運命は愛を呼ぶ 【楓様リクエスト】
レ「……ホント、俺の嫌な予感って的中するんだよな」
ユ「……だな」
ユ・レ「「――――よりにもよって、一軒家かよ……;;」」
タヌタヌの言う通り、彼が用意したという、北の森の家に向かった二人。
しかし、それは紛れもなく"一軒家"――つまり、ここで一緒に住めとの事らしい。
森の中にあるにしてはかなり綺麗なレンガの家に、成人男性と未成年の少女が一緒に住むというのは、少しマズい感じもするのだが――。
レ「……まあ、城に閉じ込められるよりはマシか」
ユ「だろうな。ま、一か月なんてあっという間だろうしな」
まあ、この二人がそんなことを気にするご身分でないことは、誰もがよく知っているだろう。
二人は何も気にしない様子で家に入っていった。
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――一時間後――
ユ「――レント、何してんだ?」
ユーリが向かった場所は、キッチン。レントはそこで目玉焼きを作っていた。
王宮育ちの彼女だが、レック達との旅のお陰で見に着いたのか、幼い頃よく厨房でランスと料理をしていたからか、簡単な物なら軽々と造れるのだ。
レントは、料理の手を止めずにユーリの方をチラッと見る。
レ「朝食抜きで来たから、ご飯作ってるんだ。城の奴らには心配かけるけど、勝手に散歩に出かけた俺にも非はあるしな。こうなった以上、ここで一か月耐えるしかないだろう」
ユ「……前向きなんだな」
レ「そう?」
ユ「ああ、なんだかうちのお姫様にそっくりだ」
レ「へぇ~ユーリはお姫様と知り合いなのか。ユーリの世界の話、聞かせてくれよ」
ユ「ああ、そんなもので良ければいいけどよ……――卵真っ黒焦げだぞ;;」
レ「へ?――あっΣ」
ユ「……;;」
しかし、やはり慣れないことはするものではなかった。目を話していたせいで黒焦げになってしまった目玉焼きを見て、レントはハッと我に返る。
やはり、彼女のこういった天然なところは、ユーリの目線で見るとエステルに似ていた。
ユーリは苦笑いしながら、はぁ…と短い溜息を吐く。
ユ「これ……大丈夫なのか?;;」
――ほら貸せ、作ってやるから。あっちで待ってな」
レ「!//
……そ、そういうわけにはいかない。俺は自分の事は自分でできる!こ、子供じゃ……ないんだからなっ!///」
ユーリはフライパンに手を添えた。無自覚にか、レントの手の上に。レントはそれを見てつい顔を赤くしてしまう。
流石に、男ばかりの城で育ってきた彼女だからこそ、ユーリのような童顔美形の男性に弱いのだろうか。テリーの時も恐らくそうだったはず。それとも、他に理由があるのか……それは誰にも分らない。
すると、レントの言葉に不思議に思ったのか、ユーリはレントの顔にグイッと近づいた。
ユ「……さっきから思ってたんだが、レントって幾つなんだ?」
レ「幾つって……15だけど……ユーリもそんな変わらないだろう?//」
ユ「……;;」
レ「ど、どうしたんだ?ユーリ」
急に顔を離して手を挙げるユーリに、レントは首を傾げる。
すると、ユーリは冷ややかな笑みのままレントから目線を反らした。
ユ「……オレ、21なんだ;;」
レ「……え?は?
……えぇ――――っ!?Σ」
意外なユーリの年齢に、レントは驚いて固まる。
下でカタン…とフライパンやフライ返しがひっくり返って落っこちるのにも気づかないくらいだ。相当驚いているのだろう。
ユーリは、彼女のそんな反応に苦笑いする。出会ってからかなりクールな少女だと思っていたからだろう。
ユ「どうした?そんな意外か?」
レ「え、いや、だって……ユーリってすっごい童顔だから……テリーと同じくらいだと思ってたんだもん……;;」
ユ「童顔って……;;
――で、テリーって誰だ?」
レ「……?俺の旦那だけど」
ユ「だっ、旦那……!?;;
(嘘だろ、15で結婚してるのか!?;;)」
レ「元……だけどな。今は未亡人なんだ、俺」
ユ「……そうか、悪い」
バツが悪そうな表情で謝るユーリに、レントは一瞬目を大きく開けて驚いたが、すぐに目線を反らした。
レ「別に……置いて逝かれたのはこれが初めてじゃないしな。これを機にあいつのことは忘れて、楽になりたいんだ」
ユ「……それで、お前の気は晴れんのか?」
レ「……え?」
ユ「お前がそいつの事を忘れちまったら、そいつは本当に死んじまうぜ。死んだ人間は、もう二度と戻って来やしねぇんだからな」
ユーリの思いがけないその言葉に、レントは少し頬を赤くする。
それでも、レントは今にも泣きそうな顔で反撃した。
レ「……でもっ!俺はまた同じ事をした!
ユ「……何があったか、お前がちゃんと話してくれるまで無理には聞かねぇけど、泣いてスッキリすることもあるだろ。子守なんてガラじゃねーけど、今日だけは付き合ってやるから、早く楽になっちまえよ」
レ「……っ、うん……っ!ありがとう、ユーリ……っ!!」
このほっとけない病――所謂お人好しは、ユーリのいいところだ。
ユーリは、今まで溜め込んでいた涙を静かに流すレントを、まるで兄が妹を慰めるように優しく抱きしめ、そっと頭を撫でていた。
そこで間近でレントの顔を見ると、15歳にしては少しやつれているような感じがした。
大切な夫を失い、悲しみに溢れて食事もろくに取れていなかったのだろう。女王という身分が故に、忙しくてというのもあるかもしれないが。
ユーリは、レントが苦しくない程度に、さっきよりも強く、強く抱きしめた。
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それから暫くし、レントが落ち着いたのを確認すると、ユーリはゆっくりとレントの体を自分から離した。
ユ「――落ち着いたか?」
レ「……うん、もう大丈夫。服汚しちゃってごめんな。すぐに洗濯してやるから」
ユ「いや、いい。生憎替えの服がないんでね。東の町とやらに行かないとダメっぽいわ」
ユーリの言葉に、レントはハッと大切な事を思い出した。
――確かにそうだ。家が用意されていても、これからの生活に必要な物は足りない物の方が多いだろう。
レントはユーリをチラッと見ながら、玄関の方に足を運んだ。
レ「あー……俺もだ。今すぐ行くか?まだお昼くらいだし、昼食もそこで食べればいいだろう。何故か金だけは用意されてるみたいだしな。ついでに買い物とかもしたいし……」
ユ「だな。そうと決まれば、早速行くとしますか」
さっきの事のお陰か、すっかり仲良くなった二人は、ニコニコと仲良く話しながら玄関の方へ歩いて行った。
その途中、目の前を行くレントの背を見て、ユーリはふと心に誓った。
――絶対に、オレだけはお前を守ってやるからな……と。
彼の性に会わない、そんな優しすぎる言葉を、心の中で……。
出会ったばかりの、目の前のかなり歳の離れたやつれた少女に……
彼は、小さな恋をした――。