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愛を込めて、



「ちょいと幽助!!」

部屋のベッドで寝っ転がっていたら、いきなりぼたんが窓から入ってきた。

「うわ!?お前窓から入って来んなっていつも言ってるだろーが!」

「そんな小さなことどーーでもいいじゃないかい!あんたはほんっとにどーしよーもないバカだねぇ!」

頭をポコっと叩かれる。

「った。いきなりなんだよ!」

「螢子ちゃん悲しませて!!」

「…はあ?」

意味がわからなかった。
螢子が悲しんでる?
悲しませてってことは俺が螢子に何かしたってことか?
…全然心当たりがない。
むしろその逆になるかどうかわからないけど、あいつを喜ばせることをここ最近ずっと考えていたぐらいだってのに

「俺あいつにまだなんもしてねーぞ」

「螢子ちゃんはねぇ、最近あんたの様子がおかしくて、幽助は自分に興味がなくなったんじゃないかって心配してたんだよ!」

「なんでそんなことになってんだよ!」

「そりゃあ一緒にいるのに素っ気ない態度ばかりとられちゃ、誰でもそう思っちまうよ!」

「は?俺そんなことしてねーぞ?」

「あんたがそう思ってなくてもねぇ、螢子ちゃんがそう思っちまってるんだから!
悩んでないで、早くとっとと言っちゃいなさいよ!」

「早くって言ってもな…
俺なりに悩んでるだっつの!
つかお前らが仕掛けたんだろ!」


俺は螢子にプロポーズする。
そうあいつらの前で宣言したのは、たしか1ヶ月前のことだったか。


ー1ヵ月前ー

「浦飯よ〜お前らいつ籍入れんだ?」

「はあ?急になんだよ」

桑原、蔵馬、ぼたんと4人で飲んでる時に突然桑原がふっかけてきた。

「いやぁ、先週末職場のやつの結婚式行ったんだけどすげぇ感動しちまってよー」

「奇遇ですね、俺も先週末知り合いの結婚式でしたよ」

「結婚式っていいよなー!
あの感動をもう一度味わいてーんだよ!」

「知るかっ!お前の感動のためになんで俺らが結婚しなきゃいけねぇんだよ」

「いやいや、桑ちゃんのためだけじゃないと思うけどねぇ?」

「ぼたんどういう意味だよ?」

「螢子ちゃん、
幽助のほ・ん・と・う・の!プロポーズ、ずっと待ってるんだってよぉ」 

「…螢子本人が言ってたのか?」

「そうだよ〜っ」

俺もいつかは、と思っていたけど。
いざとなると、なかなか正面切って言えねえ。
言ったとしても、本気だってこと信じてもらえそーにねえし。

「幽助も早く決めないと、知らぬ間に螢子ちゃん取られてた、なんてあり得るかもね」

「ゔっ…」

そんなことありえねーって言いたかったけど、
心のどこかで100%自信が持てないことはたしかだった。

酒の勢いもあったと思う。

でも、

「俺、アイツに言うわ」

「おや!?本当かい?」

「酒に酔ってて忘れた、なんて言い訳きかねぇぜ?」

「あったりめーだ!男に二言はねー!」

「よっ!若大将!」

「プロポーズだろーがなんだろーが螢子に言ってやるよ!」

「一世一代のことだからね。
螢子ちゃんが喜ぶようなロマンティックなプロポーズにしてあげないとね」

「ロマンティック?
結婚しようって言うだけじゃダメなのかよ?」

「幽助はいつも仲直りの言葉で、結婚しようって言うんだろ?」

「な、なんで知ってやがんだ…」

「筒抜けだっての」

俺以外の奴らが一斉に相槌を打った。

「そのいつもの、結婚しよう、とは違うプロポーズをしないと螢子ちゃんも本気だとは思えないだろうからね」

「た、たしかに」

蔵馬に言われると妙に説得力がある。

「蔵馬あったまいー!」

「具体的にどんなことすりゃあいいんだよ?」

「例えば、洒落てるレストランに行って
雪村が生まれた年のワイン頼んで
注いでもらったら、そのグラスの中に婚約指輪入ってて、とかか?」

「ははー!幽助がそんなキザなことできるわけないさねぇ!」

「同感です」

ケラケラとみんなで笑ってやがる。
にゃろう…

「まあ、螢子ちゃんが喜ぶことは幽助が1番分かってると思うから
幽助なりに考えて実行すればいいと思うよ」

「…俺そういうのが1番苦手なんだけど」

「知ってて言ってるんだよ」

笑顔の蔵馬が、悪魔にも見える。

「螢子の、喜ぶこと、か…」


それからというもの、俺は頭を抱える日々を送ることになった。


ーーー


「もうあれから1ヵ月も経ってるってのに、あんたはまだウジウジ悩んでるのかいっ」

「…だっていくら考えてもわかんねーんだよ。あいつが喜ぶプロポーズってやつがよー。
蔵馬に電話で聞いたりしても、前と同じようなこと言われるばっかだし」

「こればっかりは他人の意見よりも、たしかに幽助が決めた方法が螢子ちゃん喜ぶからねぇ」

「あーまじでわかんねぇ…」

「ともかく!螢子ちゃんこれ以上悲しませたらあたしたちが黙っておかないからね!」

「わーってるよ」

「じゃ、良い報告待ってるよーん!」

そう言って、入ってきたときと同様にオールに乗って窓から出て行った。

「ったく、騒がしいヤローだぜ」

しかし、ここ最近の言動で螢子が悲しんでいたとは。
まずは誤解を解かねーと。

俺は螢子に電話をかけた。

プルルル、


「ーはい。」

「あ、螢子。話したいことあんだけど今いいか?」

「‥ごめん、今ちょっとダメなの」

「そっか、んじゃまた後でかけるわ」

「…今日はちょっと厳しいかも」

「んじゃ明日は?」

「…まだわかんない」

様子がおかしい。
電話には出てくれたが、明らかに俺を避けたような返答だ。

「じゃあいつなら良いんだよ」

少し苛立った声が出た。

「大丈夫な時が来たら、連絡するから。
じゃあね」

プツッ

ツーツー…

一方的に電話を切られてしまった。

「おいおい…まじかよ」

早く誤解を解いて
螢子を安心させたかったのに。

なんでこうも上手くいかねーんだよ

俺の舌打ちが部屋に響いた。


✳︎✳︎✳︎



幽助から電話が来た。
話があると言ってた。
話ってなに?
気になる。気になるけど聞きたくない。
嫌な予感がする。

いつもと違う真面目な幽助の声は、
あたしをより不安にさせた。
その話次第で、今のこの日常をなくすことになるかもしれない。
受け入れたくなくて、あたしは話し合いから逃げた。
幽助は明らかに不機嫌な声になっていた。

せっかくぼたんさんに勇気づけてもらって、
幽助を信じようと決めてたのに。

一度不安になってしまうと、
どんどんマイナスな方向にばかり考えてしまう。
あの夢が、正夢になんてなってほしくない。

そしてあたしは、幽助からの連絡を避けるようになった。





✳︎✳︎✳︎




「だーっ!全っ然上手くいかねー!」

幽助は家に蔵馬を呼び出し、螢子に避けられていることを話した。

「こんなん、プロポーズどころじゃねーよ」

「まーまー落ち着いて。
こうなったのも、俺らにも少しは責任ありますから。協力しますよ」

「協力?」

「そう、螢子ちゃんを呼び出すんだよ」

「どうやってだよ?」

「ぼたんに呼び出すフリをしてもらうんですよ。
ぼたんの呼び出しなら螢子ちゃんもきっと来るでしょう。」

「…なるほど」

たしかに、今の自分たちだと2人でまともに会える気がしない
そう思った幽助は、蔵馬の案に乗ることにした。

「で、ぼたんが呼び出したあと、幽助はそこでプロポーズ、ですよ」

「うっ…」

「もう大体決まって来てるんでしょう?」

「…まあ、一応。」

あいつにしてやりたいのと、
やっと思い浮かんだ。
喜んでくれるかは…わかんねーけど

「幽助らしいね。」

「で、蔵馬。
聞きてーことがあんだけどさ。」

「なんですか?」



***


「なるほど。幽助にしてはロマンティックなこと考えたね」

「‥うるせー」

「螢子ちゃん、きっと喜んでくれますよ」

「だといいんだけどよ」

「じゃあぼたんに連絡するよ」

「頼んだ。」

これでダメなら当たって砕けろだちきしょー
こうして、俺の一世一代のプロポーズ作戦はスタートした。

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