運命は愛を呼ぶ 【楓様リクエスト】







ユ「――い、おい、起きろ!」



どこか不思議なところへ飛ばされたレントとユーリ。ついでに、ラピードまで来ていた。
先に目を覚ましたユーリが、傍で倒れている謎の少女――レントの体を揺さぶり起こしていた。



レ「んんぅ……あと少しだけ寝かせてよ、お兄様……」

ユ「二度寝は三文の不幸だぞー?」

レ「うん……――ん?


……お前、誰だ?」



レントが気が付き起きた時、見知らぬ若い青年と、何か木に囲まれた光景が見えた。
だが、レントにとって木に囲まれた場というのは、とても苦のある場だった。



レ「――ここ、まさかタイジュの国?いや、まさかそんなはず……だって、あれは夢の世界で……うぅ……」

ユ「おい、大丈夫か?何ブツブツ言ってるんだよ」

レ「……そうだ、そんなことはどうでもいい。お前は?一体何者なんだ?どこの出身だ?」



幼い頃の記憶が横切る頭をブンブンと横に振り、片手で押さえた。
すると、ユーリが少し戸惑ったような表情でレントを見た。



ユ「どうやら、訳アリのようだな。オレはユーリ・ローウェル。下町に住むただの一般人だ。お前は?」

レ「下町?聞いたことがないな。それに、わざわざ一般人っていうところ怪しいんだが……。


――まあいい、俺はレント・アークボルト。戦士の国アークボルトの出身だ」

ユ「……嘘じゃないようだが、肝心なところ抜けてるようにも見えるぜ?」

レ「察しがいいみたいだな。俺はアークボルトの王女――じゃなかった;;
最近、女王に就任されたところだ」

ユ「……ったく、姫さんの次は女王さんかよ;;」



ユーリは一緒に旅をしたエステリーゼを思い出し、短い溜息をつく。
レントは、ユーリの心情を察したような表情を見せた。



レ「まあ、普通ならもう少し驚くだろうが……そういう事情なら仕方ない。ユーリと言ったな。お前、ここがどこだか分かるか?」

ユ「いや、オレもついさっき起きたばかりでね。細かいことは分からねぇんだ」

レ「そうか、困ったな……俺は早く城に戻らねばならない。最近忙しくてな。あまりゆっくりはしてられないんだ」

ユ「まあ、女王様がここにいちゃマズいだろうな。その城に送り届けてやりたいもんだが、生憎そのアークなんたらとかいう城には聞き覚えがないもんでね」

レ「アークボルトを知らないだと?可笑しいな……戦士の国アークボルトは、旅人からかなり警戒されている城でもあるのに……」

ユ「そんなにヤバい城なのかよ;;」



ユーリは冷静にレントの話を聞いていたが、その言葉に少し平然とした笑みが浮かべられなくなった。
目の前にいるのは、男勝りで幼い感じだが、確かに凛とした一人の女性――その彼女が、そんな強い存在には見えなかった。



レ「だが、お前がどんなに否定しようとも分かるぞ。お前も俺と同じ、剣士なのではないか?かなり強い力を感じるが……」

ユ「さあ、どうだかな。


――おい、レント。話が飛んでるぞ」

レ「あっ……悪い。つい昔からの癖でな、強い物には目がないんだ。そうだ、元の世界に帰る方法だったな」

ユ「強ち間違ってはいないが、そんなことを話した覚えはな――ん?なんで"元の世界"って言いきれるんだ?」

レ「――それは…………」



"元の世界"

つまり、ここは二人の知る世界ではないという事。
そして二人は、それぞれ違う世界に住む"異世界族"だという事だ。

レントがそれを理解できたのは、過去に5回"異世界"に行っているからだろう。
幼い頃に1回、旅の途中に2回、更にいつしか旅の中で2回も行っていれば、もう異世界など慣れたものだ。雰囲気などで察知できるようになったも同然だろう。
それを知らないユーリは疑問を抱いていたが、少し切ない表情で俯くレントに、少しドキッとしてしまった。



レ「……案ずるな。ただの勘だ」

ユ「そ、そうか」

ラ「ワオーン……」



二人の会話を聞いていたラピードが、レントの心情を察したように悲しそうに吠えた。
と、その時、二人の頭上から声が聞こえた。



?「――起きたようじゃな」

ユ「……?クマ?」

タ「狸じゃっ!オイラはタヌタヌ。このマジックツリーハウスの管理人を務めておる者じゃ」

レ「狸が管理人?冗談だろ……」



突然現れた狸のぬいぐるみ――タヌタヌの言葉に、レントは皮肉に笑ってみせた。
すると、咳払いをしたタヌタヌから、何か光が集まってきた。
二人が眩しそうに目を瞑っていると、目を開いた先に見えたのは、10歳に満たないほどの幼い少年だった。



タ「――ゴホン……では、この姿で話すとしようか」

ユ「最初からその姿じゃダメだったのか?;」

タ「ダメじゃ。オイラのプライドが邪魔をするのでな」



タヌタヌのそんな呑気な台詞に、二人は呆れたように溜息をついた。



ユ・レ「「本当に大丈夫なのか?このショタジジイ……」」

タ「ショタジジイと言うでない!!💢」



どうやらそれは禁句だったようで、怒り出すタヌタヌを、二人は苦笑いして見ていた。ラピードにまで呆れられているような気もする。



ユ「で?ここの管理人さんとやらが俺達に何の用だ?俺はまだ構わねぇが、このレントっていう女王サマはそうはいかないらしいぜ?さっさと元の世界に戻してくんねぇか?」

タ「そうはいかん。オイラはお主達の力が気に入ってしまってな。ある二つの世界を救ってほしいのじゃ」

レ「冗談じゃないね。俺はもう世界を救うなんて真っ平だ。"異世界"に来てまで目立ちたくなんてないから、とっとと帰してくんない?」

ユ「右に同じだ」



全く乗り気ではないユーリとレントに、タヌタヌは少しうーんと考えると、何か悪だくみでもしているような黒い顔で二人を見てきた。



タ「う~む、残念じゃのう……どちらの世界にも、美味しいクレープがいっぱいあるんじゃが――」

ユ「仕方ないな」

レ「はぁっ!?Σ」



意外と甘い物好きなユーリに仕掛けられた罠が引っ掛かる。
レントは、その意外過ぎる事実に驚いて固まっていた。



ユ「よし、今すぐその世界とやらに連れていけ」

レ「だ、騙されるなユーリ!これは思いっきりこいつの罠だ!俺は甘い物は苦手だから、お断りす――」

タ「美味しいシチューもあるぞ。鶏肉と玉ねぎたっぷりのな」

レ「た、食べたい……!」



よだれが出て来そうな口元を手で押さえ、レントは誘惑に負けてしまった。彼女の意外な子供らしさにも問題があったのか。
すると、タヌタヌはニヤッと笑い、全身に力を込めた。辺りに光が眩んで見えてくる。



ユ「な、なんだ?この光はっ」

レ「お前のせいだろうが!このスイーツ男子!!💢」

ユ「アンタもシチューでつられてただろーが;」

レ「い、いいじゃないか……朝食抜きで来たんだもん……//」



レントが少し恥ずかしそうに顔を赤くし、ユーリから目を反らしていると、二人はタヌタヌが放った光の中に包まれていた。








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