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過去/出逢い


「おきつねさまは“かみさま”じゃないの?」

そう純粋な目で問いかける子に、私は答えることが出来なかった。


とある神社の鳥居のそば、私はいつもそこに居た。
私はこの神社に置いてある狐の石像…そう私は認識している。
確かに“そこ”から景色を見た記憶はあった、けれど気がつけばその狐像の隣に私は居た。
緑色の見た事のない毛色、長くて大きい尻尾、そしてすりガラスに映る姿はそこにある像と同じ姿だった。
何故私が実体をもつことができたか分からないけれどそれからも私はずっとそこで景色を眺めて過ごしていた。
一日に一人、二人足を止める程の神社で。
そんな風に過ごしていたある日、道に迷ったであろう小さな子と目が合った。
私はすぐ姿を隠したのでその子の姿はよく見えなかったけれど少しして大人の女性が「将太」と呼ぶ声と同時にこんな声が聞こえてきた

「ねぇ!僕かみさまを見たよ!」

「神様?」
「うん!毛がみどり色のきつねをみたんだ!」
「きつねの毛はきいろでしょ?だからあれはきっとここにいるかみさまだよ!」
「…もし、本当にそんな狐が居たらそうかもしれないね」
「やっぱり!」
「じゃあその神様に挨拶して帰ろうか」

そう言って親子は神社で御参りをして帰って行った。

「神様…」

神社は御参りをする場所なのだからそう思うのも無理はないし前にも御賽銭箱の前で御参りをした後に“私”に手を合わせて行く人も居た。
でも──────
「私にそんな素晴らしい力はない」
もし神様のような存在だったらどれ程良かっただろうか、ただここに居ることしか出来ない存在じゃなければ。


それからその少年はよく神社へ来るようになった。
その日あった出来事などを“私”に話して必ず帰りに御参りをして帰る。
それが何日か続いて段々と神社へ来る人が増えてくるようになった。
参拝客の話に耳を傾けてみると
「狐の神様が居る」
という噂が広まって参拝客が増えていた。
そして“私”に手を合わせて行く人も増えた。
そんな中私の 何も出来ない という罪悪感も大きくなっていった。


少年が神社に通うようになって数十日、朝起きると私は人の姿になっていた。
酷く暑い夏の日だった。
その日、いつものように神社に来た少年が帰ろうとした時「ガタン」と私のすぐそばで大きく音がした。
「誰…?」
二度目の出会い、今回は姿が変わっていたのもありその場を離れることが出来なかった。
「もしかしておきつねさま?」
「おきつね…さま?」
「うん、誰かがきつねのかみさまだからおきつねさまだって、言ってたから」
「僕ね、おきつねさまに会ったら叶えて欲しいことがあったんだ」
そう私が言葉を発する隙も与えず少年が言葉を続ける。
「もう一回だけでいいからお母さんに会いたいんだ」
「お母さん…?」
「うん、僕のお母さん一年前に病気で死んじゃったんだ」
「だけどどうしてもお母さんに伝えたいことがあるからもう一回だけ会いたいの」
「おきつねさまにならお母さんに合わせてくれるかなって」
「っ…」

「おきつねさまは“かみさま”じゃないの?」

「…あ…そ、れは…」

時間が、ゆっくりと流れてゆく
何も言葉が出てこなかった
“神様”なんかではないと、君の思うような存在にはなれないと

「将太ー?居る?」
「お姉ちゃんだ、おきつねさま僕もう帰らないと…また来るね!」
そう言って少年はかけていった。

それからしばらく雨の日が続いた。
そしてその少年が神社を訪れることは二度と無かった。


人の思いとは移り変わるのがあっという間だ。
数ヶ月もすれば元通りの参拝客数となり、それも今ではめっきり訪れることはない。
参拝客が途絶えてから数十年、一度だけある少年がここへ通って私と会って話してくれていた時期があった。
けれどその少年もまた、遠くへ行ってしまった。
この神社ももう随分古くなってしまった為今度取り壊されることになった。
私がどうなるかは分からないけれど、もし次があるとするなら…
「ひとりぼっちは寂しいな」



『ねぇ、良かったら夜光館へ来ない?』
「夜光館…?」
『そう、幽霊や妖怪、そして勿論人間も』
『沢山の人ならざるものや人間の居場所となれる場所』
「居場所となれる…」
「こんな私でも、ここに居ていいのかな」
『勿論』漢字ふりがな漢字ふりがな漢字ふりがな
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