観月夢/診断メーカー短編
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自室にて
「幸せになってください」
そう別れ言葉を告げたのは彼女だった。
「はじめくんなら、私より絶対いい人見つかると思う。私たち、遠距離恋愛って柄でもないでしょ?」
無理に笑顔を作っているのがバレバレだった。それには観月も気付いていた。だってこの二人は、そのくらいお互いを知り尽くしていたのだから。だからこそ、ここでこうやってお別れを言うのだ。
「君こそ、ボクよりいい男でなければ承知しませんからね」
「もちろん。そのくらい、朝飯前なんだから」
彼はなんとも言えない切なげな顔で微笑んだ。彼女はそれを見て見ぬふりをした。
「だから、幸せになってください。私が心配しないように」
今日から飛行機の距離。お互い忙しい身である。なかなか会うことは叶わないだろう。それに、いつどこへ転勤になるかもわからない。二人が二人のままでいるには、障壁が大きすぎたのだ。だからこその、現実的な選択。
「次はお互いの結婚式に会いましょう」
「あはは、そうだね」
「もうそろそろ飛行機に搭乗しなければ。それでは」
抱きしめることもお別れのキスすることもなかった。だって二人は、もう恋人ではないのだから。簡潔に握手だけをして、小さく手を振った。彼の姿が見えなくなるまで、右手を上げ続けた。彼の飛行機が飛んで空の彼方へ消えるまで、飛行機を見つめ続けていた。
自室の窓から、飛行機の小さな影が見えた。あれに乗ったら、私も彼の元に行けるのかしら。あの時と変わったのは年齢くらいで、住んでいる場所もよく使うスーパーも、全く変わらない。茶碗も箸の数も、ティーセットのカップの数も。あのときから時が止まったようにそこにあった。テーブルの上の花瓶には、彼を想うようにバラが一輪だけ差してあった。
2019/2/24
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