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幼なじみな僕ら


「明日はいよいよ累重高との試合だから、気を引き締めていこう。
彼らは俺らと同じ全国大会の常連校だ、きっと今後の大会でも戦うことになると思う。
明日彼らに勝つことで今後の大会への自信に繋げたい。
以上、今日の練習は終わり。
今日の片付けはレギュラー陣でやっておくように。解散!」

「「「お疲れ様でした!!」」」



「部長気合い入ってんな。」

「去年の大会、累重高に負けて優勝逃したから仕方ねーんじゃねーの?」

「あーそんなこともあったか」

「それよりも、今日は俺らが片付けだぜ?
だりーなぁ」

「あっちーし、熱中症になっちまうぜ」

「…あ、いいこと思いついたぜ!」

そう言って、桑原は蛇口に繋がれたホースを持ってきた。

「さっきマネージャーたちが、砂埃防止で水撒いてたんだよ。これ使って涼もうぜ」

「?」

「そろそろ来っかな」

そう言うとホースから勢いよく水が飛び出し、幽助に直撃した。

「うおっ!つめてー!」

「だはは!」

「こりゃいいや!」

ホースからは水の塊が飛び出し、
どんどん校庭を濡らしていく。

「みろ浦飯!虹ができてんぜ!」

「けっお前なんかと見たくねーよ」

「なっ!それは俺様のセリフだこんにゃろー!」

ホースの先を指で潰し、水の勢いが増した状態で幽助にかける。

「うおっやめろ桑原!いてーよ!」

幽助は桑原のそばから逃げるが、そのあとを追うようにして水をかけ続ける。

「おらおらっくらえ!」

「水の勢い弱めろっての!」

「うるせぇー!」





「きゃあっ!」

すると、後ろで叫び声が聞こえた。
幽助が後ろを振り返ると
白シャツの制服からピンク色のブラジャーが透けた螢子が立っていた。

「あいつっ…」

幽助は、近くに干してあったバスタオルを取り、螢子の身体を後ろから抱きしめるようにしてタオルで包みこんだ。

「ゆ、幽助…」

「…部室に俺のジャージあるから、それ着て帰れ」

「あ、ありがと…」

時間にしてほんの数秒だったかもしれない。しかし、螢子の匂いがダイレクトに伝わってきて幽助は興奮した。
今まで自分たちと同じく炎天下の中で動き回っていたのに、どうしてコイツはこんなにいい匂いなんだろう、と思った。

髪を上げているのでうなじが露わになっていて、思わずそこに顔を埋めてしまいたくなる衝動に駆られた。
螢子を抱きしめる力が少し、強くなった。


「ゆきむらーー!ごめんなーー!」

螢子に水をかけた張本人から謝罪の言葉が飛び、幽助は我に帰った。

「…桑原、ころす!」

螢子から離れて、桑原の元へと走っていく。

「あっ、幽助…」




「びっくりしたぁ…」

今一体何が起きたの?

水をかけられてびっくりして立ち止まっていたら、急に幽助に後ろから抱きしめられて。胸のドキドキが止まらない。
顔が、熱い。

幽助にかけてもらったバスタオルを、両手でにぎる。

「見ちゃった〜」

「ぼ、ぼたんっ!」

「幽助ってば大胆なことするねぇ♩」 

「い、今のはたまたまっ、水がかかったからで…!」

「さぁさ、部室にジャージ取りに行こうかねー!」

「う、うん…」

✳︎✳︎✳︎


螢子とぼたんが、部室に向かって歩くところを見守る。

よし、これで濡れたまま帰さずに済んだ。

「浦飯!ギブギブっ死ぬ!」

「…あ?」

桑原にヘッドロックをかけてたのを忘れてた。
腕を離してやる。

「うえっ、げほっ…死ぬかと思ったぜ…」

「わりーわりー」

「てめっ顔が全然悪いって顔してねーぞ!」

「そもそもおめーが螢子に水かけたのが悪いからだろ」

「いやぁ、まさかかかるとは思わなかったぜ。
雪村にはまた今度ちゃんと謝っとくからよ」
 
「…お前見たか?」

「なにがだよ?」

「…見てないんだったら別にいい」

「はあ?よくわかんねーやろーだな?」

ひとまず、あの場にいたのは俺と桑原だけだったからコイツがあの姿を見てなければ俺以外見たやつはいない。
とりあえず一安心だ。

「まあ、いいや。早く帰ろぜー」

「?一体なんだってんだ?」



✳︎✳︎✳︎

部室に入るとバスタオルを肩から外し、幽助のジャージを制服の上から羽織る。
幽助のジャージを着るのは初めてで、
ジャージからは幽助の匂いがしてまた心臓が鳴る。

「螢子っ似合ってるよ〜」

「もー!恥ずかしいからやめてよー…」

「それよりも!さっきのなになに?!」

目をキラキラさせてぼたんが聞いてきた。

「たまたまあたしに水がかかっちゃって、、気づいたら幽助があたしのこと…」

「後ろからハグされちゃってたんだ?」

「そう‥
でもあいつ的には、ただバスタオルかけてやったぐらいにしか思ってないわよ」

「えー?あたし見てたけど、そんな感じじゃなかったよ?
なんか、愛おしいものを抱きしめるような雰囲気出てたさねぇ!」
 
「も、もう!ぼたんったらからかわないでよっ」

「ほほほっ、螢子ずっと顔赤いまんまだよ〜


「ぼたんー…」

「あははっじゃあ帰るとするかねぇ」

「そうねっ」

家に着いてすぐに自室にこもる。
そして幽助から借りたジャージを脱いだ。

幽助の名前が刺繍されているジャージを見て、改めて今日の出来事を思い出した。

きっと、濡れた自分がかわいそうでタオルをかけてくれただけだと思う。
でも、途中で抱きしめられる力が少し強くなった気がして‥
気のせい、なのかしら

幽助の温もりを思い出して、また胸がドキドキと鳴り始める。

どうしよう。幽助のことが、好き。
大好き。
大好きって、伝えたい。


幽助の匂いがするジャージをギュッと抱きしめる。


プルルル

電話が鳴った。
ディスプレイを見ると幽助の名前。

慌てて通話ボタンを押した

「も、もしもしっ」

あまりの驚きに少し声がどもってしまった。

「あー、螢子?なんだ?今取り込み中か?」

「う、ううん、大丈夫」

「そうか?家着いたか?」

「うんっ今さっき着いた」

「そっか、そりゃ良かった」

「幽助っ、」

「ん?」

「ジャージ、ありがとね」

「お、おう。」

なんだか恥ずかしくて、会話が続かない。
そもそもなんで幽助は電話をしてきたんだろう

「な、なにか用事あったの?」

「い、いや。お前が家ついたかなって思っただけ」

「それだけ?」

「なんだよ、わりーかよっ」

「…うんん、嬉しい」

「えっ?」

「心配してくれたんだって思うと、嬉しいなって」

「なんだよ、珍しく素直じゃねーか」

「あら、あたしはいつも素直ですけど?」

「けっ、どの口が言ってやがんだ」

「ふふっ」

いつもの会話が戻ってきて、さっきまでのドキドキが収まってくる。
うん、いつも通り話せてる。

「臭くなかったか?」

「なにが?」

「‥俺のジャージ」

「汗臭かった」

「おいてめー!そこはウソでも臭くないって言うだろふつー!」

「あははっ」

「ったくよー
ま、濡れたまま帰さずに済んでよかったぜ」

「ありがとね」

「おうっ」

「あ、幽助、」

「ん?なんだ?」

「…明日の試合、頑張ってね」

「任せとけ!幽ちゃんのスーパーゴール見せてやるよ!
じゃーまた明日な」

「うん、また明日ね
バイバイ」


幽助との通話が終わったあと、あたしは自分の頬が緩んでいるのが分かった。
自分の気持ちを1つ、素直に伝えられた。

でも本当はもう1つ、聞きたかった。

幽助、あの時あたしのこと
ギュッて、抱きしめてくれた?



✳︎✳︎✳︎


螢子が無事に帰っててよかった

おふくろが作った珍しい夕飯を平らげた後、風呂に入り寝る準備にとりかかる。

一息ついてベッドに横たわる。

横になりながらも思い出すのは螢子の香りと、
透けてみえたブラジャーの色。
「あーくそっ…眠れねーよ」  

体は疲れているのに、全く眠れない。
すげー悶々とする。  
俺だって健全な男子高校生だ
好きなやつの下着が見えたら
そりゃ自然現象でヤラシイことを想像しちまうわけで。

「‥俺はなんも悪くねーからな」

こうして俺の悶々とした夜は更けていくのであった。
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