「侑子さ───ん！！！」

バタバタと走ってくる四月一日がいる方に侑子は冷ややかな視線を送った。

「なによー、二日酔いが酷いから液キャベを買いに行かせたのにー。」

文句を垂れるが、四月一日はそんな侑子をお構い無しに部屋の襖をスパーンと音を立てて開いた。

「侑子さん！大変なんですって──！！」

「どうしたの？大したことじゃなかったらバイト代上乗せするわよ。」

慌てている四月一日に、侑子の台詞が刺さる。

「で、何があったのかしら？」

想像以上に不機嫌な侑子を前に四月一日はたじろぎながらも先程あった妙な生物のことを話した。

「店の前に狐が……」

「狐？」

四月一日の話はこうだった。店の前で鳴いていた狐は四月一日を見るなり、笑顔を向けてきたのだという。

「あら、懐かれただけじゃないの？」

「違うんですよ！！もっと、こう、怪しい笑い方っていうか…」

液キャベをグイッと煽った侑子は顔をしかめながら、適当に会話するが四月一日はまだ慌てながら侑子に説明を続ける。

コーン…

「えっ」

四月一日の耳に先程も聞いた狐の鳴き声が届いた。

「ゆ、侑子さん…？店の中に入ってるみたいなんすけど……？」

冷や汗をかきながら侑子に助けを求める四月一日に侑子は目を細めた。

「この店に入ることができるのは願いを持つモノだけ。その狐にも何か願いがあるんでしょう。」

それを聞いて、四月一日は息を飲んだ。
おもむろに四月一日、と声をかけた侑子は狐の案内よろしく。と言って店の奥へと消えていった。

「なんっでだよ──！！！」

ツッコミを入れ、大きく息を吐いた四月一日は不安そうな顔をしながらも玄関へと向かった。