【クロロ・ヒソカ】二人と旅する夢(長編/1章完結)
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ユリの演奏が終わり、辺りの景色が徐々に現実へとシフトしていく。
二人の記憶は一部欠け、脳にモヤがかかったように思い出せない気持ち悪さが後を引いた。
しかし、互いにそれを気にする様子もなく、何事も無かったかのように平然としている。
まだ幻想の余韻に浸りながら、先に口を開いたのはクロロだった。
「なるほど、こうなるのか。条件次第では使い道があるな。──なぜ黙っていた?」
「機会が無ければ、あえて話すことでもないでしょう? ていうか、他でもない貴方がそれを言うかしら。私はクロロの能力なにも知らないのに!」
自分だけ隠して狡いと言いたげにユリは語気を強める。
クロロは口の端を吊り上げて言った。
「それもそうだな。悪かったよ、話してやるから機嫌を損ねるな。──オレの能力は
「……あ、なんていうか──盗賊らしさの塊みたいな能力ね?」
「言葉を返すようだが、オレが盗賊以外の何かに見えるか?」
「……見えないわね」
クロロの能力を聞き、動揺したユリの額に汗が浮かぶ。
他人の能力を盗むための条件はどんなものか?
もしや既にクリアしてしまったのではと、憶測を立てて案じるユリ。
そんな心情を察したかのように、クロロが口を挟んだ。
「安心しろ。今はユリの能力を盗むつもりはない。その必要もないしな」
「それは、私が団員になる予定だから?」
「いや、団員でも必要であれば盗む。その必要性が今は無いだけだ。何度も言わせるな」
「……」
合理主義者の正論に圧倒され、無言になるユリ。
場の空気が固まったことを感じたクロロが、雰囲気を和らげようと、先程見た幻想について口にする。
「──それにしても、あの情景は憂悶聖女か。昔、流星街で読んだことがある。懐かしいな」
「へぇ……? 流星街にも、童話とかあるのね」
「あるよ。読み捨てられた本なら山のように。──曲は初めて聴いたけど、クラシックとは違うな。ユリのオリジナル?」
そう問われ、ユリも過去の記憶を手繰りながら答える。
「いいえ。──確か、メルヒェンという
「覚えておくよ。今度聴いてみる」
思えば、親友のセンリツと出会ったのもそこで働いたのがきっかけだった。
フロアの人達からは、「センリツが吹く日は客足が伸びる」と言われるほど、彼女の
人気の理由は、その演奏もさることながら、当時の彼女が人目を惹く美人だったこともあるだろう。
コバルトブルーのイブニングドレスが、容姿端麗なセンリツによく映えていたのを思い出す。
「ねぇ、クロロは『闇のソナタ』って知ってる?」
「闇のソナタか。魔王が作曲したとされる独奏曲だと聞いたことがある」
「さすが博識ね。私、その楽譜を探しているの」
「訳ありか?」
「えぇ、まぁね……」
言葉を濁すユリ。
とある日の悲惨な出来事が想起され、本人さえも気づかぬ内に、自然と目が潤んでいた。
クロロはユリの目元に指先を近づけると、溢れ落ちそうな涙を拭って問いかける。
「独奏曲を弾いた者には災いが降りかかるというが、その様子だと噂は本当らしいな」
「あ、ごめんなさい……。私、こんな話をするつもりじゃ……」
いつの間にやら泣けてきたことに、恥ずかしさを滲ませて謝るユリ。
「気にするな。身の上くらい話せばいい」
「でも、つまらないでしょう……」
「人の
普段はあまり人に過去を話さないユリだが、クロロに言われると、不思議と話してみようかという気になる。
「……いい趣味してるわ。話すと長くなるけど、言ったこと後悔しないでよね」
「無論、そのつもりだが」
真剣な顔つきで答えるクロロ。彼に、皮肉は通じない。
諦めたユリは、過去を振り返りながらぽつりと語りはじめる。
「3年前、まだ学生やってた19歳の頃ね。先輩が偶然闇のソナタを手に入れたの」
「そんな曰く付きの代物、よく見つけ出したものだ」
「ほんとにね……。
「だからこそ、演奏できたというわけか。念の存在を知っていれば少しは警戒しただろうな」
クロロの言葉に頷いて、ユリは続きを話す。
「それで、手に入れた記念に吹くから来ないかって誘われて……。
「ユリが来るより先に、譜面をさらっていたということか」
たったの1章節、譜面をさらうだけで災いが起こるなど、いったい誰が信じるだろうか。
むしろ、学生が浮かれて練習するには、ちょうど良いネタだったのだ。
ユリは、更に記憶を辿りながら語る。
「私は消防機関へ連絡して、必死に助けを求めたわ。すぐに警察と救急車が到着したけど、病院に着いた頃にはもう手遅れ……。でも、隣で聞いていたセンリツのほうは息があったの」
そこまで聞いて、クロロの頭にふとノストラード組のメンバーが過る。
──鎖野郎と行動を共にしていたあの仲間。確か、センリツと言ったな。……世間は狭いとよく言ったものだ。
しかし、彼女と一時敵対していたことは口にせず、クロロはユリの話に耳を傾けた。
「でもね、搬送先の医者ではどうにもならなくて、ハンター協会から
「生き延びただけマシだろうな」
「ほんとに……。センリツまで死んでしまったら、私は今頃、立ち直れていなかったでしょうね」
想像したユリの心に悲しさが込み上げ、喉の奥でぐっと堪える。
「それから私とセンリツは、闇のソナタを潰そうと固く決意したわ。そんな私達を見て、ジンさんが言ったの。そんなに魔王の楽譜を葬りたいなら、ハンターになれって」
「チードルさんは最初反対してたけど、色々教えてくれるようになって、私達はハンターを目指すことにしたわ。もう二度と、同じ悲劇を繰り返さないために」
「正規のルートじゃ手に入らない情報や、通常立ち入れない場所も、ハンターなら行ける。それを考えるだけで、私達にはモチベーションになった。あの時、二人が組んでくれた特訓のメニューは本当に厳しかったけど、全くの素人が試験をクリアできるレベルまで強くなれたの。だから、チードルさんとジンさんには、本当に感謝しているわ。」
話の合間に、クロロは相槌を打ちながら珍しく慰めの言葉をかけていた。
しかしユリは、自身の感情を堪えて話すことに精一杯で、彼がどんなことを言っていたのか気にする余裕もない。
もう少し覚えておけばよかったなぁと、ぼんやり思い返しながら話を終えた。