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【クロロ・ヒソカ】二人と旅する夢(長編/1章完結)

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デフォルトの名前はユリです

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デフォルトの名前はユリです


「あ……。私、生きてる──」

カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ましたユリは、起き抜けに自身の頬をつねり、夢ではないことを確かめて安堵する。

──あれ?

ふと部屋を見渡すが、クロロの姿は無い。

──また、今度はどこへ行ったのやら。

疑問に思うも、一先ずシャワーを浴びようと、ユリはバスルームに足を向けた。
念のためコンコンと扉をノックするが、中からクロロの反応は無く、そのままバスルームに入りシャワーの蛇口を捻る。

──はぁ、昨日は死ぬかと思ったわ。首を絞められた痕も残ってるし、自己治癒しておかないと。でも、メンタルの方は意外と落ちてないわね。トラウマになるよりはいいかしら。

考え事をしている内に洗い終わり、バスルームを出て着替えると、スキンケアからメイク、ドライヤーまで──朝の身支度を一通り整える。

──少し、外の景色でも眺めようかな。

すっかり通常モードになったユリがバルコニーへ出ると、先程から姿が見えないと思っていたクロロが佇んでいた。
物憂げに遠くを見つめているだけで、一枚の絵になりそうな雰囲気だ。

「ずっと、ここにいたの……?」

少し俯いて頷くクロロ。

「あぁ、少しばかり頭を冷やしていた。……貴女こそ、昨夜あれだけの辱しめを受けながら、よく平然としていられるものだ」
「あら、その様子だと罪悪感でも出てきたかしら? 似合わなくて、なかなか笑えるわ」

皮肉を込めて言うユリ
クロロは苦笑して呟く。

「罪悪感か。案外、いや──これがそうかもな」

一夜だけの関係など、いつものクロロには取り留めの無い事。
さして気にするわけでもなく手を出したわりには、珍しく重い感情が残った。
それは、相手が仲間である故なのか──。
考え込むクロロを見兼ねてか、ユリが声をかける。

「そう深刻にならなくてもいいのよ。他でもない私が許すわ。昨夜のことは無かったことにしましょう」

その提案は、クロロにとって不思議と受け入れがたいものだった。
まだ、罰せられて悪態をつかれたほうがましだとすら思えるほどに──。

「悪いが、それは聞けそうにない」
「そう? 意外と繊細なのね。今なら、お互い記憶ごと封印できるのに、残念だわ」

意味ありげな物言いに、クロロが質問する。

「……どういうことだ?」
「言ってしまえば自己暗示ね。ハープの癒しとは違う、私のもう1つの能力──暗示をかけるバイオリンよ。具現化系統を基盤にして、操作系の能力を複合させたものなの」

クロロは真剣に話を聞いている。
ユリは説明を続けた。

「具現化した特殊なバイオリンに、念を込めて弾くことで暗示をかけられるわ。最大人数は自分を含めた二人まで。互いの同意があることが条件よ。反抗している相手まで、無理に暗示をかけることはできなかったの……。それに、調子がいい時しか発動できないから、恥ずかしいけど中途半端なものよ。操作系の能力は相性が悪くて困っちゃうわ」

──条件付きでなんとか運用しているといったところか。だが、使い方次第では便利な能力だな。

説明を聞きながら、どのように活用するのがベストか思考を巡らすクロロ。

「今話したということは、現時点で能力が使える状態にあるということだな」
「仰る通りよ。でも、この機会を逃したら次いつ使えるか、私でも予測できないの」

そうこう話している内に、クロロの意識は、私の能力に対する興味と推察に向いていた。
さっきまでの塞ぎ気味だった様子が嘘のように、すっかり集中して考え込む姿を見て、思わずユリの頬が緩む。

「ふふ──こういう時は、わかりやすいわね」
「……?」

なんのことだ?と言いたげに軽く首を傾げるクロロ。
その動作が意外と可愛らしく映り、レアなシーンを見てしまったと、心のメモリーに記憶しておくユリ
それを誤魔化すように、ユリは言葉を続けた。

「えっと、クロロも能力が気になってるみたいだし、暗示をかけてもいいかしら?」
「──構わない、やってくれ」

同意を確認したユリは、ストラディバリウスをモチーフにしたバイオリンを具現化させる。
世界最高峰とされる希少なそのバイオリンだが、実物はヨークシンのオークションで出品され、46億もの値が付き落札されている。

──昨夜の記憶を全て、心の奥に封印する。けれど、記憶の辻褄合わせに必要な情報だけは残すように……。

暗示をかけるイメージをすると、ユリはトランス状態になり、そのまま弓と弦を垂直にして構えた。
響きのある美しいデタシェで始まる、どこか憂いを帯びた旋律。
念を込めたその音色が、二人に幻想をみせる。

──参詣の途絶えた教会に、御像となった磔の聖女。彼女の前で、旅歩きのバイオリン奏者ガイゲンシュピアが弾く情景──それは、クロロが幼い頃に読んでいた童話の世界──。

深い暗示がかけられた二人の記憶は、思い出されることのないよう、強く封印された。

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