女神様に祝福を
「明日、たしか螢子ちゃんお誕生日でしたっけ?」
「あ?ああ、そうだけど」
屋台に来て、俺の自慢のラーメンを食らっている蔵馬から急に螢子の話が出た。
てか、なんでこいつ螢子の誕生日知ってんだ?
「何かしてあげるんですか?」
「んー?別になんも考えてねーけど」
「たしか幽助たち今年で20歳ですよね?
記念すべき成人になる日なのに。
‥まあ幽助らしいといえば幽助らしいけど」
「おいこら、どういう意味だ
成人だろーか未成年だろーが俺には関係ねーぜ」
「会う予定は?」
「特にしてねーけど、毎日俺んち寄るから
家には来んじゃねーか?」
「…はあ。」
蔵馬はわかりやすいほど大きなため息をつく。
「な、なんだよ」
「いや。まあ、幽助ですもんね。」
頬杖をついて呆れたような表情を俺に向ける。
「だからどういう意味だっつーの!」
「これ、あげるから螢子ちゃんと行ってみたらどうですか?
俺からの誕生日プレゼントですよ。」
そう言って蔵馬から渡されたのは、映画のチケットだった。
「『あなたに逢いたい』?
なんだこの恋愛ド直球のタイトルは‥
俺こういうの苦手なんだけど」
題名からしてわかる。
ゴッテゴテの恋愛映画なんだろう、そういうの見ると虫唾が走る。
「今若い子の間で人気らしいですよ。
職場の子からもらったんですけど、あいにく俺にはそういう相手がいないもんで」
「天下の蔵馬様が誘えば誰でも女は来るんじゃねーの?」
ケケケ、と笑いながら言うととんでもないことを言ってきた。
「そうですね、じゃあ俺が明日螢子ちゃん誘って行ってきますよ」
「は、はあ?!なんでそーなんだよ!」
「俺が誘えば誰でも来てくれるんでしょ?」
いつもの笑顔のはずなのに、俺には悪魔が笑っているようにしか見えねーよ‥
「わ、わーったよ!明日俺が螢子と行くからくれ!」
「最初から素直にそう言えばよかったのに」
「‥うるせー」
「彼女の誕生日、ちゃんとお姫様のようにエスコートしてあげるんですよ」
「姫ってガラじゃねーぞ」
「あ、女神様でしたね」
「忘れろ!」
「あははっ」
こうして、俺は恋愛映画のチケットを手に入れた。
きっと螢子の誕生日が終わったあと色々と探られるだろうが、まあテキトーに流せばいいか。
そして迎えた、螢子の誕生日当日。
いつもよりも早くに目が覚め、ベランダで一服かます。
「つか、螢子今日家来んのか?
なんも予定聞いてねーけど‥」
当たり前に来ると思っていたが、もしかしたら誕生日だとかで大学の友人たちに声をかけられているかもしれない。
その中に男でもいたら?
‥胸くそわりぃ
もし螢子が来なかったら?
蔵馬からもらったチケットが無駄になってしまうかもしれない、蔵馬にも悪いが、螢子の誕生日という日を一緒に過ごせないかもしれない。
今まで誕生日という日を特別に考えたことはなかったが、人間では成人になる20歳という節目の誕生日。
今更だがなぜか、実は誕生日とは特別なものなんじゃないか、と考え始めた。
自分が一応20歳という誕生日の時はすげーご奉仕してくれたし、甘えてきたりしてすげー可愛かった。
何も用意はしてないけど、なんとかなるだろ。螢子を待つだけじゃダメだ、
「大学へ迎えに行くか」
1人呟き、タバコの火を消してジャケットを羽織る。
携帯から螢子へ連絡を入れてみる。
【お前まだ大学?】
【そうだよ、あと授業が1限残ってる】
思いの外早くに返信がきた、
1限って何だ?まあとりあえずまだ大学なら、今から行っても間に合うだろ
俺は家を出て螢子の通う大学へと向かった。
キーンコーンカーンコーン、
「終わったー」
「帰ろ帰ろっ」
「ねー、螢子今日誕生日でしょ?予定ある?」
講義が終わり、友人たちと帰る最中あたしの誕生日の話題になった。
「んー特には、」
「じゃあさ、みんなで螢子の誕生日会しよーよー!カラオケ行ってー、そのあとマサキの家でオール飲み!螢子のお酒解禁をお祝いしなくっちゃ!」
「わたしも行くー!」
「俺ん家かよ!‥まあ、雪村来るならいいけど」
「あはは、みんなありがとう。でもいいよ、帰ったら寄るところあるし」
「えー?いつもの幼なじみくんのところ?」
「うん、まあね」
「だって何も約束されてないんでしょ?」
「そうなんだけど、」
今日になって、幽助からの連絡は一度もない。
今年はハタチという大人になる記念だったからもしかして、なんて淡い期待を抱いていたがもちろんなにも起こることはなかった。
デートの約束もされてない、むしろ連絡すら一言もない。
そもそもあいつあたしの誕生日覚えてるのかしら?
誕生日だから特別に、なんてあいつの頭にあるわけないか、と冷静に分析している自分が少し寂しい。
自分が会いたいから、自分から会いに行くなんて。特別なことはしてもらわなくていいのに。ただ、幽助から会いにきてくれればそれだけで今日は特別な日だって思えるのに。
考えれば考えるほど、悲しくなる。
「マサキだって螢子の誕生日お祝いしたいよねー?」
「あ、ああ、」
「ほらほら!みんな螢子のハタチの誕生日、一緒に過ごしたいんだよー!」
「そう?ありがとう、じゃあ」
友人たちの気持ちが嬉しく、誘いを受けようとした瞬間あたしの携帯が鳴った。
「あ、ちょっとごめんね」
友人たちに謝りを入れて、電話に出る。
『もしもし?』
『おめーどこにいんの?』
『どこって、大学だってば』
『だから大学のどこだって聞いてんだよっ』
なぜかイラついてる幽助の声に、自然とあたしもイラついて答えてしまう。
『はあ?なんでよ?』
『ったく、何で学校ってのはこんなに人が多いんだよくそっ
居たっ』
その瞬間、電話が切れた。
「なんなの?意味わかんない」
「螢子大丈夫ー?」
「あ、ごめんね。なんでもない!じゃあ」
行こっか、そう発する直前だった
「やっと見つけた。おっせーよブス」
後ろから腕を引っ張られて、振り向く。
「幽助‥?」
「ったく、人は多いわ寒いわタバコ吸えねーわで散々だったぜ」
「な、なんであんたがココにいんのよ!」
「何でって、迎えに来たんだよ」
「迎え?あたしを?」
「他に誰がいんだよ」
「だ、だって、え、なんで?」
「今日お前誕生日だろ」
「‥覚えてたんだ」
「当たり前だろ、だからほら、行くぞ」
「えっ、でもあたし」
後ろで待っている友人たちを見る、すると
「なんだーやっぱり約束あったんじゃない!もうっ早く言ってよ」
「約束っていうか、」
「わたしたちのことはいいから、デート楽しんできてね!また別の日にお祝い会しようね〜」
「せっかく誘ってもらったのに、ごめんね」
「なーに言ってんのよ、彼氏との約束の方が大事に決まってるでしょ!
じゃああたしたち帰るね、ほら、マサキ行くよ」
「お、おお、じゃあな、雪村、」
「あ、うん、みんな本当にありがとうね。
バイバイ」
3人に手を振り、別れを告げる。
ふと左手を見ると幽助に手を繋がれていることに気づいた。
普段こんなこと絶対しないのに。
「‥で?どうしたの、急に」
「だからさっきから言ってんだろ、誕生日祝ってやるって」
「なんでそんな上目線なのよ」
「い、いいじゃねーか!ほら、早く行くぞ」
「あちょっと!」
手を繋がれたまま、幽助のあとを追うように歩く。
「どこ行くの?」
「映画館」
「映画館?!」
あまりにも意外な単語が幽助から出てきたので、驚いてしまった。
「んだよ、行きたくねーか?」
「そういうことじゃないけど、まさか幽助から映画館に行きたいなんて‥」
「昨日蔵馬から映画のチケットもらったんだよ。」
これ、と言って幽助はおもむろにポケットからくしゃくしゃになった映画館のチケットを出してきた。
「蔵馬も貰いもんらしいけど、2人で行ってこいって言われて」
「あ、これ、」
「なんだ?もう見たか?」
「ううん、見たいなって思ってたやつ。
さすが蔵馬くん、センスあるわね。今度お礼言わなくちゃ」
「もらってきたのは俺だぜ?俺にも言ってくれよ」
「はいはい、あたしの元にチケット運んでくれてありがとう」
「かーっ!可愛くねーやつ」
「だって事実でしょう?」
「誕生日の日ぐらい素直に、
幽ちゃんありがとう♡とか言えねーのかよ」
「映画何時から?」
「無視かよ!」
いつもの他愛無い話をしつつ、映画館に向かう。いつもの会話だけど、今日は幽助と映画デートでしかも手も繋いでる。普段、外にデートなんてあたしから誘ってもあまり行ってくれないし、まして手を繋ぐなんていつ以来?キスをしたり、身体を合わせることはするけれど、外でこんな風に恋人っぽくするのは初めてかもしれない。
やっぱり今日は特別な日、なんだな。
「ん?何笑ってんだ?」
「え、笑ってなんかないわよ」
「そうか?」
鈍感なんだか鋭いんだか。
見たかった映画は、やはりとても素敵なものだった。
幼なじみな2人。ずっとそばにいた彼が遠くへ行ってしまうことになり、主人公は初めて自分の気持ちを彼に伝えた。会えなくてさみしいという告白に、彼も全力の愛で応えてくれて離れ離れに暮らしていてもお互いが思い合い、たまにはすれ違いもありながら遠距離を乗り越えて最後にハッピーエンドを迎える、という物語だった。
ありきたりなのかもしれないけれど、どこか自分たちと境遇が似ている感じてしまい主人公に感情移入をして、よりストーリーにのめり込んでしまった。
まあ、あたしの場合は思いっきりフッてやったけど。
エンドロールが流れ、隣をチラリと見る。
幽助は大きなあくびをした。
映画館が明るくなり、続々と人が出て行く。
「あら、寝なかったの?」
「おー」
「偉いじゃない」
「まあなー」
のびをしながら返事をされるところを見ると、眠気に耐えながら起きててくれたんだ、と少し嬉しくなった。
幽助はどんな気持ちでこの映画を見たんだろう。
まあ何も考えてないわよね。
「あ、そろそろお店出す時間でしょ?帰ろっか」
「今日は休みにした」
「へ?」
「飯でも食いにいこーぜ。何食いたい?」
「なんか今日、幽助が怖い」
「な、何でだよ」
「だって様子がおかしいんだもの」
「おいおいっ俺はただお前の誕生日をだなー!」
「本当にそれだけ?」
「ったりめーだろ」
ジーッと幽助の目を見つめてみる。
うん、嘘をついてるようには見えないけど
「何か怪しいのよねー」
「おめーは人の優しさをもっと信用しろっての」
「だって幽助が怖いくらいに優しいから」
「あのなー!ったく、ほれ。」
そう言って、差し出された手をあたしは握る。
「普段は手なんか繋がないのに、今日はどうしたのよ」
「エスコートだよ」
思いのよらない言葉が出てきて、ぷっと吹き出してしまった。
「てめっ、そんなにおかしいかよ」
「だってあんたからそんな言葉出るなんて。
あ、蔵馬くんの受け売り?」
「うるせー」
「やっぱり蔵馬くんにもお礼言わなきゃ」
「だから俺にも」
「はいはい、なに奢ってもらおうかな」
「ラーメンか?」
「何で誕生日にまでラーメン食べなきゃいけないのよ」
「冗談だって」
子どものように笑ってみせる幽助を顔を見て、ほっぺをつねる。
「いって、なにすんだこのアマ!」
「魔族様がこんなことぐらいで痛いわけないでしょー?」
「そういう問題じゃねんだよっ」
ほっぺをさする幽助を見て、どうしてこんなにも愛おしいと思うんだろう。
触れたいと思うときに触れられて、
声を聞きたい時に声が聞けて、
抱きしめてほしい時に抱きしめてくれて。
会いたいと思う時に、会いにきてくれた。
それだけでやっぱり今日は特別な日だった。
「今日幽助の家泊まるね」
「まじ?」
「うん。」
「っしゃ!じゃひとつ大人にになった螢子ちゃんを美味しく頂きますか!」
「なんであたしがあんたにあげなきゃいけないのよ」
「あ、プレゼントは俺が欲しいってことか?」
「‥ばーか」
「素直じゃねーなー
今夜は寝かせねーからな?」
「本当バカ!」
「螢子」
急に立ち止まった幽助に驚いて顔を見上げる。
「誕生日、おめでとう」
「‥ありがとう」
幽助からの甘いキスに、あたしは目を閉じた。
「あ?ああ、そうだけど」
屋台に来て、俺の自慢のラーメンを食らっている蔵馬から急に螢子の話が出た。
てか、なんでこいつ螢子の誕生日知ってんだ?
「何かしてあげるんですか?」
「んー?別になんも考えてねーけど」
「たしか幽助たち今年で20歳ですよね?
記念すべき成人になる日なのに。
‥まあ幽助らしいといえば幽助らしいけど」
「おいこら、どういう意味だ
成人だろーか未成年だろーが俺には関係ねーぜ」
「会う予定は?」
「特にしてねーけど、毎日俺んち寄るから
家には来んじゃねーか?」
「…はあ。」
蔵馬はわかりやすいほど大きなため息をつく。
「な、なんだよ」
「いや。まあ、幽助ですもんね。」
頬杖をついて呆れたような表情を俺に向ける。
「だからどういう意味だっつーの!」
「これ、あげるから螢子ちゃんと行ってみたらどうですか?
俺からの誕生日プレゼントですよ。」
そう言って蔵馬から渡されたのは、映画のチケットだった。
「『あなたに逢いたい』?
なんだこの恋愛ド直球のタイトルは‥
俺こういうの苦手なんだけど」
題名からしてわかる。
ゴッテゴテの恋愛映画なんだろう、そういうの見ると虫唾が走る。
「今若い子の間で人気らしいですよ。
職場の子からもらったんですけど、あいにく俺にはそういう相手がいないもんで」
「天下の蔵馬様が誘えば誰でも女は来るんじゃねーの?」
ケケケ、と笑いながら言うととんでもないことを言ってきた。
「そうですね、じゃあ俺が明日螢子ちゃん誘って行ってきますよ」
「は、はあ?!なんでそーなんだよ!」
「俺が誘えば誰でも来てくれるんでしょ?」
いつもの笑顔のはずなのに、俺には悪魔が笑っているようにしか見えねーよ‥
「わ、わーったよ!明日俺が螢子と行くからくれ!」
「最初から素直にそう言えばよかったのに」
「‥うるせー」
「彼女の誕生日、ちゃんとお姫様のようにエスコートしてあげるんですよ」
「姫ってガラじゃねーぞ」
「あ、女神様でしたね」
「忘れろ!」
「あははっ」
こうして、俺は恋愛映画のチケットを手に入れた。
きっと螢子の誕生日が終わったあと色々と探られるだろうが、まあテキトーに流せばいいか。
そして迎えた、螢子の誕生日当日。
いつもよりも早くに目が覚め、ベランダで一服かます。
「つか、螢子今日家来んのか?
なんも予定聞いてねーけど‥」
当たり前に来ると思っていたが、もしかしたら誕生日だとかで大学の友人たちに声をかけられているかもしれない。
その中に男でもいたら?
‥胸くそわりぃ
もし螢子が来なかったら?
蔵馬からもらったチケットが無駄になってしまうかもしれない、蔵馬にも悪いが、螢子の誕生日という日を一緒に過ごせないかもしれない。
今まで誕生日という日を特別に考えたことはなかったが、人間では成人になる20歳という節目の誕生日。
今更だがなぜか、実は誕生日とは特別なものなんじゃないか、と考え始めた。
自分が一応20歳という誕生日の時はすげーご奉仕してくれたし、甘えてきたりしてすげー可愛かった。
何も用意はしてないけど、なんとかなるだろ。螢子を待つだけじゃダメだ、
「大学へ迎えに行くか」
1人呟き、タバコの火を消してジャケットを羽織る。
携帯から螢子へ連絡を入れてみる。
【お前まだ大学?】
【そうだよ、あと授業が1限残ってる】
思いの外早くに返信がきた、
1限って何だ?まあとりあえずまだ大学なら、今から行っても間に合うだろ
俺は家を出て螢子の通う大学へと向かった。
キーンコーンカーンコーン、
「終わったー」
「帰ろ帰ろっ」
「ねー、螢子今日誕生日でしょ?予定ある?」
講義が終わり、友人たちと帰る最中あたしの誕生日の話題になった。
「んー特には、」
「じゃあさ、みんなで螢子の誕生日会しよーよー!カラオケ行ってー、そのあとマサキの家でオール飲み!螢子のお酒解禁をお祝いしなくっちゃ!」
「わたしも行くー!」
「俺ん家かよ!‥まあ、雪村来るならいいけど」
「あはは、みんなありがとう。でもいいよ、帰ったら寄るところあるし」
「えー?いつもの幼なじみくんのところ?」
「うん、まあね」
「だって何も約束されてないんでしょ?」
「そうなんだけど、」
今日になって、幽助からの連絡は一度もない。
今年はハタチという大人になる記念だったからもしかして、なんて淡い期待を抱いていたがもちろんなにも起こることはなかった。
デートの約束もされてない、むしろ連絡すら一言もない。
そもそもあいつあたしの誕生日覚えてるのかしら?
誕生日だから特別に、なんてあいつの頭にあるわけないか、と冷静に分析している自分が少し寂しい。
自分が会いたいから、自分から会いに行くなんて。特別なことはしてもらわなくていいのに。ただ、幽助から会いにきてくれればそれだけで今日は特別な日だって思えるのに。
考えれば考えるほど、悲しくなる。
「マサキだって螢子の誕生日お祝いしたいよねー?」
「あ、ああ、」
「ほらほら!みんな螢子のハタチの誕生日、一緒に過ごしたいんだよー!」
「そう?ありがとう、じゃあ」
友人たちの気持ちが嬉しく、誘いを受けようとした瞬間あたしの携帯が鳴った。
「あ、ちょっとごめんね」
友人たちに謝りを入れて、電話に出る。
『もしもし?』
『おめーどこにいんの?』
『どこって、大学だってば』
『だから大学のどこだって聞いてんだよっ』
なぜかイラついてる幽助の声に、自然とあたしもイラついて答えてしまう。
『はあ?なんでよ?』
『ったく、何で学校ってのはこんなに人が多いんだよくそっ
居たっ』
その瞬間、電話が切れた。
「なんなの?意味わかんない」
「螢子大丈夫ー?」
「あ、ごめんね。なんでもない!じゃあ」
行こっか、そう発する直前だった
「やっと見つけた。おっせーよブス」
後ろから腕を引っ張られて、振り向く。
「幽助‥?」
「ったく、人は多いわ寒いわタバコ吸えねーわで散々だったぜ」
「な、なんであんたがココにいんのよ!」
「何でって、迎えに来たんだよ」
「迎え?あたしを?」
「他に誰がいんだよ」
「だ、だって、え、なんで?」
「今日お前誕生日だろ」
「‥覚えてたんだ」
「当たり前だろ、だからほら、行くぞ」
「えっ、でもあたし」
後ろで待っている友人たちを見る、すると
「なんだーやっぱり約束あったんじゃない!もうっ早く言ってよ」
「約束っていうか、」
「わたしたちのことはいいから、デート楽しんできてね!また別の日にお祝い会しようね〜」
「せっかく誘ってもらったのに、ごめんね」
「なーに言ってんのよ、彼氏との約束の方が大事に決まってるでしょ!
じゃああたしたち帰るね、ほら、マサキ行くよ」
「お、おお、じゃあな、雪村、」
「あ、うん、みんな本当にありがとうね。
バイバイ」
3人に手を振り、別れを告げる。
ふと左手を見ると幽助に手を繋がれていることに気づいた。
普段こんなこと絶対しないのに。
「‥で?どうしたの、急に」
「だからさっきから言ってんだろ、誕生日祝ってやるって」
「なんでそんな上目線なのよ」
「い、いいじゃねーか!ほら、早く行くぞ」
「あちょっと!」
手を繋がれたまま、幽助のあとを追うように歩く。
「どこ行くの?」
「映画館」
「映画館?!」
あまりにも意外な単語が幽助から出てきたので、驚いてしまった。
「んだよ、行きたくねーか?」
「そういうことじゃないけど、まさか幽助から映画館に行きたいなんて‥」
「昨日蔵馬から映画のチケットもらったんだよ。」
これ、と言って幽助はおもむろにポケットからくしゃくしゃになった映画館のチケットを出してきた。
「蔵馬も貰いもんらしいけど、2人で行ってこいって言われて」
「あ、これ、」
「なんだ?もう見たか?」
「ううん、見たいなって思ってたやつ。
さすが蔵馬くん、センスあるわね。今度お礼言わなくちゃ」
「もらってきたのは俺だぜ?俺にも言ってくれよ」
「はいはい、あたしの元にチケット運んでくれてありがとう」
「かーっ!可愛くねーやつ」
「だって事実でしょう?」
「誕生日の日ぐらい素直に、
幽ちゃんありがとう♡とか言えねーのかよ」
「映画何時から?」
「無視かよ!」
いつもの他愛無い話をしつつ、映画館に向かう。いつもの会話だけど、今日は幽助と映画デートでしかも手も繋いでる。普段、外にデートなんてあたしから誘ってもあまり行ってくれないし、まして手を繋ぐなんていつ以来?キスをしたり、身体を合わせることはするけれど、外でこんな風に恋人っぽくするのは初めてかもしれない。
やっぱり今日は特別な日、なんだな。
「ん?何笑ってんだ?」
「え、笑ってなんかないわよ」
「そうか?」
鈍感なんだか鋭いんだか。
見たかった映画は、やはりとても素敵なものだった。
幼なじみな2人。ずっとそばにいた彼が遠くへ行ってしまうことになり、主人公は初めて自分の気持ちを彼に伝えた。会えなくてさみしいという告白に、彼も全力の愛で応えてくれて離れ離れに暮らしていてもお互いが思い合い、たまにはすれ違いもありながら遠距離を乗り越えて最後にハッピーエンドを迎える、という物語だった。
ありきたりなのかもしれないけれど、どこか自分たちと境遇が似ている感じてしまい主人公に感情移入をして、よりストーリーにのめり込んでしまった。
まあ、あたしの場合は思いっきりフッてやったけど。
エンドロールが流れ、隣をチラリと見る。
幽助は大きなあくびをした。
映画館が明るくなり、続々と人が出て行く。
「あら、寝なかったの?」
「おー」
「偉いじゃない」
「まあなー」
のびをしながら返事をされるところを見ると、眠気に耐えながら起きててくれたんだ、と少し嬉しくなった。
幽助はどんな気持ちでこの映画を見たんだろう。
まあ何も考えてないわよね。
「あ、そろそろお店出す時間でしょ?帰ろっか」
「今日は休みにした」
「へ?」
「飯でも食いにいこーぜ。何食いたい?」
「なんか今日、幽助が怖い」
「な、何でだよ」
「だって様子がおかしいんだもの」
「おいおいっ俺はただお前の誕生日をだなー!」
「本当にそれだけ?」
「ったりめーだろ」
ジーッと幽助の目を見つめてみる。
うん、嘘をついてるようには見えないけど
「何か怪しいのよねー」
「おめーは人の優しさをもっと信用しろっての」
「だって幽助が怖いくらいに優しいから」
「あのなー!ったく、ほれ。」
そう言って、差し出された手をあたしは握る。
「普段は手なんか繋がないのに、今日はどうしたのよ」
「エスコートだよ」
思いのよらない言葉が出てきて、ぷっと吹き出してしまった。
「てめっ、そんなにおかしいかよ」
「だってあんたからそんな言葉出るなんて。
あ、蔵馬くんの受け売り?」
「うるせー」
「やっぱり蔵馬くんにもお礼言わなきゃ」
「だから俺にも」
「はいはい、なに奢ってもらおうかな」
「ラーメンか?」
「何で誕生日にまでラーメン食べなきゃいけないのよ」
「冗談だって」
子どものように笑ってみせる幽助を顔を見て、ほっぺをつねる。
「いって、なにすんだこのアマ!」
「魔族様がこんなことぐらいで痛いわけないでしょー?」
「そういう問題じゃねんだよっ」
ほっぺをさする幽助を見て、どうしてこんなにも愛おしいと思うんだろう。
触れたいと思うときに触れられて、
声を聞きたい時に声が聞けて、
抱きしめてほしい時に抱きしめてくれて。
会いたいと思う時に、会いにきてくれた。
それだけでやっぱり今日は特別な日だった。
「今日幽助の家泊まるね」
「まじ?」
「うん。」
「っしゃ!じゃひとつ大人にになった螢子ちゃんを美味しく頂きますか!」
「なんであたしがあんたにあげなきゃいけないのよ」
「あ、プレゼントは俺が欲しいってことか?」
「‥ばーか」
「素直じゃねーなー
今夜は寝かせねーからな?」
「本当バカ!」
「螢子」
急に立ち止まった幽助に驚いて顔を見上げる。
「誕生日、おめでとう」
「‥ありがとう」
幽助からの甘いキスに、あたしは目を閉じた。
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