徳川カズヤ
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spotlight
星のような風船が飛んでいくのを見た翌日のこと、今夜も俺はテニスコートで自主練をしていた。練習を始めて一時間くらいたったあたりだろうか、合宿所から小柄な影が近づいてくるのが見えた。俺は練習を中断して、彼女を迎えた。
「ごめんね、練習中に」
「いや、そろそろ休憩しようと思っていたところだ」
「それならよかった。はい、これ」
ベンチに並んで座り、差し入れてくれたドリンクで喉を潤す。風船が飛んだあとの夜空は、星がしんと瞬いていた。ここには俺たちしか存在しないみたいに。寒いのか俺に寄りかかり、話し出す。
「今日は中学生と仲良くしてたね」
「ああ。アイドルの話で盛り上がって」
「アイドル?」
彼女がぱちくりと瞳を瞬かせる。経緯を説明すると、驚いたように声をあげた。
「え! YOU4が撮影してたの!?」
撮影してるところ観たかったなあ、そう彼女が残念がる。どうやら思っていたより有名なアイドルだったようだ。
「そのうちPVで見られるだろう」
「そうかもしれないけど、そうじゃないの!」
彼女はいかにアイドルを生で見られることが奇跡的なことか、語り始めた。普段は雑誌やテレビの中の存在が目の前にいる喜び、それがもし偶然に起きたのならばどんなに嬉しいことだろうかということ。すらすらと話すその声は聞いていて飽きない。
「徳川くんは好きな選手の試合、生とテレビだったらどっちがいい?」
「……現地で見たい」
「そうでしょ。それと同じだよ」
同じだと言われれば、そんな気もする。でもなんだか納得がいかないのは何故だろうか。俺が眉を顰めていると、追加で説明を始めた。
「やっぱりテレビと実際見るのとでは全然違うの! コンサートなら、ファンサ貰えるかもしれないし!」
「ファンサ?」
「ファンサービスのことだよ。手を振ってくれたり、投げキッスしてくれたり──」
「……」
「あとは握手とか、チェキ撮れるアイドルもいるんだよ!」
「チェキ?」
「ツーショット写真を撮れるの」
「君も好きなアイドルがいるのか?」
「もちろん」
そう言って彼女が好きなアイドルのことを語りだす。そうしてやっと納得がいかない理由がわかった。彼女が他の男に夢中になるのが気に入らないのだ。そんなこと、俺が全部叶えてあげられるのに。
「俺ならいつでも写真を撮れるし、キス出来る」
「え、そこ張り合う?」
「今してもいい」
「ちょ」
腰が引ける彼女を引き寄せ、唇に噛みつくようにキスをした。
「ん~~!!」
彼女はトントンと俺の胸を叩くが、抑え込んでしまえば関係ない。キスの最中は、恥ずかし気に瞼を閉じているのをじっと眺めていた。ぎゅっと睫毛を震わせて身をよじるのが可愛らしい。唇を開放すると、彼女が真っ赤になって俺を見上げた。うるんだ瞳の中に星空が反射してきらめいたのが綺麗で、ぼーっと見つめてしまう。
「そんなつもりじゃなかったのに」
「すまない」
「心がこもってない」
適当に謝ったのがばれてしまったようだ。思わず頬が緩んだ。
「もう、テニスしてってば」
ラケットを俺に押し付ける。彼女をからかうのはこのあたりにして、練習に戻ることにしよう。
☆
恥ずかし紛れにテニスラケットを握らせると、彼はやれやれとでも言いたげに微笑んでコートに戻っていった。今日はなんだかやられっぱなしだ。彼がコートに入ると照明がジャージに反射して、まぶしく見えた。
「夜のテニスコートに立つ徳川くん、まるでアイドルみたい」
私は小さく呟いた。それは夜風に乗って徳川くんの耳まで届いたらしく、振り返って私を不思議そうに見つめた。
「ほらあれ、スポットライトみたいじゃない?」
コートを照らす照明を指さす。つられて徳川くんが照明を見るが、まぶしかったのか右手で光を遮っていた。
「なんかポーズしてみて」
「こうか?」
「それはテニスのフォームでしょ。私が言ってるのはアイドルポーズだよ。右手は頭の上、左手はラケットを逆さまに持ってマイクみたいに!」
戸惑いながらも、私の姿勢を真似てポーズをとってくれる。そういしていると、まるでテニスコートがステージのようだ。私はふと溜息をついていた。
「徳川くんがアイドルじゃなくてよかった」
「?」
「だってアイドルだったら、皆のものになっちゃうでしょう」
彼はきょとんとしていた。あまりアイドルについて造詣が深くないのかもしれない。
「ああ、でも徳川くんがプロになったら同じようなものか」
光の中と外。コートに立つ彼と観客席に座る私では、居る世界が違うのだ。
「そんなことはない」
「そうかな。私は数いる観客のうちのひとりだよ」
「俺がプロになれば、君は関係者席だ」
「え」
「関係者席でなくとも、観客席のどこにいても俺は君を見つけられる。そのくらいの動体視力は鍛えているつもりだが」
「えっと」
そういうことじゃないんだけど……。私は微苦笑したが、彼は真剣に私を見つめていた。きちんと返答をしなければとは思うが、何て言ったら良いのかわからない。そうこうしているうちに少し強い風が私たちの間を吹き抜けた。雲に隠れていた月が顔を出して、私を照らす。
「君も、俺と同じ光の下だな」
その言葉にハッと息を飲んだ。私たちを表現するのに、スポットライトなんて既存のものにこだわる必要はない。だって、二人の関係は二人で決めればいいのだから。
テニラビのイベントお疲れ様でした! 記念にイベストに絡めた話を書きました。中学生に囲まれている徳川くんは微笑ましかったです。
2021/03/14
星のような風船が飛んでいくのを見た翌日のこと、今夜も俺はテニスコートで自主練をしていた。練習を始めて一時間くらいたったあたりだろうか、合宿所から小柄な影が近づいてくるのが見えた。俺は練習を中断して、彼女を迎えた。
「ごめんね、練習中に」
「いや、そろそろ休憩しようと思っていたところだ」
「それならよかった。はい、これ」
ベンチに並んで座り、差し入れてくれたドリンクで喉を潤す。風船が飛んだあとの夜空は、星がしんと瞬いていた。ここには俺たちしか存在しないみたいに。寒いのか俺に寄りかかり、話し出す。
「今日は中学生と仲良くしてたね」
「ああ。アイドルの話で盛り上がって」
「アイドル?」
彼女がぱちくりと瞳を瞬かせる。経緯を説明すると、驚いたように声をあげた。
「え! YOU4が撮影してたの!?」
撮影してるところ観たかったなあ、そう彼女が残念がる。どうやら思っていたより有名なアイドルだったようだ。
「そのうちPVで見られるだろう」
「そうかもしれないけど、そうじゃないの!」
彼女はいかにアイドルを生で見られることが奇跡的なことか、語り始めた。普段は雑誌やテレビの中の存在が目の前にいる喜び、それがもし偶然に起きたのならばどんなに嬉しいことだろうかということ。すらすらと話すその声は聞いていて飽きない。
「徳川くんは好きな選手の試合、生とテレビだったらどっちがいい?」
「……現地で見たい」
「そうでしょ。それと同じだよ」
同じだと言われれば、そんな気もする。でもなんだか納得がいかないのは何故だろうか。俺が眉を顰めていると、追加で説明を始めた。
「やっぱりテレビと実際見るのとでは全然違うの! コンサートなら、ファンサ貰えるかもしれないし!」
「ファンサ?」
「ファンサービスのことだよ。手を振ってくれたり、投げキッスしてくれたり──」
「……」
「あとは握手とか、チェキ撮れるアイドルもいるんだよ!」
「チェキ?」
「ツーショット写真を撮れるの」
「君も好きなアイドルがいるのか?」
「もちろん」
そう言って彼女が好きなアイドルのことを語りだす。そうしてやっと納得がいかない理由がわかった。彼女が他の男に夢中になるのが気に入らないのだ。そんなこと、俺が全部叶えてあげられるのに。
「俺ならいつでも写真を撮れるし、キス出来る」
「え、そこ張り合う?」
「今してもいい」
「ちょ」
腰が引ける彼女を引き寄せ、唇に噛みつくようにキスをした。
「ん~~!!」
彼女はトントンと俺の胸を叩くが、抑え込んでしまえば関係ない。キスの最中は、恥ずかし気に瞼を閉じているのをじっと眺めていた。ぎゅっと睫毛を震わせて身をよじるのが可愛らしい。唇を開放すると、彼女が真っ赤になって俺を見上げた。うるんだ瞳の中に星空が反射してきらめいたのが綺麗で、ぼーっと見つめてしまう。
「そんなつもりじゃなかったのに」
「すまない」
「心がこもってない」
適当に謝ったのがばれてしまったようだ。思わず頬が緩んだ。
「もう、テニスしてってば」
ラケットを俺に押し付ける。彼女をからかうのはこのあたりにして、練習に戻ることにしよう。
☆
恥ずかし紛れにテニスラケットを握らせると、彼はやれやれとでも言いたげに微笑んでコートに戻っていった。今日はなんだかやられっぱなしだ。彼がコートに入ると照明がジャージに反射して、まぶしく見えた。
「夜のテニスコートに立つ徳川くん、まるでアイドルみたい」
私は小さく呟いた。それは夜風に乗って徳川くんの耳まで届いたらしく、振り返って私を不思議そうに見つめた。
「ほらあれ、スポットライトみたいじゃない?」
コートを照らす照明を指さす。つられて徳川くんが照明を見るが、まぶしかったのか右手で光を遮っていた。
「なんかポーズしてみて」
「こうか?」
「それはテニスのフォームでしょ。私が言ってるのはアイドルポーズだよ。右手は頭の上、左手はラケットを逆さまに持ってマイクみたいに!」
戸惑いながらも、私の姿勢を真似てポーズをとってくれる。そういしていると、まるでテニスコートがステージのようだ。私はふと溜息をついていた。
「徳川くんがアイドルじゃなくてよかった」
「?」
「だってアイドルだったら、皆のものになっちゃうでしょう」
彼はきょとんとしていた。あまりアイドルについて造詣が深くないのかもしれない。
「ああ、でも徳川くんがプロになったら同じようなものか」
光の中と外。コートに立つ彼と観客席に座る私では、居る世界が違うのだ。
「そんなことはない」
「そうかな。私は数いる観客のうちのひとりだよ」
「俺がプロになれば、君は関係者席だ」
「え」
「関係者席でなくとも、観客席のどこにいても俺は君を見つけられる。そのくらいの動体視力は鍛えているつもりだが」
「えっと」
そういうことじゃないんだけど……。私は微苦笑したが、彼は真剣に私を見つめていた。きちんと返答をしなければとは思うが、何て言ったら良いのかわからない。そうこうしているうちに少し強い風が私たちの間を吹き抜けた。雲に隠れていた月が顔を出して、私を照らす。
「君も、俺と同じ光の下だな」
その言葉にハッと息を飲んだ。私たちを表現するのに、スポットライトなんて既存のものにこだわる必要はない。だって、二人の関係は二人で決めればいいのだから。
テニラビのイベントお疲れ様でした! 記念にイベストに絡めた話を書きました。中学生に囲まれている徳川くんは微笑ましかったです。
2021/03/14