第零章 ~プロローグ~
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『ふぅ~ん、"幻の大地"ねぇ……』
商「そうなんですよ!不思議だと思いません?」
知り合いの旅の商人が熱く語るのは、"幻の大地"の噂――最近この世界に起きている異変の一つだ。
道の途中に長い階段があったり、井戸から不思議な光が見えたり……と、そんな不思議な事が相次いでいる。
それは、アークボルトにだって伝わっていた。
北の洞窟を抜けた先にある道に、その階段が発見されたらしい。冒険家なら一度は行って見たがるだろう。
まあ、冷静なレントならこんな話に流されない――そんな安心感を、誰もが望んではいるのだが、レント自身は意外と受けいられていた。
『まぁ、面白そうな話だとは思うな。それ』
商「レント様……もしかして、信じてません??」
『バカを言え、魔王が出たって言うんだ。謎めいた事があって当然だろう』
商「おっ!珍しい!そういうところ、ランス王子殿下にそっくりですなぁ~♪」
『……そうか』
その商人の一言で、レントは一瞬切なく微笑んだ。
――ランス・アークボルト。
この名を聞かなくなったのは、顔を見なくなったのは、もう7年も前になる。
あれからのレントは、憧れていた兄の背中をいつものように追っているように感じた。
性格も、目付きも、振る舞いも、何もかもがランスのようになってしまったのだから――。
そんな中、この城一番の新米兵士である、見張り番のガルシアが、レントの方へ駆け寄ってきた。とても慌ただしい様子で――。
ガ「王女!大変でございます!!」
『どうした、ガルシア。またパシリでも受けたか?』
新米兵士のガルシアと、兵団長のブラストが、レントのところへ来ることは珍しい事ではなかった。
まだアークボルトの兵士に配属されてから間もないガルシアは、先輩分の兵士達にパシリを食らうことも多々あるからだ。
だが、いつもと違う様子で駆け寄ってくるガルシアを見て、レントは不思議そうに首を傾げた。少し呆れている感じもするが。
ガ「そ、そんなことより大変なんです!北の洞窟が先日の地震で塞がってしまって……!」
『穴が塞がった?だからどうしたんだ?』
ガ「どうもこうもありません!魔物がウジャウジャと出始めて……!!」
『――なんだと?』
*******
『…成程、工事で開いた大穴から魔物が出たのか』
ガ「そのようですね……」
レントは、ガルシアの知らせを受けてすぐに、兵士団と北の洞窟へ状況を見に来た。
魔物の影響で工事に手を出せず、ここを通って来た旅の者達も困っているらしい。
『さっきの商人もここから来たんだっけか。出来れば早く工事を進めたいものだが……』
ホ「お優しいですな、レント王女は……」
ス「本当だ。こういうところはまるで……」
『――ランスに似てるってか?』
レントは振り向き後ろにいる兵士達をギロッと睨む。
いつもの事なので普通にかわす者もいたが、中にはその勢いに驚き冷や汗を掻く者もいた。
そんな中、ブラストがレントの気分をこれ以上損ねぬようにと前へ出た。
ブ「いいえ、王女。決してそのような事は……」
『――ならばいい。今後その名を決して表に出さぬように』
ブ「お、王女?」
『返事はどうした、王宮兵士団!!』
全「「「は、はっ!!」」」
突然のレントの大声に兵士達は驚き、一斉に敬礼をした。
レントはそれを確認すると、いつものように冷静な表情へと戻り、スタスタと城への道に戻っていった。
『分かったらさっさと御暇するぞ。こんなところに長居するわけにはいかないからな』
ガ「お、王女!お待ちを!!」
兵士達を無視するように、とっととその場を去っていくレント。
中にはビクビクと動けぬ者もいたとか、いなかったとか――。
レントには逆らえぬな――と、苦笑いする者もいたのだった。
******
******
ガ「あの、ブラスト兵団長……」
ブ「どうした?ガルシア」
レントと王宮兵士団が城へ戻ろうとする途中、ガルシアが小声でブラストに話しかけた。そんなガルシアの方へ振り向くブラスト。
ガ「あ、その、王女の言うランスとは一体……?」
ホ「そうか、ガルシアが兵団に入ったのは3年前だからな。ランス王子殿下の事を知らなくて当然か……」
ガ「――王子殿下?」
ス「ああ、そうだ。レント王女には幼い頃亡くなられた兄上がいらっしゃったのだよ。噂には聞いたことがあるだろう?"雷鳴の剣士"の名を……」
ガルシアが"王子"という慣れない響きに首を傾げると、ホリディに代わりスコットが話を続けた。
"雷鳴の剣士"として名誉を上げていたランスが亡くなったのは7年前……ガルシアが兵士としてやってきたのが3年前だから、ランスの事を知らなくて当たり前なのだ。
ガ「……そういえばそんな噂を耳にしたことがあるような。あれは確か7年前――」
『――聞こえなかったか、王宮兵士団っ!!』
「「「は、はっ!!」」」
すると、その話を小耳に挟んだレントが、兵士達の方を振り返り大声で怒鳴った。
兵士達はそれに恐れをなしたのか吃驚している。
『その話を二度とするなと言ったはずだ。いらぬ私語は慎め。ボヤボヤしてると魔物にやられるぞ』
ブ「も、申し訳ありません。レント王女」
『謝る暇があったらさっさと動け。さっさと城に戻り、この件について考えなくてはならんからな……』
ブ「そ、そうですな!」
ブラストの返答を確認した後、レントはすぐにスタスタと歩いていった。
そんなレントにビクビクしながらも、兵士達は必死についていく。
兵1「何か今日の王女、ピリピリしてるよな」
兵2「ああ、まるでランス様が蘇って来たみたいだ……」
そんなボソボソとした会話が聞こえ、レントはより不機嫌になってしまった。
レントだって、大好きな兄に似ていると言われて嫌なわけではない。
ただ、その存在を追いかけながらも兄の存在を否定しようとする彼女がどこかにいるから――。
彼女はずっとこう思っていた。
――あの時兄を殺したのは、自分当然なのだ。
もう後戻りのできない、そんな勘違いを……。
『これ以上私語を包むのであれば、夕飯は抜きにするぞ』
全「「「えぇっ!?そんなっ!!」」」
まあ、表向きの彼女は相変わらず元気そうなので、心配はいらないようだった。