ノーマル性癖

「はっ…あ、ラルフ…っ、ど、うですか……っ、痛くは?」
「痛く、なんかっ……ねぇ、よ……っ、ヒュー、ほら、はやくっ……」
 ぐぐっと体内に無理矢理埋め込まれた肉棒が動く。その刺激にラルフは顔をしかめ、ヒューゴの首に腕を回した。引き寄せるととたんに嬉しそうに頬を染める昔の相棒のだれきった顔に若干の気まずさを感じてしまう。そんな顔をするやつだったのかという驚きと昔なじみのだらしない顔への揶揄いたいという悪戯心、そしてそれが向けられているのが可愛らしい女性ではなく自分だということへのムズムズとした羞恥心。なんだか色々なものがごちゃまぜになっていて、ラルフは頭の上の狼耳をぴくぴくと震わせる。
「……本当に、大丈夫――」
「あの、なぁ……っ、少しぐらい乱暴にしたって俺ぁ壊れねえぞ」
「乱暴になんてしたくない!」
「ははっ、女相手にするときもそんな感じなのかよ、公爵サマ?さぞ色男のお前なら何人も食ってきてんだろ。その時みたいにしなくていいんだ。俺に気なんて使うな」
「……嫌です」
 完全に拗ねた声でヒューゴはラルフを睨みつける。ガキ相手の睨みなんて怖くもない。それどころか可愛らしささえ感じてしまう。くくっと笑ってヒューゴの頭をぐしゃりと撫で回す。その動作に子供扱いが伝わったらしく更に不機嫌そうに紫の瞳はラルフを見た。
「……あなただから私は、丁寧に、大切にしたいんです。わからないとは言わせませんよ」
「……使えもしない老犬を大切にしたってなにも見返りなんざないんじゃねえの?」
「見返りなんて求めませんよ」
「実利主義でリターンのない物には冷酷なお前がか?」
「……ラルフ。おしゃべりはそのぐらいにしてこっちに集中して」
「んぅ゛ッ…?!あ゛っ…、く、ぅっ……お、ぃ……っ!今、うご、く、っうあぁっ」
「そんなに元気そうなら私の好きな通りに動いても大丈夫そうですね?」
 ぐぢゅ、と粘着質な音が体内に響く。音とともに熱い剛直が動いてラルフの体内を突き上げた。
「んぅ゛ッ…っ、は、ぁ゛っ、あ゛…ふ、っ、ちょ、ひゅ、ぅ」
「何?ラルフ」
「おまッ、ば、かっ…!そ、ん゛なっ、ぁ゛あ゛ッ…!うっ、ゔご、くなァ゛っ……!!」
「好きにしていいと言ったり動くなと言ったり、どっちですか」
 体内のしこりをヒューゴの陰茎が押した。びくんと体が跳ね上がって息が震える。かすかに痙攣しているとヒューゴはヨガっていると察したらしくそこを重点的に攻め始めた。
「ぐ、っんぐ……っ、は…、っ、ゔぁ゛、っあ゛…!」
「っは、っ……どう、っですか、ラルフ」
 手を取られて握られる。細くて長い指はラルフのものより温度が低い。女みたいな指だ。中性的な見た目も相まってヒューゴは昔から侮られることがあったが、そのたびに頭を回して相手を嘲笑うようなやつだった。すぐに拳が出るラルフとは正反対だ。
「何を考えているんですか」
「あ゛ぁ゛あっ…!!そ、れっ…、ん゛〜っ……、も゛、や゛め、ろっ゛……!」
「ここ、好きでしょう」
 ぐり、と陰茎が擦ったのはラルフのナカ。しこりのあるところだ。そこを陰茎がぐり、ぐり、とゆっくり撫でていく。
「っぉ゛……ひ、っ゛…!」
「わかりやすいですね、あなたは」
「っる、せぇ゛ッ……ッぅお゛…!!」
「そうやって、憎まれ口ばかり。……あなた一人が悪役になればすべて解決するとでも?とんだ自己犠牲ですが崇高だとは言えませんよ」
 今に限って憎まれ口を叩いているのはお前の方だろう。口に出そうとしてもおかしな喘ぎ声しか出てこないからラルフは黙りこくる。まあ、許さないとばかりにヒューゴが奥を揺さぶるから声は出ていたのだが。
「はっ……そろそろ素直になったらどうです」
「な゛ッに、ッ゛あ!あ゛ぅゔッ……!!」
「気持ちいいと、言ってしまいなさい」
 ヒューゴの手が揺さぶられるたび健気に震えていた陰茎を撫で上げた。腰が浮くと押さえつけられ、陰茎を手が扱き出す。
 前と後ろを同時に責め立てられてラルフは耐えきれなかった。開いていた口からよだれが落ち、舌を突き出してヒィヒィと啼いている。肉棒を細くしなやかな指が扱く。体内の顔に似つかわない陰茎がしこりを押しながら擦り前立腺を外から中から刺激した。
「んぐッ!ゔっ……、ぐ、ゔ、ゔぅッ……!!」
「これが好きですか?あなた、結構被虐嗜好を持っていたんですね」
「ッ、あ゛……ッ!ぁふ……ッ、そ、じゃ、な゛ッ!!あ゛ぁ゛ッ!?!?」
 ぐ、と手が陰茎の先端を押して擦った。ぐりぐりと尿道を擦られてもう我慢ができない。勝手に体は浮いて跳ねるし、腰は震えて体から力が抜けていく。だというのにおかしな力が入って強張っている。ラルフがひ、と高い声を上げる。もう終わりが近いのだ。
「ラルフ、ラルフッ……!好き、です……、本当は、あなたがずっと、俺は」
「……っが、ァゔッ!ン゛ッ…!!ンぐぅゔッッ!!あ、あ゛ふぅ……ッ、ぃ、ゅ……ひゅ、ぅ……!」
「ラルフ?」
 俺、と、昔の言葉遣いが出た相棒にラルフは手を伸ばす。簡単に伸ばした手は捕まえられた。自分のモノより薄い手のひらを握り込む。視線を合わせると迷子の子供の、あの頃の目が見えた。出会ったばかりの誰も信用できないとくすぶっていた子供の目。
「……俺は、あんたに酷いことをしてばかりだ」
「ヒューゴ」
「…………でも、でも!俺、俺は……あんたが好きなんだよ」
 ヒューゴの手はラルフの手を引き寄せ、そのままもう片方で見えていない方の目もとに。傷跡をなぞって、苦しそうな顔をしてヒューゴは不器用に笑う。この男は案外器用そうに見えて頑固で不器用なのだ。変わらないんだ。
「俺のことを好きだと言って、おねがいです……ラルフ」
「……俺、は」
 泣きそうな顔が見えた。馬鹿な奴だ。ここまで好き勝手に自分本位で暴れてきたというのに、どうして今更怯えるのだろう。おもしろくて笑ってしまう。
「こら、ヒューゴ。聞け」
 叱るときの声を出せば、びくりと肩が跳ねる。その衝撃で体内のモノがおかしなふうに動いたが悟られないように平静を保つ。
 声を出すのは苦労した。どうしたら真っすぐにきちんと伝わるかがわからなかった。学のないラルフでは、彼の求める言葉なんて察してやることもできない。だけど、だから。ラルフは己の本心をさらけ出した。視線を合わせて、彼に愛を伝える。なんて難しいことだろう。苦笑して、口を開いた。
「──愛している。愛しているよ、愚かな俺の可愛い弟子。死にたいと思えないくらい愛してやるから、恐れるな。お前にはラルフが付いている。愛している、俺の……ヒュー」
 目を見張っている彼に、愚かな愛弟子に、ラルフは笑いかける。愛情が伝わるように。するとヒューゴは背を丸め、耐えるように震えて。そうして。
「っぐぅ……!!」
「は?……え、おい、お前まさか」
 ぐちゅ、という濡れた音が結合部からして、なんとなく感じる陰茎とは別の熱。体内からずるりと抜かれたそれが萎えていてスキンの中には白濁の。
「……イったのか」
「うう……すみませんねえ早漏で!!」
「は、ははっ……!ぐ、ふ、ははっ……!!」
「うるさいなあ!!わかってるよ!格好付かないなんて!!ああもう!!クソ!!」
 ぎゃんぎゃんと騒いでいる馬鹿に、ラルフは笑いが止まらない。常々どんくさくてヘタレだと思っていたがまさかここまで雄として決まらない雄だったとは。
「あはっ……ま、まあ……お前らしくていいんじゃねえの……っふは……!」
「…………下手な慰めはいりませんよ」
 いじけてしまった愛弟子に、ラルフは背を起こして腕をその細い体に回す。昔より肉付きが悪くなった。やせていて、細身の、消えてしまわないか心配になるほど頼りない身体。抱きしめて、汗でべとつく身体に少し顔をしかめて。そうしてその可愛い子供にキスを落とす。
「俺がいてもいなくてもダメダメなお前が好きだぜ」
「……なんですかその告白は」
「阿呆で馬鹿で愚かな弟子には俺が付いていないといけないんだろう?ならどこまでも、いつまでも付き合ってやるよ。俺が傍に居てやる。だから、もう諦めるな」
 ヒューゴの体が震えた。いつだってこの子はすべてを諦めて生きていた。親の愛や、人の温かさ。愛されることに、傍に居る誰かの温度。対等な友人すら手に入らなかった子供だった彼はいまもその呪縛にとらわれている。なんとなくわかっていた。だからラルフは赦すのだ。この子が欲しいとねだって手を伸ばすことを。その強欲を。
「……本当にあなたには叶わない」
「そうじゃねえと師匠としての面目が丸つぶれだからなあ」
「……ばか」
「俺は馬鹿だよ。知ってんだろ」
 ラルフの肩に顔を埋め、ぐすぐすと鼻をすすっている子供はやっぱり手がかかる。まだまだ一人前には程遠い。だからラルフはその道の先を共に歩いてやるのだ。そう決めたのだ。一生をかけて、この子を育ててやると誓ったのだ。
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