでいるような、そんな雰囲気を纏ったビルはある意味異質だった。
「さっ、まずは首領の所に行きましょう」
「え......?」
「敦君は私の勧誘を受けてくれた。挨拶に行かないといけないでしょう?」
「は、はい」
「緊張しなくてもいいわよ。私がいるから」
敦は、今まで感じたことの無い空気が漂うここに不安を感じていたが、私がいるからという言葉で少し落ち着くことが出来た。
これからはここが、敦の住む世界だ。
暗く深い闇に覆われた世界。けして光が差し込むことはない。
一度入ってしまったら二度と出ることの出来ない闇。
彼はそこに足を踏み入れてしまったのだった。
NEXT→
━━━━━━━━━━━━━━━
<設定>
【結城 凜音(ゆうき りんね)】
狼を操り、仕込み刀で敵を切る。彼女の与える死から逃れることは出来ない。そんな姿から狼使い、赤い死神と呼ばれている。
ポートマフィア幹部
芥川の為なら何でもする
【中島 敦】
凜音の勧誘を受け、ポートマフィアに入る。
孤児院育ち。
【ルツ】
狼たちの纏め役。
他の狼より知能が高く人の言葉を理解することが出来る。
凜音の命令は絶対。
太宰嫌い。
━━━━━━━━━━━━━━━
<後書きみたいなやつ>
最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
かなり遅い投稿となりました💦
次の投稿はなるべく早めにしたいと思います。
最近は寒くて布団から出られない日々。
そういえば、クリスマスイブらしいですね(❁´ω`❁)
イルミネーションとか見てみたいなぁ〜
とまぁこんな感じで、ご意見ご感想を良かったら聞かせてください(❁´ω`❁)
また次回お会いしましょう!
2/2ページ