幼なじみな僕ら
「桑原!」
浦飯幽助が、桑原和馬に合図をだす。
「頼んだぜ、浦飯!」
幽助の前にボール来るよう、桑原が絶妙なタイミングでパスをだす。
「いっけー!!」
思いっきり蹴ったボールは、ゴールの中に吸い込まれるようにして入っていく。
「よっしゃ!」
「ナイスゴール!」
幽助と桑原はハイタッチをした。
「俺様のパスをすげぇ良いところに出したから、ゴールできてんのわかってんのかぁ?」
「はー!言わせるぜ、俺のシュート力が凄まじいだけだっての!」
やいやいとじゃれあいが始まるのを同じチームの仲間は、いつものことだ、とやや呆れかえったように見守っていた。
「集合!」
部長、南野秀一の声がグラウンドに響き渡る。部長の一声で、コートに散らばっていた30人ほどの部員たちが集合した。
「今日の練習は終わりだ。
来週末、累重高との練習試合があるので、それに向けてレギュラー陣たちは明日早朝から強化練習を行う。
以上、解散!」
「「「おつかれさまでした!!」」」
部長の掛け声とともに、部活は終了した。
「げっ、明日朝から練習かよ、
朝ねみーから体動かねぇって、、」
朝が弱い幽助は、ぶつぶつと文句を言う。
「ほー?じゃあお前はレギュラー落ちだな!俺様が活躍するところ、指咥えて見とけ!」
「あんだと?お前なんかに負けるわけねーだろーが!」
「ほらほら、幽助も桑原くんも、2人ともケンカしてないで早く帰りなよ」
「あ、部長」
「2人とも試合中はいいコンビネーションなのに」
「俺がこいつに合わせやってるだけだって」
「それは俺様のセリフだぃ!」
「ゆーすけー!帰るわよー!」
遠くの方から、幽助の幼なじみでサッカー部マネージャーの雪村螢子の声が聞こえた。
「ほらほら、愛しのけーこちゃんが待ってるぜ?」
「うっせ!
じゃあお先に失礼しまーす」
「「おつかれ」」
幽助は2人の元を離れて、螢子の待つ場所へと走っていく。
「今日ご飯うちで食べるんでしょ?」
「ああ、今日もお袋家にいねーからご馳走になる」
「りょーかい」
螢子の家は食堂を経営しており、たまに幽助は夕ご飯をご馳走になる時があった。幽助の母親、浦飯温子は高校生の子供を持ちながらも自由奔放な性格であまり家にいることがなく、小さい頃から螢子の家でご飯を食べることが多かった。
「そういえば明日から朝練でしょ?あんた起きれるの?」
「起きれるわけねーだろ、なぁー螢子起こしにきてくれよー」
「はあ?あんたいくつよ」
「16さい」
「1人で起きなさいよ」
「ちぇっつめてー女」
「あんたねぇ…」
他愛をもない会話をして家についた。
「こんばんはー」
「おっ幽ちゃんいらっしゃい!」
「今日幽助うちでご飯食べるって言うから連れて帰ってきたよ」
「おう!いっぱい食べてってな!」
「お邪魔しまーす」
「あたし、着替えてくるからちょっと待っててね」
螢子は制服から普段着に着替えるために、自室のある2階へと登っていった。
いつもの幽助のお決まりの席、カウンターの端から2番目に座る。
雪村食堂では、いつも螢子の手料理を食べている。
「今日なにがいいの?」
「生姜焼き定食」
「ちょっと待っててねー」
幽助は、作業をする螢子の後ろ姿をボーッと見つめる。手際が良く、見ていて気持ちがいいほどに働いている彼女。
毎日弁当を作ってくれて、部活が始まれば夕方まで自分たちの世話をして、家に帰れば自分のご飯を作ってくれて。
こんなに面倒を見てくれるのは自分だからなのか、それともだらしない幼なじみを持った責任感からなのか。螢子の気持ちが一切読めない。そんなことを考えていたら、いい匂いがしてきた。
グーっ
幽助のお腹が鳴った。
「螢子ー早くー腹減って死にそー」
「もーすぐだから待ってなさいっ」
すると、ほかほかのごはんと食欲をそそる香りをまとう生姜焼き定食が出てきた。
「うまそー!いただきまーすっ」
隣に同じメニューが並ぶ。
いつも決まって、幽助と同じメニューを螢子が隣の席で食べる。
螢子がエプロンを外し幽助の隣の席に座った。
「いただきます」
「うんっ、うめぇー!」
「味濃くない?」
「そうかぁ?疲れた体にはこれくらいがちょうどいいくらいだぜ」
「幽助が味オンチで良かった」
「なんだとー!」
あはは、と周りの常連のお客さんから笑いが起こる。
「ほんと2人の夫婦喧嘩はおもしれーよな!いつ結婚するんだー?」
「ふ、夫婦って…!あたしたち別にっ…」
螢子は顔を赤くして、からかってきたおじさんに言葉を返す。
「俺は高校卒業したら螢子のこと嫁に迎える気満々なんだけどさぁ、なかなかプロポーズ受けてもらえねぇだよ。」
「変なこと言わないでよっ!あんたのプロポーズなんてごめんなさいの代わりの言葉でしょーが!」
照れ隠しで幽助の頭を叩く。
「いでっ。
…いつもマジで言ってんのに。」
つぶやくように言った言葉は、螢子の耳には届いていなかった。
「「ごちそーさまでした」」
「はー!食った食った」
「よくあんなにお腹に入るわね?」
「螢子の飯が美味かったからだよっ」
ニカっと笑う幽助の顔を見て、螢子は赤面した。素直に褒められるとどうも調子が狂うな、と思う。
「…そりゃどーも」
「早く俺んところ嫁来てくれよー」
「はいはい、気が向いたらねー」
そう言って後片付けを始める螢子。
「幽ちゃんのところなら今からでも嫁に出してもいいんだけどよー、ほんと素直じゃねぇよな」
「ちょっとお父さん、一人娘になんてこと言うのよ」
「幽ちゃんが婿になって雪村食堂継いでくれるなら将来安泰なんだけどよぉ」
「もう!うるさいなぁ!」
幽助は親娘の会話を微笑ましく見守る。
「じゃあ俺帰るわ」
「ちゃんと明日1人で起きなさいよ」
「螢子ちゃーん起こしにきてくれよー」
「行きませーん、ばいばーい」
「けちー、じゃあ明日なー」
手を振り合って今日の別れを告げる。
幽助を見送ってから、自室に戻り勉強机に座る。
螢子は、はぁ、とため息がもれた。
幽助との【幼なじみ】という関係が楽しくもあり、もどかしくもある。
今、最も彼の側にいれる人間は自分だと思う。何かあると駆けつけてくれるし、自分のことも頼ってくれるし。
これから先もずっと彼の隣にいるのは自分だけであってほしいと思う。
でも、もし幽助に好きな人が出来たら?
幽助に彼女が出来たら?
自分は【幼なじみ】として彼の恋を応援できるのだろうか。
今まで通りに接することができるのだろうか。…そんなこと、できるわけがない。
後悔する前に自分の気持ちを伝えたい、
でも伝えた結果今のこの関係がなくなってしまうことが1番怖い。
「…お願いだから、誰もあたしたちの邪魔しないで…」
螢子は神様に祈るように呟いた。
浦飯幽助が、桑原和馬に合図をだす。
「頼んだぜ、浦飯!」
幽助の前にボール来るよう、桑原が絶妙なタイミングでパスをだす。
「いっけー!!」
思いっきり蹴ったボールは、ゴールの中に吸い込まれるようにして入っていく。
「よっしゃ!」
「ナイスゴール!」
幽助と桑原はハイタッチをした。
「俺様のパスをすげぇ良いところに出したから、ゴールできてんのわかってんのかぁ?」
「はー!言わせるぜ、俺のシュート力が凄まじいだけだっての!」
やいやいとじゃれあいが始まるのを同じチームの仲間は、いつものことだ、とやや呆れかえったように見守っていた。
「集合!」
部長、南野秀一の声がグラウンドに響き渡る。部長の一声で、コートに散らばっていた30人ほどの部員たちが集合した。
「今日の練習は終わりだ。
来週末、累重高との練習試合があるので、それに向けてレギュラー陣たちは明日早朝から強化練習を行う。
以上、解散!」
「「「おつかれさまでした!!」」」
部長の掛け声とともに、部活は終了した。
「げっ、明日朝から練習かよ、
朝ねみーから体動かねぇって、、」
朝が弱い幽助は、ぶつぶつと文句を言う。
「ほー?じゃあお前はレギュラー落ちだな!俺様が活躍するところ、指咥えて見とけ!」
「あんだと?お前なんかに負けるわけねーだろーが!」
「ほらほら、幽助も桑原くんも、2人ともケンカしてないで早く帰りなよ」
「あ、部長」
「2人とも試合中はいいコンビネーションなのに」
「俺がこいつに合わせやってるだけだって」
「それは俺様のセリフだぃ!」
「ゆーすけー!帰るわよー!」
遠くの方から、幽助の幼なじみでサッカー部マネージャーの雪村螢子の声が聞こえた。
「ほらほら、愛しのけーこちゃんが待ってるぜ?」
「うっせ!
じゃあお先に失礼しまーす」
「「おつかれ」」
幽助は2人の元を離れて、螢子の待つ場所へと走っていく。
「今日ご飯うちで食べるんでしょ?」
「ああ、今日もお袋家にいねーからご馳走になる」
「りょーかい」
螢子の家は食堂を経営しており、たまに幽助は夕ご飯をご馳走になる時があった。幽助の母親、浦飯温子は高校生の子供を持ちながらも自由奔放な性格であまり家にいることがなく、小さい頃から螢子の家でご飯を食べることが多かった。
「そういえば明日から朝練でしょ?あんた起きれるの?」
「起きれるわけねーだろ、なぁー螢子起こしにきてくれよー」
「はあ?あんたいくつよ」
「16さい」
「1人で起きなさいよ」
「ちぇっつめてー女」
「あんたねぇ…」
他愛をもない会話をして家についた。
「こんばんはー」
「おっ幽ちゃんいらっしゃい!」
「今日幽助うちでご飯食べるって言うから連れて帰ってきたよ」
「おう!いっぱい食べてってな!」
「お邪魔しまーす」
「あたし、着替えてくるからちょっと待っててね」
螢子は制服から普段着に着替えるために、自室のある2階へと登っていった。
いつもの幽助のお決まりの席、カウンターの端から2番目に座る。
雪村食堂では、いつも螢子の手料理を食べている。
「今日なにがいいの?」
「生姜焼き定食」
「ちょっと待っててねー」
幽助は、作業をする螢子の後ろ姿をボーッと見つめる。手際が良く、見ていて気持ちがいいほどに働いている彼女。
毎日弁当を作ってくれて、部活が始まれば夕方まで自分たちの世話をして、家に帰れば自分のご飯を作ってくれて。
こんなに面倒を見てくれるのは自分だからなのか、それともだらしない幼なじみを持った責任感からなのか。螢子の気持ちが一切読めない。そんなことを考えていたら、いい匂いがしてきた。
グーっ
幽助のお腹が鳴った。
「螢子ー早くー腹減って死にそー」
「もーすぐだから待ってなさいっ」
すると、ほかほかのごはんと食欲をそそる香りをまとう生姜焼き定食が出てきた。
「うまそー!いただきまーすっ」
隣に同じメニューが並ぶ。
いつも決まって、幽助と同じメニューを螢子が隣の席で食べる。
螢子がエプロンを外し幽助の隣の席に座った。
「いただきます」
「うんっ、うめぇー!」
「味濃くない?」
「そうかぁ?疲れた体にはこれくらいがちょうどいいくらいだぜ」
「幽助が味オンチで良かった」
「なんだとー!」
あはは、と周りの常連のお客さんから笑いが起こる。
「ほんと2人の夫婦喧嘩はおもしれーよな!いつ結婚するんだー?」
「ふ、夫婦って…!あたしたち別にっ…」
螢子は顔を赤くして、からかってきたおじさんに言葉を返す。
「俺は高校卒業したら螢子のこと嫁に迎える気満々なんだけどさぁ、なかなかプロポーズ受けてもらえねぇだよ。」
「変なこと言わないでよっ!あんたのプロポーズなんてごめんなさいの代わりの言葉でしょーが!」
照れ隠しで幽助の頭を叩く。
「いでっ。
…いつもマジで言ってんのに。」
つぶやくように言った言葉は、螢子の耳には届いていなかった。
「「ごちそーさまでした」」
「はー!食った食った」
「よくあんなにお腹に入るわね?」
「螢子の飯が美味かったからだよっ」
ニカっと笑う幽助の顔を見て、螢子は赤面した。素直に褒められるとどうも調子が狂うな、と思う。
「…そりゃどーも」
「早く俺んところ嫁来てくれよー」
「はいはい、気が向いたらねー」
そう言って後片付けを始める螢子。
「幽ちゃんのところなら今からでも嫁に出してもいいんだけどよー、ほんと素直じゃねぇよな」
「ちょっとお父さん、一人娘になんてこと言うのよ」
「幽ちゃんが婿になって雪村食堂継いでくれるなら将来安泰なんだけどよぉ」
「もう!うるさいなぁ!」
幽助は親娘の会話を微笑ましく見守る。
「じゃあ俺帰るわ」
「ちゃんと明日1人で起きなさいよ」
「螢子ちゃーん起こしにきてくれよー」
「行きませーん、ばいばーい」
「けちー、じゃあ明日なー」
手を振り合って今日の別れを告げる。
幽助を見送ってから、自室に戻り勉強机に座る。
螢子は、はぁ、とため息がもれた。
幽助との【幼なじみ】という関係が楽しくもあり、もどかしくもある。
今、最も彼の側にいれる人間は自分だと思う。何かあると駆けつけてくれるし、自分のことも頼ってくれるし。
これから先もずっと彼の隣にいるのは自分だけであってほしいと思う。
でも、もし幽助に好きな人が出来たら?
幽助に彼女が出来たら?
自分は【幼なじみ】として彼の恋を応援できるのだろうか。
今まで通りに接することができるのだろうか。…そんなこと、できるわけがない。
後悔する前に自分の気持ちを伝えたい、
でも伝えた結果今のこの関係がなくなってしまうことが1番怖い。
「…お願いだから、誰もあたしたちの邪魔しないで…」
螢子は神様に祈るように呟いた。
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