運命は愛を呼ぶ 【楓様リクエスト】
――そして、あれから三週間後。
あと少しで一ヶ月が経とうとしている頃の事だった。
レ「ただいま……」
ユ「おかえり、今晩御飯作ってるからな」
レ「うん……ありがと……」
東の町から帰ってきたレントは、治癒能力の使い過ぎでクタクタの様子で帰ってきた。
キッチンから顔をひょこっと出すユーリの他所に、レントは椅子に座り、テーブルに凭れ掛かっていた。
もうすっかり慣れてしまった自分達の家……東の町――
ユ「結構お疲れのようだな。治癒術の使い過ぎか?」
レ「当たり前だろ……すっかりあの街の人に懐かれてしまって、どこ行っても『うちのポケモン治してください!』って頼まれるんだから……何あの可愛い生き物……あんなの見せられたら断りずらいよ……(泣)」
炎の正義に行っても、他の町や首都に行っても、レントの治癒能力を求めてポケモンを押し付けてくる者達が大勢いるのだ。
しかし、レントの可愛い物好きが彼女の思考を邪魔するので、どうしても断れずにどんどん力を使ってしまう。
それを知っているユーリは、苦笑いしながら、できた料理を持ってきた。
ユ「ご苦労さん。こっちも魔物退治が片付いてきたから、あと一週間もあれば魔物は完全にいなくなるな」
レ「そう……一応手持ちの薬草とかあげてきたけど、これがあと一週間もだなんて……」
ユ「……オレには、あと一週間しかないとしか思えねぇな」
レ「どうした?ユーリ」
ユ「……なんでもねぇよ」
レ「……そう?」
ユーリは思ったより寂しげな声を漏らす。レントは、意味も分からずただ単に首を傾げていたが、これ以上気にしても仕方がないので、料理を食べ始めた。
料理を食べながら、レントはユーリを上目遣い気味に見つめた。勿論、二人とも無自覚だ。
レ「そういえば、ユーリの話まだあんまり聞いてないよな」
ユ「なんだ、聞きたいか?」
レ「聞きたいっ!
――あっ!べ、別に……その……話せることがあるなら聞きたいだけで……」
相変わらずのレントのツンデレに、ユーリは苦笑いする。
ユーリはレントと話をする時、旅の途中、彼の仲間であるリタと話している時のような感じを思い出すのだ。
世間知らずの王宮育ちという点はエステルに似ていて、素直になれないツンデレなところはリタに似ている。そして、どこか切なげな部分を持っているところは、ジュディスに似ていたりする。
かつて一緒に旅をしていた仲間達に似ているからこそ、ユーリはレントに惹かれたのかもしれない。
ユ「はいはい、そうだな……前に下町の話は言っただろ?」
レ「ああ、聞いたな。幼馴染がいて、のどかに暮らせる……いいなぁ……俺もそんな町に住みたかったな……」
ユ「全然そんな事ねぇよ。手のかかる孤児と、乱暴な騎士ばっかの町だぜ?オレも腐ったあの国に忠誠なんて誓いたくなくて、逃げてきたんだからよ」
レ「孤児?それに忠誠って……ユーリは騎士でもしてたのか?」
ユ「察しがいいお嬢さんだ」
レ「!ごめん……」
ユ「なんで謝るんだよ」
レントは、ユーリの言葉にハッと我に返って頭を下げた。前に、レントが言うまで聞かないと言ったユーリの言葉を思い出したのだろう。
無言のまま俯くレントの頭を、ユーリは優しく撫でてあげた。
ユ「子供が大人に遠慮してんじゃねーよ。オレの事は気にするな、好きで話してんだからな」
レ「……ありがとう。やっぱりユーリには敵わないな。まるで……」
ユ「?」
ユーリのその優しい言葉で、レントの頭に懐かしい声が響いてきた。
≪――俺はお前の兄なんだから、お前が俺に遠慮する必要なんてないんだよ。もっと俺を頼ってくれ≫
≪ハッ……2つも年下の癖に、一丁前に遠慮なんてすんなよ≫
レント(――ホント、俺が心から好きになる奴って……どうしてこうなんだなろうな……)
かつて兄のランスに言われた言葉、テリーに言われた言葉を思い出してしまい、目頭が熱くなる。
ランスの事を、いつまでも大好きな最愛の兄だと思っているのと同じで、テリーの事を、いつまでも最愛の初恋の人と思っている。そして、ユーリの事も、すっかり本当の兄のような存在として認めるようになっていた。
ユ「レント、飯冷めるぞ?」
レ「ああ、ごめん。ちょっとボーっとしてた……」
ユ「……食べさせてやろうか?」
レ「なっ!こ、子ども扱いすんなっ!バカッ!!///」
ニヤニヤと笑いながらこちらを見てくるユーリに、レントは真っ赤な顔になり、そっぽ向きながら料理の残りを食べだした。
ユーリは、そんなレントの行動でさえ、愛しく思っていた。
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因みに、その後――。
レ「そうだ……あの海の街の村長の娘さんがさ、『レント様と黒髪の彼はご入籍なさっているの?』と聞かれたのだが、どういう意味だ?」
ユ「ん?あー……(ご入籍って……結婚できる年じゃねぇだろ……;;)」
レ「ユーリ?どうしたんだよ」
ユ「ん?あぁ……お前は世の中の事もっと知った方がいいぞってことだよ」
レ「そ、そうなのか……ってあれ?前にテリーにもそんな事言われたような気が……」
ユ「お前の旦那、大変だったのが目に浮かぶな……」
こんな会話があったとかなかったとか。
彼らがお互いの思いに気づくのは、まだまだ先の話――。