第0章 ~天界のプロローグ~



?「―――えっ?」

?「…………」


目の前には、この世の者とは思えない程美しい女性が立っていた。艶のある空色の髪と、透き通った紫色の瞳を持つ彼女は、僕と同じ顔をしていたのだ。
そして何より驚いたのは、彼女の身体中にある傷跡だった。服に隠れて見えないものの、背中や腹部、腕などに生々しい傷の跡があったのだ。
俺は思わず目を見開いたまま言葉を失っていると、彼女も同じく黙り込んでしまい、沈黙の時間が流れる。すると突然、彼女が口を開いた。

?「……ねぇ、君は誰?なんで僕の前に居るの?」

?「へぇ!?あ、いや……べ、別に怪しいものじゃなくてですね……」

?「ふぅん、そうなんだー。まあいっか。それより君の名前は?」

?「名前……ですか?」

サ「うん。僕は、サファル・アイリス!みんなは僕の事、"サファイア"って呼ぶんだよ!」

?「"サファイア"、ですか……なんだか宝石みたいな響きですね」

サ「ありがとう!それで、君は?」


そう聞かれて少し戸惑ったような様子を見せる彼女だったが、少し間が空いた頃にやっと口を開いた。


ジ「……ジスト・アメ・アマリス。皆さんは私のことを、"アメジスト"と呼びます」

サ「アメジスト……そっかぁ、だからそんなに綺麗な紫色の瞳をしているんだね!」

ジ「そうでしょうか……?私自身ではよく分からないですけど」

サ「それにしても、君も変な喋り方だよね~。敬語っていうんでしょ?それ」

ジ「はい。これが普通なので、気にしないでください」

サ「ふぅん、そうなんだぁ。なんか面白い子だなぁ~、君ってさ!」

ジ「面白い、ですか?」

サ「うん!だって、君の瞳を見てたら分かるもん。とても澄んでいる色をしてるから、嘘をついていない良い子の瞳だってね!」

ジ「そう、ですか……」

サ「あれれ、どうしたの?顔赤くなってない?」

ジ「い、いえ!何でもありません!」


僕はただ純粋な事を言っただけだったが、彼女の顔はどんどん赤く染まっていった。
あの時は分からなかったが、今になってわかる。もしかしたら、嬉しくて照れていたのでは――と。


サ「そう?まあいいか!アメジスト、君ってなんだか不思議。まるで妹ができたみたいだよ」

ジ「妹、ですか……?」

サ「うん。もし良かったら、これからも会ってくれるかな?」

ジ「はい、もちろんです。喜んでお会いしますよ」

サ「本当?嬉しいなぁ~。やっぱり、友達は欲しいものだからね!」

ジ「……サファイアさん、貴方にも大切な人はいますか?」

サ「えっ、どうして急にそんなこと聞くの?」

ジ「あっ、いえ……。ただ気になっただけです」

サ「うーん、そうだね。家族とか、親友とか、仲間とか、他にもいっぱいいるよ」

ジ「……」

サ「でも、今は一人しかいない。僕に優しくしてくれた、たった一人の女の子が、今もずっと大好きで忘れられないんだ」

ジ「その方は、今どこに?」

サ「……もう、いない。あの子は、どこか遠い所に行っちゃったから。またいつか、必ず会える日が来ると信じているんだけどね……」

ジ「……」

サ「ごめん、こんな暗い話になっちゃって。アメジスト、君は優しいね。いつもは誰も来てくれなかったのに、今日は来てくれないと思ったら、まさか君が来てくれて嬉しかったよ。本当に、ありがとう」

ジ「……いいえ。こちらこそ、楽しませていただきましたし、また明日もここに来るので、宜しくお願い致しますね」

サ「……ほんとに!?やったぁ!!じゃあ、また明日もここで待ってるからね!!」

ジ「はい。分かりました」

サ「じゃあ、またね!アメジスト!」

ジ「はい、また明日。サファイアさん」


――記憶はそこまで。目が覚めた時、僕はいつもの自分の部屋のベッドの上だった。
先程の夢を思い出しながら、僕――ナイト・サファル・アマリスは無意識に笑みを浮かべた。


ナ「――――やっと見つけた。僕の大好きな人……」


そう呟くと、僕は窓を開け放ち、窓から飛び降りると地に浮かぶ雲を駆けていった。


ナ「アメジストさん、か。そういえば、少しレインに似てた気がする……」


そんなことを考えながら……。



―――これは、僕の長い旅の始まりだった。






1/1ページ
スキ