【クロロ・ヒソカ】二人と旅する夢(長編/1章完結)
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【旅団side:過去編】
──それにしても、派手にやられたな。全く、侮れないジイさんだ。
暗殺家業で有名な二人の刺客を相手にしたクロロは、普段にない体力の消耗を感じていた。
破けたスーツは当初の原型を成しておらず、体には無数の傷跡が色濃く残り、血が滴り落ちている。
しかし、彼はその容態を気にする素振りも見せず、携帯を手に取ると団員に一報入れた。
「オレだ。救急車は襲うな。──後は、手はず通りに」
ライト=ノストラードの一人娘、ネオンが乗る救急車を逃がしたのは、情が移ったからではない。
もし団員が彼女を殺してしまえば、《
能力を無事奪い、ネオンの安全も確保させたところで、彼は団員が集う場所に足を向けた。
「お、団長だ……!! ──あぁ、これはまた酷い傷だね」
クロロの傷を見たシャルナークが目を丸くする。
続いて、その横にいたフェイタンが口を挟んだ。
「大した奴ね。団長とまともに
「あのゾルディック家の当主と、ジイさんが相手だったからな。"生涯現役"の人生訓は、伊達じゃなかったというわけだ」
言いながら肩を竦めるクロロ。深手を負っているにも関わらず、その佇まいはどこか余裕を滲ませている。
「二人とも、ちょっと
念を糸状に変化させたマチが、颯爽とクロロの元へ駆け寄った。
結い上げた髪を靡かせ、彼女はシャルナークとフェイタンの間に割って入る。
「ヤバそうなとこ、縫うよ」
「──頼む」
傷口の状態を確認すると、肌・神経・筋肉・血管それぞれの繋ぎ目をイメージして、集中するマチ。だが、念糸縫合をしようと構えたその手が止まる。
視線の先には、電話をかけながら「どうして繋がらないの!」「もう、早く出てよセンリツ!」と慌てふためく女の姿。
マチは、持ち前の鋭い勘から"凝"で目にオーラを集中させるとつぶやいた。
「あれ、念の使い手だね」
地下競売が行われるビルの裏口付近に立っているその女から、背負っている楽器のカバーケース越しに纏っているオーラを目視する。
オーラで楽器全体を覆い、更に"隠"で加工しているのだろう。
「この辺に居た奴、全員
不思議そうな表情で問いかけるシャルナーク。彼の後ろにいたフランクリンが答えた。
「オレらが暴れた後に来たってことだろ。楽器
少し間を空けて、フィンクスが腕を軽く回しながら話す。
「どっちにしろ
「──待て。まだ殺すな」
「あ゛!?」
女を殺そうと、動きかけたフィンクスは面食らう。制止させたのはクロロだ。
その様子を見たフェイタンが、顔を覆い隠したまま不適な笑みを浮かべて煽った。
「団長、アイツの能力盗む気ね。見ればワカるよ」
「んだと?」
「ま、フィンクスがバカなのは今さらだたね」
「こいつッ……!!」
仲良く小競り合いをする二人に、やれやれといった仕草で、シャルナークが仲裁に入る。
「まぁまぁ、落ち着いて。使える能力かわからないし、まだ様子見ってとこじゃないかな」
「なるほど、わかたね」
「テメェもわかってねェだろうが!! フェイタンよォ……!!」
フィンクスが一括する。棚にあげて語っていたフェイタンは、ふいっと顔を横に逸らした。
その間、女のほうは電話を鞄にしまい、「誰か助かる人がいるなら……」「形振り構ってられないわ」と何やらつぶやいて、背負っていた楽器をケースごと丁寧に床へ置く。
そのまま近くのベンチに腰を掛けると、女はグランドハープを具現化させた。動向を観察していたマチが問いかける。
「置いたほうのやつ、何かのスペアかな……?」
「いや、具現化系ならわざわざスペア持ち歩くのは不自然だろ。それに、念で覆ってまで壊したくない代物だ。あいつの持ち物じゃないってことも考えられるぜ」
フランクリンが考察を交えながら答える間に、女はハープに手をかけて弦を弾いた。辺りに透き通るような音色が響く。
それを聴いたシャルナークが、警戒するような面持ちでマチに尋ねた。
「これ、耳塞いだほうがいいやつかな?」
「嫌な感じはしないけどね。なんか、落ち着くし……」
マチの感覚は当たっていた。この演奏に、聴いた者を攻撃するような驚異はない。
目に見える現象といえば、クロロの傷口が完治して塞がっていることだ。
最初に気づいたのは、先ほど念糸縫合をしようと手を止めていたマチだった。
「ねぇ、これ見て!! 団長の傷が治ってる……!!」
「治癒能力、便利じゃねェか。──あれ、盗むか?」
フランクリンがクロロに聞く。だが、クロロは首を横に振りながら答えた。
「これは無理だな」
「どうしてだよ!! あれ手に入れりゃ、ウボォーみてーな奴が減るかもしれねェだろうが」
疑問を呈したのは、今しがた合流してきたノブナガだ。
彼は訝しげな表情をクロロに向け、納得いかないから説明しろと、目の奥で語っている。
「ノブナガ、それは違うな。あいつは鎖野郎に捕まって
「まぁ、言っちまえば、そうだけどよ……」
言葉尻を濁したノブナガへ、クロロは更に説明を続ける。
「話を戻そう。仮にオレがマチの念糸を奪うとする。だが、その糸を操る技術を極めてはいない。あの能力も、それと同じ類いということだ」
「……ほう?」
「シャルの《
「なるほど」
「とはいえ、使いこなすまで時間をかければ別だが。技術の積み重ねで完成度が変わるタイプの能力は、《
クロロの解説が終わると、シャルナークが一言、簡潔にまとめて締め括る。
「つまり、盗んで一番使い難いのは強化系だね」
「ウボォーはよぉ、グーパンチだけで最強だったからなぁ……!!」
今は亡き友人、ウボォーギンに想いを馳せるノブナガ。
不思議と、この演奏を聴いていると、心の
そんなノブナガの心情を余所に、先程の話を聞いていたフランクリンが、クロロに提案する。
「団長が盗むの無理ってんなら、
「そうだな。完治させられるほどの治癒能力者は、逃すに惜しいのも事実だ。戦闘には使えないだろうが、回復要員として引き入れるか。お前らはどうだ?」
「おい、待ってくれよ。
そうこう話している内に、女は演奏を終えて、自身が具現化していたハープを消した。
すると次の瞬間、事切れた人形のように、ベンチに臥せって倒れ込む。
女が使った治癒能力の制約と誓約を彼らが知る由もないが、かなりの重症であることは明らかだった。
それを見たマチが、ため息混じりに団員へ問いかける。
「あれじゃ、交渉できそうにないね。──どうする?」
「まぁ、放っておけばいいんじゃない? 死んではなさそうだし。演奏家なら、ハンターサイトで探せばすぐ特定できるよ」
ハンターライセンスを持つシャルナークが答える。
他の団員はそこまで興味が無いのか、飽きた素振りで不満を口にした。
「それより団長、早くアジトに戻ろうぜ」
「賛成。ワタシも
「──そうだな。シズクの掃除と、パクの捜査も終わる頃だろう。合流して帰るとするか」
クロロは団員の意を汲み、治癒能力者の女に背を向ける。
『幕間劇に興じよう
新たに仲間を探すもいいだろう
向かうなら東がいい
きっと待ち人に会えるから』
ベンチに臥せっている彼女が住むマンションは、彼らの拠点から見てちょうど東に位置する場所にあった。
一度は見殺しも同然にした彼女こそが、後々に占いが示す"待ち人"となるのだが……。
そのことにクロロ自身が気づくのは、まだ先の話だった。