【クロロ・ヒソカ】二人と旅する夢(長編/1章完結)
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ヨークシンシティの夕刻は荒れていた。
台風が直撃した影響で天候はすこぶる悪い中、ユリの仕事用アカウントに予期せぬメールが1通届く。
差出人は幻影旅団のボス、クロロ・ルシルフルという男。
依頼内容は書かれていないが、あと1時間後にユリの家へ来るとのことだった。
唐突な出来事に困惑するも、スケジュールが空いていたため承諾の返信を済ませる。
気乗りはしないが、接待の準備をしようと場を整えはじめて気づいた。
客人を持て成すようなお茶菓子が無い。
しかし、生憎な天気のためわざわざ買いにいく気もおきない。
向こうが突然来るのだから多目に見て貰うべきだと考えながら、ユリは不測の事態に備えがなかった自分を正当化した。
時計を一瞥し、そろそろ来る頃かと思ったその時、突如リビングの窓から風が吹き込み黒のコートを着たオールバックの男が姿を現した。
異質な空気の中、先に口を開いたのはユリだった。
「窓から来たお客様はあなたが初めてよ、いらっしゃい。ここのセキュリティーはかなり高いのですけど、いかようにして掻い潜ってきたのかしら?」
ユリの住むハンター専用マンションはかなり高度なセキュリティーを積んでいた。
それを易々と突破されてはマンションの信用問題に関わるのだが、目の前の男はあっけからんとして口を開く。
「愚問ですね。俺の生業を知らないわけではないでしょう?……初めまして、ユリさん」
クロロの話し方は柔らく落ち着いており、 A級首の盗賊というイメージからは意外なギャップがあった。
しかし、隙の無い立ち振舞いに幻影旅団を束ねる長の影を感じ取り、気を引き締める。
「……噂通り凄腕の盗賊さんですね。けど、次は玄関から来ていただけると助かります。床が汚れてしまうので。──こちらへお座りください」
端から見れば、この状況で玄関について指摘する様子はシュールなのだが、当の本人は冷静に客人をソファへ促して向かいに座る。
ユリは早速依頼について切り出した。
「いきなりで申し訳ないけど、今回の依頼について詳細を聞かせてくれますか? 受けるかはその後で判断させて貰います」
クロロはコートから依頼の詳細を記載した紙を出し、ユリに見せながら問いに答える。
「まずは結論から。俺は今とある念で力を制限されています。それ故に、除念師と会うまでの護衛をお願いしたい。報酬は100億J。いかがですか?」
提示された条件だけを見るのであれば、あまりに良すぎる。
何らかの裏を感じざるをえない。
ユリに幻影旅団の頭であるクロロの護衛など、単純な己の力量だけでは勤まらないとわかるため、疑いの目を向ける。
「100億J払っても護衛が欲しいなんて、あなたも大変なのね」
ユリは少しの間考えると、疑念の核心を言葉に落とし込んだ。
「あなたほどの手練れなら見ればわかるでしょうけど……。私は、力を制限されているあなたより弱いですよ。それでも依頼するメリットがそちら側にあると?」
ミュージックハンターである彼女は、ハンターでありながら戦闘とはほとんど無縁の世界で生きている。
ハンター試験を合格して念を習得した頃であればそれなりに力はあったが、音に宿る念で人々を癒し、救う仕事に従事してからは体力が落ちていった。
それなりに力がある者なら、ユリと相対すれば身体能力の低さは一目瞭然である。
それでも、護衛を依頼するからには何らかの理由があるのだろう。
「そうですね、今の俺でもあなたより強いのは確かです。しかし、何かで傷を負えば治す術はありません。同胞のため、まだ死ぬことは許されない。わかっていただけますか?」
「──なるほど」
どうやら真剣に治癒能力を欲してるらしいが、ユリは半信半疑に生返事をする。
「まだ納得できないという感じですね」
「えぇ、まぁ。治癒能力を持つ人なら他にもいるでしょう? 悪いけど今回はお引き取りください」
ユリは依頼を引き受けなかった。
その理由は、人が本心を隠すときに滲む違和感をクロロから感じ取ったからだ。
同じミュージックハンターであるセンリツと過ごす内に鍛えられた観察眼と勘は、かなりの精度に達していた。
その様子を見てとったクロロは諦めたような口調で話す。
「そうですか、それは残念。──とでも、言うと思いましたか?」
クロロの纏っていた空気が、一瞬にして殺気あるものへと変わる。
力を制限されて尚、逆らった者へ死を覚悟させる恐ろしい力の差。
これが幻影旅団の団長なのかと、ユリの頭はやけに冷静だった。
──欲しいものは、全て奪う。
クロロは蜘蛛の団長としての言葉を呟いた。
団員と離れながらも、その立場を確かめるように。
──否、正確に言えば今回は……。
「拐う──」
次の瞬間、クロロはユリを抱え窓から飛び降りた。
外はハンター専用の高度なセキュリティーが張り巡らされているのだが、意図も容易く罠を交わし逃げて行く。
その影は西の空へと沈んでゆき、ヨークシンの街から姿を消した。
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