観月夢/診断メーカー短編
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植物園にて
花なんか別に好きじゃなかった。それは嫌いと言うことではなく、単に興味が湧かないというだけの話であった。よく「女の子のなりたい職業ランキング」で花屋は上位に位置しているが、私はなりたいとは一度も思ったことはなかった。
ではなぜこんなところ、つまりは校舎裏の植物園にいるのか。その答えはせっせと花に水をやるこの人にあるのだった。
「ボクは、薔薇の観察日記をつけているんです」
「知ってる。何が面白いの?」
「彼女たちは毎日表情を変えます。具合が悪そうであれば肥料をあげますし、陽の当たるところに植え替えてあげるんですよ」
「甲斐甲斐しいのね」
私は彼が水をやる傍で、ベンチの上で膝を抱えていた。花は別に好きではないけれど、その様子をじっと眺めていた。私はここから動かないけれど、彼はあちらこちらと動き回る。
「退屈じゃありませんか!」
「別にぃ!」
少し離れたところにいた彼がそう叫んでくるので、私は顔を膝に埋めながら叫び返した。花なんて好きじゃないけど、嫌いでもない。でも、ほんの少しだけ嫌いになりそうだった。だって私の好きな人は彼なのに、唯一の恋人は彼なのに、彼の恋人はここにいる綺麗な花たちみたいなんだもの。じっとして花の世話を終える彼を待つことは退屈ではないけれど、つまらない。
なんで毎日のように、こんなことしてるんだろう。急に自分の行動が可笑しく思えて、気分が沈み始めた。寒々しい心を温めるように、私は膝をぎゅっと抱え込んだ。
「終わりましたよ。どうしたんです、やはり退屈だったのでは」
「……わかってるなら私にも構ってよ。私だってお水が欲しいし、肥料が欲しいし、陽の当たる所に連れてって欲しいの。はじめくんはいっつもテニスと花ばっかり。テニス部員と薔薇の観察日記はつけているのに、私の観察日記はつけてくれないの?」
そこまで言い終えると抑えていたものがぶわっと溢れてきて、たちまちのうちに涙がこぼれた。一人で泣いて、ばかみたい。
「すみません。そんなつもりは無かったんです」
本当はわかってるの、わかってるのに。握られた手をぎゅうと精一杯の強さで握りしめる。
「君が寂しがっているのに気づけないなんて、ボクはまだ観察不足のようですね」
やっと言えた本心は、静かに受け入れられた。私は彼の薔薇の一輪になれたのかな。
2019/2/11
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