観月夢/診断メーカー短編
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空港にて
「こんにちは、また会いましたね」
私は読んでいた本から顔を上げた。ベンチに座る私の目の前に立つ男性は、年の割には女性らしい艶やかな顔をしていた。どことなく日本ぽくない匂いの漂う彼は、大きなスーツケースを傍らに携えていた。
「あ、そう、ですね」
「ふふ、何を読んでいたんです?」
「小デュマの、椿姫を。もう何度読んだかわからないけれど」
「そんなに気に入っているんですか」
「そうかもしれない」
私はベンチにもう一人座れるよう、体を片方に寄せた。目の前の空港から飛行機がまたひとつ飛び去り、また一つ降り立つ。
「気に入っているなら差し上げましょう。次に帰ってきたときに返してもらう約束でしたが、あっちで原語版を手に入れましてね」
「それなら、有難くもらおうかな」
めでたく私のものとなった本を鞄に仕舞って、どこへ行くともなく、私たちは空港を眺めながら、取り留めのない話を続けた。
「フランスは綺麗な人がたくさんいたでしょう。いい人はいた?」
「何を言ってるんだ、ボクには君一人ですよ。だからこうやって会いに来ているのに。君こそどうなんですか?」
「わたし? 私はねえ、お見合いを勧められたかなあ」
「ま、まさか受けたりなどしていないでしょうね」
「断ったってば、私だってあなた一人なんだから。悔しいことにね」
「悔しいとはなんですか、悔しいとは」
どこへ行ったって、いつも冷静な彼の、ちょっと短気なところは変わらないようだった。久々に会ったものだから少し緊張をしていたのだけれど、それでふっと力が抜けた。
「今回はいつまでいれるの?」
「明日の夜には戻ります。打ち合わせが済んだら、すぐ帰りますよ。仕事が山積みなんです」
「ふうん」
「あまり寂しそうに見えませんね」
「まあね」
「昔はあんなに泣いてくれたのに」
「やだ、そのことはもう言わないでってば」
私は全く寂しくなかった。だって、また必ず会えると知っているから。
「Dear Hajime
From Natsu
私の会社にもついにフランス支部ができて、異動することになりました。上司はお前がフランスをやたらと勧めるからこんなことになったんだ、責任取ってフランスへ左遷だ!って言うの。でも、新支部を任されるんだから栄転だよね。君は私がフランス語なんてできるのかってお思いだろうけど、私だってちゃんと勉強したんだから心配には及びません。でも家がないからしばらくは泊めてもらおうかなって思ってるんだけどどう?」
2019/2/12
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