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その言葉を言われると、

「んぅっ」

チュッチュ、とリップ音が響き渡る。それも次第に互いの舌が絡み合ってクチュクチュとした水音に変わっていく。

「はぁっ…ゆ、すけ。ちょっと待って」
「んーなんだよ」

唇を離してジト目でこちらを見てくる。続きがしたいのに、と本人が言わなくても伝わるくらいに不満げな顔をしている。

「こ、これ以上はちょっと無理っていうか…」
「俺すげー我慢してきたんだけど」
「そんなこと言われたって、心の準備が」

首筋にキスを落とされる。

「なぁ、本当にダメか?」

幽助の少し弱々しくも甘い声にあたしが弱いということをこの男は分かっていて、あえてその声を出している。

「螢子が欲しい」

真っ直ぐに見つめられて、好きな相手にそう言われたら断れるわけなんかなくて。
あたしは首を縦に振った。
それを合図に幽助があたしの頬に手を添えて、またキスを始める。幽助になら、幽助だからこそあたしの初めてを捧げたい。だからこれでいいんだ。

そう思ってた矢先ー

「たっだいま〜!お母様のお帰りよー!
あれ、けーこちゃんの靴がある。けーこちゃん来てるのー?」

玄関から相当酔っているであろう温子さんの声が聞こえ、あたしたちは目を合わせた。その瞬間、なんだかとても恥ずかしいことをしている気がして慌てて立ち上がる。

「あ、あたし帰るね!お邪魔しました!」
「あ、おいっ螢子!ちょっと待てよ!」

幽助の制止の声を無視してそそくさと部屋から出て、温子さんにお邪魔しましたと伝えて浦飯家を出る。頬が熱い。もし温子さんがあのタイミングで帰って来なければ、絶対に幽助としちゃってた。そのくらい雰囲気に飲まれてた。それが嫌というわけではないけど、なんとなく、その一線越えたら幽助と今までのように接せれなくなりそうで。行為への不安もあるけど、幽助との関係への不安の方が大きいのかもしれない。そもそも、あたしたち付き合ってたっけ?告白もなにもないけれど、自然とキスして自然とそういう行為をしようとしていて、それはつまり恋人じゃないとできない行為なのにあたしたたは恋人同士なのか?
考え出したらキリがない。考えるのはやめておこう。


□■□

翌日、あたしはゼミの友人と近くのショッピングモールに買い物に来た。昨日の件を考えすぎることもなくリフレッシュできるので、誘ってくれた友人にとても感謝している。

「サエコ、今日は誘ってくれてありがとね」
「なにケーコ?急にどしたの?」
「ううん、ちょっと言いたかっただけ」
「なにそれ照れる〜あ!あそこのCDショップみたい!ケーコどうする?見に行く?」
「あたしはここで待ってようかな」
「オッケー!チャチャっと見に行ってくるね!」

サエコを待つためにお店の前の通路にあった椅子に腰をかける。
1人になるとどうしても昨日の出来事を思いだし、昨日の情景が嫌にでも浮かんでしまう。ダメだ、と思い考えすぎないようにふとCDショップの入口に目をやる。
すると、そこから友人ではなく今まさに頭に浮かべていた人物が出てきた。
幽助?なんでここに?
そう思うと目線はどうしても彼に行ってしまい、幽助もその視線に気付いたのがあたしの方に顔を向けた。

「け、螢子」

気まずそうな表情ですぐに分かった。なにか隠し事をしているんだ、と。
ツカツカと幽助の目の前まで歩いていく。

「幽助、こんなところで何してるの?」
「あー実はちょっと野暮用で…」

「ユースケ!お待たせ!」

幽助の後ろから可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。ぞわりと嫌な予感がする。
幽助の前に立っているあたしの存在に気づいたその子は、

「ユースケ?だあれその人?」
「あーこいつは幼馴染で、だな、」

その続きはなんなんだろうと続く言葉に胸がドキドキした。

「幼馴染なんだ!初めまして〜
わたしはユースケの彼女のキララです!
よろしくね〜」

そう言いながら彼女と名乗った女の子は幽助の腕に絡みつく。
くっつくなよ、とわざとうざったそうにしている幽助はすごく動揺していて。
頭が真っ白になるとはこういうことなんだろう。

「お前っ余計なこと言うんじゃねーよ」
「だって本当のことじゃーん」
「ちげーだろ、螢子、これは訳があって」

「あたし。友だちときてるから。邪魔してごめんね。バイバイ」 

自分でも驚くほど冷たい声が出たなと思う。
2人が何かを言い合っていたのは全く耳に入ってこなくて、1人取り残されたような孤独感だけが残り足早にその場を去った。

□■□

「くっそ…螢子のやつ誤解解く前に行っちまったぜ」

あの最後の声、聞き覚えがある。
俺が魔界に初めて行くと土手であいつに言ったあとに言われた時の「バイバイ」。あの時と全く同じ声だった。これはやばいと本能が察知する。

「あのさ、お前のボディーガードにはなるって言ったけど彼氏になれなんて依頼されてねーよ」
「えーいいじゃぁん!わたし幽助すごいタイプなの!このまま付き合お?」
「わりぃけど、俺大事なやついるから無理。
そういうことになるなら、この仕事降りるわ」
「えっ、うそごめん!ボディーガードはまだ続けてほしいの」
「じゃあ、ああいうこともう二度と言わないでくれよな」
「ごめんなさい、、」
「ま、わかってくりゃあいいんだけどよ!」

これ以上のこの依頼主から余計なことを言われないためにも、まずはこっちと決着がついてよかった。あとは本命のあっちか。かなりまずい状況だから、早めにケリつけねーとな。そうとなったらボディーガードの仕事が終わったら即あいつの家に行くか。


キララを宿泊しているホテルまで見送り、急いで雪村食堂まで向かった。日が落ち始めているから、そろそろあいつも家に帰ってきているだろう。
雪村食堂へ入るとおっちゃんとおばちゃんが仕込みをしている途中だった。

「こんちはーっケーコいる?」
「お、幽ちゃん!ケーコは今日駅前の居酒屋で大学の飲み会があるっつって、帰り遅くなるだろうなー」
「そっか、教えてくれてありがとな!」
「また喧嘩かい?」
「鋭いなーおばちゃんは」
「喧嘩するほど仲がいいってことよね。」
「俺はそう思いてぇけど、な。
仕込み途中だったのにごめんな、んじゃ!」

□■□

幽助たちと会ったあと、元からゼミの飲み会があったためそのままサエコと一緒に居酒屋へ向かった。正直、ここへ来るまでどんな会話をしていたかも全く覚えていない。

「珍しいね、ケーコがこんなに飲むなんて」
「そういう気分の時だってあるんですー」
「大丈夫?なんかさっきからケーコ様子おかしくない?」
「そんなこと、ないよ」

幽助の腕に女の子が触れていた。それも知らない女の子。そんな事実を目の当たりにしただけでこんなにも心が乱されるなんて。

「お、雪村ちゃんいい飲みっぷりだね!
さぁさ、どうぞどうぞ」

とくとくとく、とビールを空いたグラスに注がれていくのをボーッと見守る。

「先輩ありがとうございます」
「ケーコ大丈夫?そんな飛ばして」
「いーの!」

彼女ってなによ。昨日のはなんだったのよ。
1人でドキドキしてバカみたいじゃない。
だんだんイライラしてきた。
たしかに幽助から好きとか付き合ってくれとか、そういう言葉一切言われたことないけど。
なんとなく、あたしたち今までの関係よりももう少し、恋人らしい距離になれたかなっておもってたのに
昨日のは彼女との予行練習だったわけ?あー腹立つ。バカ幽助!
そんなことを考えていると、ブーブーッとポケットの中に入れている携帯震えてメッセージの受信を知らせた。取り出してメッセージを確認すると、先ほど悪態をついていた本人からだった。

【今日飲み会なんだろ?昼の件で話したいことあるから、駅前で店だして待ってるから終わったら顔出してほしい。】

昼の件?彼女のこと?もうどうでもいいわよ。幽助の顔も見たくない


□■□

おっちゃんたちから螢子の情報を聞いて、今日の屋台は駅前でやることにした。あいつは絶対このロータリーを使って家に向かうはずだから、近くのこの場所で張ってりゃ絶対捕まえられるだろう。

「今日ゆうちゃんキョロキョロしててどうしたんだよ?」
「あ、すんません。ちょっと探してるやつがいて」
「彼女さん?」
「まあそんなとこっす」

改めて螢子のことを第三者に説明する時はなんと言って紹介するのが正しいのか。彼女?が妥当なのか、改めて言うのは少し照れるな。なんて考えながら客がラーメンを啜る姿をボーッと眺めていた。


段々と客も減り暇になった俺は携帯を出して返信が来ているか確認するが、音沙汰なし。もう24時近くになったのでそろそろ店をたたむ準備をしなくてはいけないのだが螢子の姿は一切見られなかった。

「ちくしょー無視かよ
でも今回は俺があいつに前もって説明してねーからな…」

自分の行いに反省をし、これからは螢子に先に仕事のことを伝えようと決心したその矢先、螢子と誰かがロータリーへと向かって歩いてくるのが見えた。

□■□

「雪村ちゃんって結構飲めるんだね!初めてあんなに飲んでるの見たよ。で、家はこっちで合ってるんだっけ?」
「…あれ?」

先ほどまで居酒屋にいると思っていたのに気がつけばお酒を勧めてきた先輩と2人で歩いてる、という状況に頭の処理が追いつかない。いつのまにお店を出てきたんだろう。そして身体もふわふわする。お酒でこんなに酔ったことないのに。

「あっ、」

足元がおぼつかずよろけた拍子に先輩に支えられた。

「おっと!雪村ちゃん大丈夫?
ちょっと休もうか?俺んちここから近いん、」

「おい、螢子」

先輩に支えられたと思ったら、後ろの方から強い力で引っ張られ誰かの胸の中に引き寄せられた。抱きしめられるように包まれているこの感覚は見覚えがあって

「ったく、飲み過ぎだっつーのバーカ」
「ゆう、すけ?」
「えっと、君は…」
「あーこいつの知り合い?螢子が迷惑かけてわりーな」
「いや別に…」
「でもよ、コイツに触れていいの俺だけだから二度と触んじゃねーぞ。分かったらうせろ」
「ひっ!す、すみませんでした!」

そう言って逃げ出す先輩をあたしはまだボーッとしながら眺める。幽助迎えに来てくれたんだ、なんて喜んでいる単純な自分にため息が出そうだ。

「なんで?彼女さんいいの?」
「連絡無視すんなよバカ」
「バカはあんたでしょ」
「昼の件ちゃんと話してーから、俺んちいくぞ。」
「あ、ちょっと」

彼女いるのに、彼女じゃない女の子家に入れて良いわけ?どういう神経してんのよ。まさか、この前の続き?だめだ。お酒で頭がちゃんと回らないし力も入らない。やめてって言わなきゃいけないのに、握られてる手が温かくて離したくなくて。気がつけば浦飯家に到着していた。

「あれ、誤解だから。」
「誤解?」
「あれは何でも屋の方の仕事。あいつ妖怪なんだけど人間界で観光したいつって。こっち来たときに道に迷って知らねーやつに声掛けたら、そいつがどーやらあいつに惚れたみたいでストーカーされてて困るからボディーガードしてくれって依頼されたんだよ」

スラスラと幽助に説明されているけど、詳しい内容があんまり入ってこなくって。でも、要はあの子は幽助の彼女じゃないっていうことは理解できた。

「お前また変な勘違いしてただろ?」
「あっちからそういう風に言ってきたんじゃない」
「う゛。そうだけどもうちょっと俺を信じてくれよなー」
「約束守れない人の話なんて信じられる訳ないでしょ」
「な、なにも言い返せねえ」
「普段からの行いが物を言うわよね」
「オメーもう酔い冷めてんだろ」

いつもの小言が出てきやがった、なんて悪態ついてくるのこの男のことにあたしはどうやら相当惚れているのかもしれない。
そんなことを考えているあたし自身はやはりまだ酔っているのかもしれない。

「ねぇ、幽助はあたしのことどうおもってるの?」
「どうって」
「ただの幼馴染?」
「…ちげーよ」
「じゃあ、彼女?」
「俺は、そう、俺らは付き合ってるっつーかそんな感覚だったけど」
「でもあたし言われてない」
「んあ?なにを?」
「好きとか付き合ってとか」
「あー今更じゃね?」
「幽助のそーゆーとこ好きじゃない。結婚しようはすぐ言ってくるくせに」
「あーわーったよ!螢子ちゃん好きです。ボクと付き合ってください!これで満足かよ」

半ば投げやりな告白にも感じるけどそれでも言葉にしてくれるやっぱりすごく嬉しくって。

「ふふっうん。いいわよ、付き合ってあげても」

なんて、答えたら幽助の耳が真っ赤になっていた。

「耳赤いわよ?」
「仕方ねーだろ!好きとか、言い慣れてねーんだから…」
「かわいー」
「はあ?お前まだ酔ってんのか?」

隣に座っている幽助の腕に自分の腕を絡めながら、肩口に頭をスリスリと寄せる。

「お、おい。どうしたんだよ。」
「幽助」
「なんだよ?」
「あたしのこと好き?」
「さっき言っただろ」
「もう一回」
「好きだって」

身体が自然と動いて幽助にキスをしていた。幽助は目をまんまるとさせあたしを見ている。

「け、」
「あたしも、幽助が好き。誰にも触られたくないぐらい」

人は、好きと言われただけでこんなにも相手のことを求めたくなるものなのか。言葉にしてもらうだけで幸福感で満たされる。
幽助がほしい。
またキスをして初めてあたしから舌を絡めてみる。ぎこちないと思うけど、この気持ちが幽助に少しでも伝わると嬉しい。
あたしのぎこちないキスにも幽助は応えてくれて、幽助の舌があたしの口内を優しく犯してくれる。それがとても気持ちよくて身体の芯がジンジンと疼いてくる。少しを目を開けてみると何かに耐えるように眉を顰めている幽助が見えた。その姿がとても色気があって欲情してしまう。

「んぅっ…ゆうすけ」

もっともっとくっつきたくて、座っている幽助の上に跨るようにして座った。

「お、い、螢子これ以上はまずいって。
我慢できなくなるから」
「いいけど?別に。」
「オメー酔ってんのにヤレるわけねーだろ。
初めてのセックスが酒のせいで覚えてないとか最悪だろ」
「昨日はしようとしたのに?」
「昨日はシラフだったろ」

それでも今、あたしは幽助と一つになりたい。自分でも聞いたことのない甘ったるい声で幽助、と呼んで着ているシャツのボタンを上から外していく。

「本当にだめ?」

首を傾げて上目遣いで幽助を見る。
幽助があたしの弱い仕草を知っているように、あたしだって幽助が弱い仕草も知ってるんだから。

「っくそ、どうなっても知らねーぞ」
「うん」

幽助の手があたしの頬にかかり、またキスが始まる。深く深く、お互いを求め合うように舌が絡まりあう。これから始まることに不安と緊張と期待が入り乱れているのに、幽助のキスで不思議と落ち着いている自分がいる。

「っ、ベッド行くぞ」
「…ん」

ふかふかのベッドに連れてこられたあたしは、


そこで意識が途絶えた。


□■□


「すぅー…」
「え゛」

先ほどまでとんでもない色気を醸し出していた螢子から聞こえる安らかな寝息。

イヤイヤおいおいまじかよ、ここまできてお預けかよ!でも螢子も酔ってたしその勢いっつーのもやっぱり良くねーし、イヤでも軽く、軽く触るだけならいいか?自己処理のためにちょっと協力してもら、いやそんなことしたらぜってー嫌われる。寝込み襲ったなんてバレたら一生口聞いてくれねーだろうな…

悶々としながら気持ち良さそうに眠る螢子の姿を見て、今日はこれでよかったのかもしれないと思う。
だが、次こそは必ず絶対誰にも邪魔されないところでリベンジを、と俺は決意した。
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