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関係性の名前

「ねぇ、螢子っていつ彼氏できたの?」

昼休み、唐突に友人の夏美に聞かれた。

「へ?彼氏?」

彼氏なんて…思い当たるやつがいないこともないけど
別に私たち付き合ってるわけじゃないし。

「いるんでしょ!この前二人で歩いてるの見たよー。
リーゼント風のあんちゃん」

「あー…あれ幼馴染よ」

「幼馴染ぃ?ホントに?ただの幼馴染?」

ただの、と聞かれたらまあキスはしてるわけだから
ただの、とは違うかもしれない。

「幼馴染はほんと。
ただの、と聞かれたら、んー…」

キスはもう何回もしてるし、本気なのか知らないけどプロポーズもされている。

私たちの関係って、一体何なんだろ。

「付き合ってはない、ってこと?」

「まあそうね。好きとか付き合おうとか一切、言われたことないし」

一切、を少し強調して言ってみた。

「そうなんだ。じゃさ!螢子今日来てよ」

「なにに?」

「合コン。一人足らなくて。螢子来たら男めっちゃ喜ぶよー」

「あー…でも私そういうの苦手だし」

「とりあえず1回だけ!ね、ね?」

手を合わせて、お願い!をされる。

どっかの誰かとその姿が重なってなんだか断れなくなってしまった。

「…わかった。今回だけ、行ってみようかな。」

「やった!ありがとう〜じゃあ駅前に19時ね。
女性陣は集まっていくことになってるから!よろしくー」




こうして、私の人生初の合コンが決まった。


夕方、いつもどおり幽助を起こしに行き、夕飯を作って一緒に食べる。
それがもう日課になっている。
今日の夕飯は幽助の分だけでいっか。

「幽助ー、起きてる?」

部屋のドアを開ける。
部屋の持ち主はいびきをかきながら爆睡。

「起きなさいっ幽助」

「ぐあ。」

鼻をつまみ起こす。

「ゲホッ…なにすんだよてめー!」

苦しそうにゲホゲホとむせる幽助。
涙目になってなんか可愛い。


「なんであんたは一人で起きれないのよ。
私が起こしにこないと永遠に眠ってるわけ?」

「そりゃ、螢子ちゃんの麗しの声で起きたいからに決まってるからじゃーねか」

麗しなんてどこで覚えたんだか。

「はいはい。わかったから早く着替えて仕事の準備しなさい。
夜ご飯何食べたい?冷蔵庫に豚肉あったから生姜焼きでいい?」

「あ。今日飯いらねー。ついでに仕事も休み。
螢子、このあと何も予定ねぇだろ?」

「え?なんで?」

「今日は桑原たちと飲むだよ。なんか、蔵馬の知り合いの店が新規オープンしたかなんかでお祝いに行くんだとよ。ぼたんとか雪菜ちゃんたちも来るぜ」

いつから決まってたのよ。
合コンなんかじゃなくて、そっちの方に行きたかったわよ。


「残念。私先約があるから行けない。」

「え?!まじかよ。じゃあ仕方ねえな。」

「ぼたんさんたちによろしく伝えといて」

「あいよー」

「じゃ、私予定あるから帰るわね。」

「帰りあんま遅くなんなよ」

「はいはい。」




浦飯家をあとにした私は
夏美から言われた約束の時間に駅前に来た。

女性は私と夏美を入れて4人。
他の二人は知らない子だったけれど、なんとなく他愛のない会話をしてお店に到着。
なんともお洒落なお店。

「こんにちはぁ」

「お、きたきた!こんにちは」


相手側も4人。
軽く挨拶をしてお酒を注文し、
それぞれの飲み物が届くと

「じゃっ、飲み物もきたところで!
カンパーイ!」

幹事の男の子が元気よく挨拶をして合コンは始まった。

みんな同い年の大学生。
幹事の男の子は夏美の高校時代の友人らしく、
男の子同士がいつもつるんでいるグループらしい。


大学の話、サークルの話、どんなゼミに入ってるか
そんな、普通の大学生の会話をしている。


幽助たちとの飲み会だと、
いつも魔界とか霊界の話だとか幽助がどこぞかの国王だとかいう話とか
暗黒武術会の時の話だとか
そんな非日常的な話が多い。
あ、桑原くんと蔵馬くんとは大学の話をちょっとしたりする。

でも普段、日常で大学生活の話をしたことないなぁと
ぼんやり考えていると

「ケイコちゃん?飲んでる?」

「あ、はい。」

いつの間にか、女子男子の席が入れ替わってて
私の隣にはハジメくんという茶髪な男の子がいた。

「ケイコちゃん何飲んでるの?」

「えっと、グレープフルーツモヒート」

「へぇ、美味しそう。一口ちょーだい?」

「え…」

そう言って、手に持っていたグラスをハジメくんに取られそうになった時、





「だーーっはっはっはっ!おめぇこんなところでそれはやめろよ!」

「うるせぇ!浦飯が仕掛けてきたんだろ!!」

「だってホントにやるとは思わねーじゃねぇか!」

「こんのヤロぉぉぉ、、
雪菜さん!!これは僕の本当の姿じゃないですからね!!?」


このお店に似つかわしくない大きな笑い声が聞こえてきた。
そして、私がいつもよくあの声。

少し、パニックになる。

幽助が言ってた蔵馬くんの知り合いのお店ってココだったの?

ココにみんないるの?



深呼吸をする。

うん、落ち着いてきた。

「…なんだかすごく盛り上がってるテーブルがあるんだね」

苦笑いしながらハジメくんが言う。

知り合いっていうのが分かったらどんな反応するのかしら。

こっちは合コンで来てるしなんだか気まずい気持ちがあって
顔を合わせないように気をつけなくちゃ、と思った。

幸い、幽助たちの姿は見えないから少し遠くの席に座っていそうだし。













「あれ?」


お手洗い帰りのぼたん。
仲間のいるテーブルに戻る最中で、
本来呼んでいたが予定があるから、と来られないという螢子見つける。
男女計8人で来てるグループ、
明らかに合コンというものをしている雰囲気。

急いで座席に戻るやいなや、

「ちょ、ちょっと幽助!あっちに螢子ちゃんいたよ!」


「あ?あー…今日なんか予定あるって言ってたからなぁ。
螢子もこの店だったんだなー遊びに行くかー」

ケラケラ、と愉快に笑ってる。

「あんたねぇ!そんなのんきなこと言ってていいのかい!
螢子ちゃん多分合コンしてるよ!!」


「…は?合コン?」


「あぁ、たしかに、この店は雰囲気も良いから合コンをするにはピッタリのお店ですしね。」


「螢子さんもここにいらしてたんですね。
ご一緒できないのは少し寂しいです…」


「あれ?幽助?固まってますけど大丈夫ですか?」


「…合コンっつーと、あれか。男女が飲んでなんかそのあと卑猥なことする、アレか。」

「合コンへの偏見がすごいですね。」

「浦飯、雪菜さんの側でそんな汚らしい言葉を口にすんじゃねぇ!」

「そうだよー、幽助。そんな会に螢子ちゃんがいるんだよぉ。
…って、どこ行くのさ?」


「取り返しに行ってくる。」


ガタッと席を立ちぼたんが教えてくれたテーブルへ向かう幽助。

後ろの仲間たちは、彼女を奪還しに行く彼に声援を送っていた。















はぁ、なんだか疲れてきちゃった。

気を張るわハジメくんからのアタックがすごいわでもう帰りたい。

みんなと飲みたかったなぁ。

なんて、思いながらお手洗いから出る。


テーブルに戻ろうと歩いていたら、そこには1番顔を合わせたくないやつが立っていた。



「…なんでいんのよ」


「お前こそなんでここにいんだよ」

「言ったでしょ、先約あるって」

「なんで合コンなんか行ってんだよ」

「幽助には関係ないでしょ」

「オメェなぁ…本当可愛くねー女」

「可愛くなくて結構。」


言い合いをしてると、ハジメくんがきた。

「ケイコちゃん戻るの遅くて心配したよ、
そしたら声が聞こえてきて。
…って、知り合いの人?」



「あーえっと…」



なんて説明したらいいか、
夏美との会話がふと頭をよぎった。
幼馴染、って言って紹介する?
それとも…



「てめぇ俺の婚約者軽々しく名前で呼ぶんじゃねぇよ」







今なんて言った?



「へ??」

固まってるハジメくん。


「螢子行くぞ。あっちでみんなもう始めてんだから。
あ、こいつの分これで払っといて」

固まってるハジメくんに幽助がお金を渡し、
私の荷物を回収した。
突然の出来事に私がいたテーブルはしん、と静まり返ってしまった。

夏美には後で謝っておかなきゃ。
でも、幽助をみた夏美は初めはびっくりしてたけどすぐにニヤニヤして、ばいばーいなんて言ってきた。
きっと明日学校で根掘り葉掘り幽助のこと聞かれるんだろうな。


手を掴まれながら、みんなのいるテーブルに向かう。

「ちょっと、自己中すぎない?
私は私の用があってココに来てたんだけど」


「お前浮気なんかしてんじゃねーよ、
酔いがさめちまったじゃねーか」


「人の話を聞きなさいよ、てか浮気ってなによ」

「お前の用ってなんだよ」

「合コン」

「それが浮気だって言ってんだよ」

「私にいつ、彼氏ができたのよ」

「あ?婚約者だろ。俺の。
螢子は昔から俺の嫁になるって決まってんだろ。」


二カッ、と小さい頃から変わらない笑顔の幽助。


さも当たり前かのように言われたら

昔っていつからよ
とか
婚約承諾してないわよ
とか色々言いたかったんだけど

胸がドキドキしてなんにも言えなくなった。


「どうした?」

きっと、赤くなっているであろう自分の顔を隠すために下を向いた。


「…なんでもないわよ。

早くみんなのところに行こっ」

幽助の腕をとり、歩く。
心臓がまだドキドキしてる。



「螢子ちゃん奪還!おめでとう幽助ー
そしておかえり螢子ちゃん!」

「わぁ!螢子さんとお会いで来て嬉しいです」

「ぼたんさん、雪菜ちゃん。私もふたりに会えて嬉しい」


「やっぱり浦飯には雪村がいねぇとなぁ」

「螢子ちゃんがいないと幽助、やっぱり少し元気なかったですからね」

「そうですか?アイツの馬鹿でかい笑い声、私たちのテーブルまで聞こえてきましたけど」

「いやーでも違うんだよ。こう、、言葉じゃ言い表せられないんだけど」

「いま幽助、本当に楽しそうですもんね」

「浦飯の隣にはやっぱり雪村!
これはアレだな。ことわざみたいもんだよな」

「桑原くん、何言ってんのよ。」

そう言いながらもきっと私は笑顔なんだろう。


「じゃさ、2人揃ったところで恒例の
ちゅータイム!披露してもらおっかねぇ!」

「よぉしきた!お前らよく見とけよ!
こいつは俺のモンだからな!」

「もう!!ぼたんさんも幽助も酔っ払いすぎ!!」

幽助の腕が肩にまわる。
それだけで今日は心臓がまた、ドキドキと早く動き出す。

ああ、今日もまた幽助に惚れ直しちゃったんだろうな。

本人には絶対言わないけど。

 



私たちの関係、幼馴染で婚約者。

うん、これなら他人に説明しやすい。
明日夏美に聞かれても、堂々と答えられる。


そんなことを思いながら、目の前で繰り広がる楽しい宴会はまだまだ続く。
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