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君と撮りたい

「らっしゃーい…って桑原じゃねーか」

「おうっ来てやったぜ!」

屋台の暖簾を分けて入ってきたのは桑原だった。
いつになく機嫌が良さそうで、ニヤニヤと笑っていてる。

「お前なんだよそのツラ、
見てて気色わりーんだけど」

「だはぁ!浦飯くん!
これを見てくれたまえ!」

そう言って見せてきたのは、桑原のスマートホン。
そこに写っているのは満面の笑みで写る桑原と雪菜ちゃんだった。

「あ?これがどーしたんだよ」

「ついに…ついに雪菜さんとのツーショットを手に入れたんだ!」

「あーそうかそれは良かったな
で、今日はなに食う?」

「ああ、これを手に入れるまでどれだけの苦悩があったか…
今日は醤油にすっかな」

「あいよっ
で?その写真いかがわしいことに使うつもりか?」

「ざけんな!
おめーなんかと一緒にすんじゃねーよ!
これはなぁ、自分を励ます時のためにそっと見て自分自身を奮い立たせるために見るんだってーの」

「ほー」

話を聞き流しながら、桑原の分の醤油ラーメンを作っていく。

「家に雪菜さんが居るのもそりゃー幸せだけどよ、学校にいる時は会えねーだろ?
そんな時これを見るとやる気元気が湧いてくるってわけよ」

「写真1枚でそりゃすげーな」

「おめーも雪村の写真見てそんな気起きねーのかよ?」

「俺螢子の写真なんて持ってねーし」

「はあ?!一枚も!?」

「ああ。
ほれ、醤油お待ち」

「お、ありがとよ
オメーまじかよ?」

桑原は心底驚いた顔で俺を見てきた。

「そんなに驚くことか?」

「だって雪村だってお年頃だろ?
彼氏とのツーショットとか撮りたがらねーのかなって」

「んー螢子に写真撮ろうなんて言われたことねーしなぁ」

「まあ雪村のことだからあんまり写真とか撮るタイプじゃねーのかもな」

「まあそんなところだろ」

「それか、おめーのあほヅラを携帯に残したくないとかかもな」

「失敗ヅラには言われたくねーよ」

「なんだとー!?」

「なんだよ!」

そういうと桑原は自分のスマホを見て、ニマニマとまた気色悪い笑顔に戻る。

「ふっ、俺としたことがつまらねーことですぐ喧嘩腰になっちまったぜ」

「写真の効果すげーな」

「まあ浦飯くんも雪村と写真撮ってもらえるといいなー!」

ガハハっと自慢気に笑う桑原を見て、正直少し羨ましく思った。
たしかに俺は螢子とのツーショット持ってねーし、すぐ会おうと思えば会えるからいんだけど。
でも撮っておいて損なことはねーからな、うん。


翌日の夕方、いつも通り螢子が起こしにきた。


「幽助ー」

「起きてるよ」

リビングのソファに座っていた俺は螢子の呼びかけにすぐに声を返す。

「あら、珍しい
雨でも降らなきゃいいんだけど」

「お前は素直に人を褒めることを知らねーのか」

「1人で起きたくらいでなに言ってんのよ」

そう言うと、螢子はノートと筆記用具をテーブルに広げた。

「今日あたし課題やらなきゃいけないから、静かにしててね」

「俺は子供か」

そう言いながら、床に座る螢子を後ろから抱き締める。

「ちょっと。静かにしてって言ったでしょ?」

「うるさくはしてねーだろ」

「邪魔だし課題やりにくいんですけど」

「まーまー」

「もうっ。変なところ触らないでよね?」

「へーい」

螢子を抱きしめてると、なんかすげー落ち着く。やらけーしいい匂いもするし。
あー眠くなってきた…

…あぶねぇ、今日は螢子とのツーショットを撮るって決めてたんだ。

「なぁ、螢子って写真とか撮るのか?」

「写真?」

「スマホとかで。女って写真好きなんだろ?」

「あー、撮るわよ。友だちととか」

やっぱりコイツも撮るタイプなのか。

「俺螢子と撮ったことねーんだけど」

「たしかにそうね。」

「なんでだよ」

「だって幽助とあんまり外出かけないじゃない」

「そーだけど、普通彼氏とのツーショットほしいとか思わねーの?」

「んーだって幽助とほぼ毎日会ってるし」

「俺の顔を学校でも見たくならねーのかよ」

「はあ?あんた何言ってんの?」

螢子より桑原の方が脳内乙女だな。

「なー撮ろうぜ」

「え?今?」

「おうっ」

そう言って螢子のスマホを持ち上げる。

「ちょ、ちょっとなんであたしのスマホなのよ」

「細かいことは気にすんなって
って、これどうやって撮るんだ?」

「もー、あたしがやるから貸してっ」

俺の手から携帯を取り手際よく準備をする、画面に写ってるのは俺たちだった。

「おおっ、鏡みたいに写るんだな」

「インカメラって言うの
あんただってスマホ持ってるでしょ?使ったことないの?」

「インカメラ?で撮ったことはねーなー
てかスマホで写真撮らねーわ」

「宝の持ち腐れね。
ほら、撮るわよ」

カシャ

カメラのシャッター音が鳴る。

「え、もう撮ったのか」

「うん、ほら」

見せられたのは、俺の口が半開きで螢子も真顔で正面を見た写真だった。

「お前もうちょっと、はいチーズぐらい言ってくれよ。写真撮るの下手くそか」

「だっていつもあたしも友だちに写真撮ってもらってるんだもの」

「もう一回だ!もう一回!
次はちゃんと言えよ」

「もー。撮るわよー
はいチーズ」

カシャ

俺は思いっきり満面の笑みをしてやった。

「なにこれっ、無駄にすごい笑顔ね」

「幽ちゃんの泣く子も笑うスーパースマイルだって」

「それって笑われてるの間違いじゃない?」

「うるせー!ほらほら、それ待ち受けにしろよ」

「い、いやよ!なんで幽助とのツーショット待ち受けになんかしなくちゃいけないのよっ」

「いつでも俺の笑顔が見れるからいいだろ〜」

「恥ずかしいから絶対嫌!」

螢子の手からスマホを奪い取る。
そして無理矢理待ち受けに設定しようとしたが

「ちょっと!人の携帯勝手に触らないでっ」

デコピンをされて、気づけばスマホは螢子の手の中に戻っていた。

「いってー!
なんだよ、なんかやましいもんでも入ってんのかよ」

「ないわよそんなもん、あんたじゃないんだから」

「じゃあ少しぐれー貸してくれたっていいじゃねーかよ」

「ダメでーす」

「ちぇ
桑原は雪菜ちゃんのこと待ち受けにしてるってのに、螢子ちゃんはしてくれねーんだなー
愛がねーなー」

「あんたねぇ…」

呆れたように螢子がため息をつく。
俺は螢子を抱きしめていた手を解いて、ソファに横になる。

「さっき撮ったやつ俺の携帯にも送っといてくれよな」

「はいはい。もう寝るの?」

「螢子さんの邪魔しないよーに僕は寝ます」

「なにそれ」

ぷっ、と笑う螢子の顔を見てキスをする。

「んっ」

「課題終わったら起こして」

「はーい」

そう言うと、螢子が俺の頭を撫で始めた。
なんだよ課題やんじゃねーのかよ、と心の中で思いつつも撫でられる手が気持ち良くて、あっという間に眠気に襲われる。
遠のく意識の中、俺もツーショット待ち受けにして桑原に自慢してやろう、とぼんやり考えた。

そして俺はいつのまにか眠りついていた。



「まったく。寝顔だけは昔から可愛いんだから。」

螢子のスマホの中には俺の寝顔が収められていることを知ったのは、もう少し先の話。
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