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愛を込めて、


「わりぃ、螢子。
俺、二度とこっち(人間界)には戻ってこねー」

「‥どうして?」

「やっぱ、向こう(魔界)で闘い続けてるのが楽しいし、
国を守っていかねーといけないかなって。
北神たちのことも気になるし。
それに」

「それに?」

「‥向こうで、俺と結婚して欲しいって言ってくるやつがいて」

「え?」

「すげー俺の事気に入ってるみたいでよ。
国的にもその方が安泰するってことで
まあ政略的なもんもあんだけど。
なによりそいつからのアピールすごくてさー」

彼女のことを思い出して少し嬉しそうに話す幽助に、螢子は頭が真っ白になっていく。

「なにそれっ‥
今まで待ってたあたしは‥なんなの?」

「だからわりーって言ってんだろ」

「その言葉だけで、あたしたち、終わるの?」

涙がこぼれそうになる。
声がかすかに震え始めた。

「男と女なんてそんなもんだろ。
じゃあな、螢子。
お前も幸せになれよ」


やだ、
待って幽助。
落いてかないで。

お願い‥

「幽助っ!」


目が覚めたら自室のベッドにいた。

「夢、か‥
最悪」

螢子は1人呟いて、気分転換に水を飲むことにした。
携帯で時計を見てみると、まだ深夜2時。
眠ってまだ、数時間しか経っていなかった。


明日は、久しぶりに幽助とのデートなのに
こんな夢を見るなんて。

ここ最近幽助が忙しくて2人きりでいる時間が少なく、
一緒にいても誰かと連絡をとったり、
部屋にこもってしまったりとゆっくり過ごすことができなかった。

なので、久しぶりのデートに心躍らせて昨日眠りについたはずだったのに。

幽助のことを、疑ってるわけではないし
信用してる、はずなのに。

最近の幽助の態度を見ると、どうしても変に勘ぐってしまう。


「ふう‥忘れよっ」

水を飲んで、少しスッキリした。

変に考えていてもなにも変わらない。
明日を楽しもう、
そう、気持ちを入れ替えてまたベッドに潜る。

「また変な夢、見ませんように‥」

螢子は祈りながら眠りについた。





次に起きたときは、すっかり朝になり夢を見ることもなかった。

「幽助迎えにいこっと」

お気に入りのサンダルを履いて
浦飯家に今日のデートの相手を迎えにいく。

「お邪魔しまーす」

リビングに向かう途中、ドアを開けて入ろうとしたら中から話し声が聞こえた。


「ーああ。とりあえずまだバレてない、と思う。」

「大丈夫だろ、あいつああ見えてすげー疎いところあるし。」

「ーまあ、そんときゃなんとかするさ。
いつもワリィな、じゃな」


いつも迎えに行くまで眠っているはずの幽助が起きていることにも驚いたけれど、
話してた内容がすごく気になった。
あいつ?ってあたしのこと?
疎いって‥なに?


ガチャ
リビングから通じる廊下のドアが開いた。

「おわっ!?お前来てたんなら何か言えよ!」

「あたし、お邪魔しますって言ったけど?」

「聞こえねーよ」

「あんたが電話してるからでしょ」

「‥聞こえたか?」

「なにが?」

「内容」

「当たり前でしょ。
聞こえたけど、なんの話かさっぱりわからなかったわ」

「よかった」

安堵の笑みを浮かべる幽助に対して、螢子は少しイラッとした。

「‥聞かれたくない話なら全然違う時にすればいいじゃない」

「急用だったんだよ」

「あっ、そーですか」

「おいおい、機嫌悪くすんなよ」

「別に悪くなってませーん」

「ったく、」

はぁ、とため息をつかれた。
一瞬、昨夜の夢が思い出される。

あんなこと、現実に起きてほしくない。

気持ちを切り替えて、螢子はいつもの調子で聞いた。

「今日、幽助どこ行きたい?」

「んー?おめぇが行きたいところでいいよ」

「じゃああそこのショッピングモール行きたい」

「へいへい」

2人で浦飯家を後にして、電車に乗り
近場のショッピングモールに来た。

新しいワンピースが欲しかったので、お気に入りのブランドのお店に入る。
早速、一目惚れしたワンピースを見つけた。

「あっ、これ可愛い。
ねぇ、幽助どう思う?」

幽助は携帯をいじりながら、あたしの話を全く聞いていない。

「…ねえ、幽助」

「…ん?」

「これ、どう思う?」

「あー。いんじゃね?」

「…試着してくる」

「ああ」

最近いつもこの調子で、
幽助に質問をしても曖昧な返事ばかり。

試着室に入り、ワンピースを着てみる。
落ち込んだ気分でも可愛いものを着ると少しだけ元気が出た。

決めた、買おう。
幽助に買うことを伝えて、お会計を済ます。
すると自然と幽助が荷物を持ってくれる、
そんなさり気ない優しさが嬉しくて、幽助のことを好きだと改めて実感した。

でも幽助は?
あたしのこと本当に好きなの?
最近の様子を見る限り、前ほどの気持ちを感じられなくなった。
…あたしに飽きたのかな。


そんなデートの途中で、ある一件の花屋さんが螢子の目に止まった。
色々な花が飾られているけれど、
その、ひとつの花だけがやけに輝いて見えた。

「わー!
幽助みてみて!」

それは、海の色のように真っ青な色の花。薄くもなく濃すぎることもない、透き通った色のその花に魅せられ螢子はその花に近づいた。

「こんな花あったんだ、すごい綺麗!」

「たしかに見たことねーな。
んなことより腹減ったから早くめし食おーぜ」

チラッとその花を見て幽助はすぐにどっかに行ってしまった。
その花を食い入るように見てた螢子は、いつの間にか幽助に置いて行かれてしまっていたので駆け足で近寄る。

「ま、幽助に花の綺麗さなんてわかるわけないわよね」

「男なんてみんなそんなもんだろ」

「あーら、蔵馬くんだったらきっとわかってくれると思うわ」

「うぐっ…」

なにも言い返せないようで、幽助は黙った。

「俺花なんて興味ねーし」

腹減ったーなんて言いながら前を歩く幽助。
まるで、自分に興味がないかのような態度に、螢子はとても悲しくなった。






そんな出来事があった先週の週末。

今日はぼたんとランチの約束をしていた。週末に買ったお気に入りのワンピースに着替えて、可愛いカフェで待ち合わせ。

「螢子ちゃーん!」

「あっぼたんさん!」

もうすぐお店に着きそうなところで、入口の前に立っているぼたんに気づいた。
ぼたんさんも気付いて手を振ってくれた。
急いでぼたんさんの元へと駆け寄る。

「すみませんっお待たせしちゃって」

「そんな待ってないよっ、
ささっ!お店入ろうかね♪」

席に案内されて椅子に座り、メニューを開く。そこにはフルーツがメインで使われている煌びやかで美味しそうなパフェがずらりと並んでいた。

「全部おいしそうだねぇ!
どれにするか迷っちゃう…」

「ふふっ、ぼたんさんどれがいいんですか?」

「このふどうのパフェも美味しそうだし、メロンも…あ、マンゴーも!」

「あたしメロン食べたかったから、メロン頼みますよ。ぼたんさんもあたしのつまんでください」

「螢子ちゃん、いいのかい!?じゃああたししはぶどうにしようっ!」

2人で決めたあと早速店員さんに注文をした。

「いやぁ、本当螢子ちゃんは女神だよねぇ」

「なに言ってるんですか」

「だーって、こんな優しいからさぁ」

「そんな大したことしてませんよ」

「そんなことないよっ!
コエンマ様と出かけると、むしろあたしがコエンマ様の食べたいものに合わせるぐらいなんだから」

部下は大変だよ、とため息をつくぼたんを見て螢子は思わず、ぷっ、と吹き出してしまった。

「なんだかカップルっぽいですね」

「いやいや、これはまさしく上司のご機嫌をとる部下って感じさねぇ!」

「あははっ」

「あたしも螢子ちゃんみたいに人から愛されてみたいさぁ」

「愛されてるなんて、そんな、」

「またまた照れちゃって!」

「…幽助の本当の気持ちなんて全然分からないんですよ、」

すると、パフェがテーブルに運ばれてきた。

キラキラとしたフルーツがふんだんに使われていて、隣にはアイスクリームが添えられている。
パフェグラスの中にも、コーンフレークや生クリーム、メインのフルーツとは違ったオレンジやピーチなど美味しそうなものが沢山敷き詰められている。

「わー美味しそう!食べましょうっ」

「「いただきまーす」」

スプーンでメロンをすくい、口の中へと運ぶ。
そのみずみずしさを口いっぱいで感じる。

「んー!美味しいっ!」

「こっちのぶどうも美味しいよ!」

「んっ、本当だ。どっちも美味しいですね」

「だねー!あたしゃ本当幸せ者だよ!」

「もー、ぼたんさんったら大袈裟なんだから」

ぼたんとの楽しい会話に
螢子の顔にも笑顔が咲いた。

「…ちょっと話戻るけど、螢子ちゃん幽助とケンカでもしたのかい?」

「…うんん、そういうことじゃないんですけど、」

「側から見たら2人は本当ラブラブ!
って感じなんだけどねぇ」

「そうですかね?」

「2人が、というより幽助の一方的な片思いって感じかもね」

「あははっ、そんなことないですよ」

「螢子ちゃんは幽助のことどれくらい好きなんだい?」

「どれくらい…んー、あんまり意識したことないんですよね」

「夜も眠れないくらいとか?」

「それはないです」

「ははっ、そりゃそーだよねぇ」

美味しいものを食べて楽しい会話をして、
とても幸せな気分なのに、なぜか思い出してしまうのは先週の出来事だった。

「…先週、幽助とデートしたんですけど、あたしすごい気になったお花があって近寄って見てたんです。
海の色みたいに真っ青な色のお花で。
だからあたし綺麗だねって幽助に言ったんです。でもアイツ全然興味なさそうで」

「うん」

「男の子だから仕方ないのかなって思ったんですけど。
ただ一言、綺麗だねっていって欲しかったんです。」

「そうだよね」

「…それに最近なんだか幽助が素っ気ない気がして。あたしといても上の空っていうか、人の話し聞いてるのか聞いてないのかわからない態度なんですよね」

「そっか…」

「あたしも、顔合わせるといつものように色々ふっかけちゃうし。
素直に今のこの気持ち、言えなくって」

「そっか…」

「デート中も幽助ボーッとしてること多くて。それでお花のこともあって、その態度見たら幽助は自分に興味なくなっちゃったのかなって思って…」

「そんなことない!」

バンっ、と机を叩いて前のめりになってぼたんの顔が近づいてきた。

「ぼたんさん…。」

「幽助は螢子ちゃんのこと大大大好きなまんまだよ!」

ぼたんの力説が心強くて、嬉しくなる。

「そうだといいんですけど…
って、ごめんなさい、変な話しちゃって!」

こんな話をするつもりは一切なかったのに、なぜか今日は弱音を吐いてしまった。

「変な話じゃないさねぇ!
大丈夫、幽助は何にも変わってないから!」

「…ありがとうございます」

こんなにモヤモヤした気持ちになってしまったのは、あの夢のせいもあるかもしれない。
胸の奥でどこかで、幽助の態度や夢の内容が引っかかってしまっているけれど、ぼたんの言う通り幽助を信じよう、と螢子は思った。

「あんまり気にしないことにします」

「そうそう!むしろ螢子ちゃんの方が幽助を尻にしく側なんだから思ったこと、ビシバシ幽助に言ってやればいーんだよ!」

「ふふっ、そうですね。」

「さぁさ、これ食べたらあたし行ってみたいお店あったんだよー!
螢子ちゃん付き合っておくれ」

「いいですよ」

残っていたパフェをたいらげてからお会計に向かった。


「んー!美味しかったねぇ!
また来ようねっ」

「はいっ」

カフェを出た2人は、ぼたんの行きたいと言っていたお店に向かうことにした。

「えーっとたしかこの道をまっすぐ行って右に曲がる、、
うん!螢子ちゃん、こっちこっちー!」

「あ、まって!ぼたんさんっ」

パタパタと走っていくぼたんの後をついていく。
そんな、前を走るぼたんの顔にいつもの明るさがなかったことを螢子は知る由もなかった。

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