【クロロ・ヒソカ】二人と旅する夢(長編/1章完結)
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【クロロside】
「ごきげんよう。いい朝ね」
「今は? ……7時か」
暗示をかけられた後、ついでに彼女の
とはいえ、夢を見る程度には浅いようだが。
最後、まともに寝たのはいつだったか? 思い返したところで、記憶にないほど昔だと気づいた。
「その様子だと、よく眠れたようね。よかったら、珈琲でも淹れましょうか?」
「……どうも」
余計な世話だとは言えなかった。暫く、彼女が作業してる様を観察する。無駄のない手つきでエスプレッソを注いだユリは、見るからに熱いそれを持って、オレの前に差し出した。
「冷めないうちに、どうぞ」
無言でマグカップを受け取り、香りを確かめる。違和感はない。一口
一先ず問題ないと踏んだオレは、そのままカップの半分ほど珈琲を煽った。
薄らぼやけている脳も、これで少しは働いてくれるだろう。
まさか言えるわけもないが、プリンでもあれば最高だと頭の隅で考えながら。
「で、どんな夢を見てたの?」
口角を僅かに上げ、愉しげな表情を浮かべたユリが訊いてくる。
オレが一息ついた隙をみて、厄介な奴だ。詮索するなと間接的に伝えたところで、引かないだろうな。
「素直に教えてやると思うか?」
「言ってみなきゃ、わからないでしょう」
「…………」
想定通りといえばそうだが、こいつの図々しさは一級品だ。
だが、それでも未だにユリが生きているということは、オレに殺されない
彼女は好奇心を目に宿して再度尋ねてきた。
「
オレは馬鹿かと、思わずため息が漏れる。いくら意識が無い状態とはいえ、気の緩みとは恐ろしいものだ。
呑気に寝ていた数時間前の自分を殴ることができれば、一発噛ましていただろう。
「ねぇ。言えないような疚しいとこに帰ったの?」
「ユリ。少し黙れ」
言い過ぎたかと一瞬考えるが、こいつの精神はそれで折れるほど柔じゃない。
「……悪かったわ。もう、詮索しませんから」
つまらなそうな表情で、悪びれもせずよく言えたものだ。
だが、このまま早々に諦められても退屈だな。厄介だと感じるそれと相反していることは、重々自覚しているが。さて、ここでエサをやったら──。
「そう不貞腐れるな。そんなに聞きたいか?」
「……え!?」
見事、食らいついたことに微かな優越感を覚え、不思議そうに首を傾げたユリを軽くけしかける。
「どうした? さっきまで、あれほど気にしていただろ」
「いや、だって話したくないのかと思って……」
「気が変わった」
エサを撒いた動機に、それらしい理由は無い。言うなれば、面白そうだと思ったからだ。大概、人間なんてのはそんなモノだろう。
矛盾との共存。正義と犠牲が対の一つであるように、それが世の理だとオレは考えている。
「じゃあ、もう一度訊くわ。クロロさん、貴方はどこに帰ったのかしら?」
何が気に入らなかったのか、ユリは皮肉めいた返しで焚き付けてくる。態度に出やすい
ならば、オレも敢えて言ってやろう。そのまま実直に。……腑抜けた顔をするんだろうな。
「ヨークシンで、ユリを見かけた日の夢だ。──記憶の整理とは不思議なものだな。競売品を盗んだ記憶が抜けて、それにも関わらず妙に辻褄が合っているような気さえする。帰ったのは、その時、活動の拠点にしていた場所だ」
「それと、もう1つ。あの日、貴方の未来を予言させてもらった。とある娘から盗んだ能力でな。他の団員も占ったから、書の記述までは覚えてないが。あぁ、オレ自身の予言であれば、娘に貰ったまま残っているか」
「──”きっと、待ち人に会えるだろう。” ……なるほど、そうか。待ち人とはユリのことか? 言い得て妙だな。これでいくと、オレは良き迎え人というわけか」
ここまで、想像通りの顔をして聞き込んでいたユリだが、最後の言葉を聞いた途端に表情が険しくなった。
──なんだ? とりわけ、変なことを口にした覚えはないが。どこか物申したそうに、ユリが口を挟む。
「あのね……。私も、『そう』と手放しで言ってあげたいところだけど。一部、訂正させてちょうだい。良き迎え人なんて、どこからそんな自信が湧いてきたのかしら? 悪魔か死神のほうが、貴方には合っているわ」
ユリが苦言を呈すると同時に、コートの裏から紙がもう一枚はらりと床に落ちた。その紙を拾った彼女が、オレに手渡して呆れたような口調で話す。
「クロロさん。貴方、良き迎え人どころか、”行き場の無い客”よ? あまり、自惚れるのはオススメしないわね」
「それを言うなら、悪魔とも死神とも書いてないだろう? 貴方こそ、オレの評価を見直したほうがいいんじゃないか」
水面下で、見えない火花が静かに舞った。
──あぁ、これは困ったな。生憎、こちらが忖度できるような言葉は持ち合わせていないんだ。
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