転機
バタバタと駆け回る音がする。人の気配も合ってなんだか美味しそうな匂いまでする。なんか、普通の朝みたいだ。うつらうつらとしながら目を覚ますと、って縄!!?え、なに?なんで縛られてるの!!?
「お?目が覚めたか?」
・・・。
誰!!?え?そういや私切られて!?!???!?
「おーお。混乱してんなー。ま、無理もねえか。」
少し待っとけ、と何処かへ行ってしまう少年。え、本当に私どうしたの?切られた筈の傷は無いし、痛みも無い。あの時の怪我なんて最初から無かったような気さえしてくる。
どたどたと二人増えた足音が此方へ近づいてくる。
障子の向こうから現れたのは長髪のイケメンと茶髪のイケメン、さっきの少年も一緒だ。普通ならイケメンにテンションが上がるとこなんだけど新しい二人の視線が怖すぎてそんな余裕など毛ほども無い。
「手前が、あいつ等をやったのか」
ドスの利いた声が私へ突き刺さる。何を言うのが正しいのか考えて、声が出るまでの時間を稼ぐ。
「無えと思うが嘘なんかついて誤魔化そうとしたからには命は無えと思えよ。」
「やだなあ土方さん。この娘が嘘なんてつく理由なんて無いじゃないですか。だって死ぬか生きるかの瀬戸際ですよ?」
揶揄う様な声が重なる。え、待って何か途轍もない事をサラッと言われてしまった気がする。生死の瀬戸際ってナニ。また死ぬの?私。自分の運の無さを嘆いていると痺れを切らしたのかドンッと顔の横を何かが通った。
「踏み潰されたくなきゃさっさと吐いちまうんだな。」
鋭い視線が私を睨む。ああ、もうどうにでもなれ、と半ば自棄になって声を発する。
「な、んのことですかねえ?私は気がついたら此処に居たんですが!!?そもそも此処は何処です?何時代です!?私は車に轢かれたハズなんですけどお!??なんで死んでからまた刀?にぶった切られなきゃなんないんですかねえ!!いい加減こっちの堪忍袋の緒が切れるってモンですよ!!!」
叫びすぎてどうでもいいことまで口走った気がするが後の祭りだ。出たものはしょうがない。それより久しぶりに声を出したことによる疲労感がやばい。なんでしゃべっただけでこんな息が上がるの、私そこまで体力無かった訳じゃないんだけど?
急に叫びだした私に呆気にとられたのか引いたのかは分かんないけどシーンと場が静まる。一拍の後笑い声が部屋に響く。
「あっははははは!何この娘。現状わかってなさすぎ」
「ふっ、ふは、ははは!土方さんやっぱこの子何も知らないって。じゃなきゃこの状況で逆ギレなんて、っふは、はは。もう俺無理!」
なんで笑われてんだ私は。頭を抱える私よりとても頭が痛そうなのは長髪のヒジカタサン、と呼ばれていたイケメンだ。ごめんて、私が悪かったからそんな目で見ないで。
「ったく。最近は変な拾いモンばっかじゃねえか。どうすんだよコイツ。」
そのまま足の縄を外し、私を立たせる。どっか連れてかれるんですかねえ。廊下を歩く私の隣に最初の少年が駆け寄ってきた。
「なあなあ、お前の名前なんて言うんだ?」
「名前?・・ずさ」
「は?なんて?」
「だーかーら!二藤 梓って言ってんの!」
「梓か!いい名じゃねえーか!」
そう言ってキラキラと目を輝かせるこの少年は私の八つ当たりを気にしていないようだ。
「ほら、中に入れ。」
連れてこられた部屋の中には更に多くのイケメンが待ち構えていた。何此処、イケメンしか入れないの?別の意味で尻込みしてる私を他所にその部屋へと引っ張られるのだった。