観月はじめ
名前変換
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彼女はあ、と言う顔で彼の名前を呼んだ。
「観月くん、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。誕生日、教えましたっけ」
「前に言っていたでしょう。ほら、寮生で誰が一番年上か競い合っていたとき」
同じ年であるのに、ほんの少しの生まれの差で先輩ぶったり、後輩ぶったりする。どこにでもあるなんとも子供らしい争いである。彼にとっては些細なことで、今まで忘れていた出来事でもある。
「そんなこともありましたね」
「ちょうどばらの咲く時期だなと思って覚えていたの。よかったらどうぞ」
彼女が差し出したのは、ほんのり桃色がかったバラの花だった。
「寮の裏に咲いていたものなの。元気な花を摘み取るのはあまり好きでは無いかと思って、折れかかっていたものなのだけれど……」
花弁にほど近いトゲに、柔らかな白い毛が引っかかっていた。きっと寮に訪れるお転婆な野良猫たちが遊んでいたのだろう。
「ありがとうございます。祝ってくれたのは、君が一番最初です」
「そうだったの? みんなあれだけお誕生日で盛り上がってたのに」
「薄情ですよね、あれだけ先輩先輩ともてはやしておきながら」
「ほんとだね。……あ、そろそろ先生に呼ばれてる時間だから、またね」
「はい、また」
彼女は談話室の時計を一瞥し、駆けていった。
午後16時。まだテニスコートの照明を点けなくてもラケットを振れる時間だ。部屋の一輪挿しにバラを生け、ラケットを手に取った。
2024/05/27
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