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さくらんぼ


キーンコーンカーンコーン、


学校の終業ベルが鳴る。
今日は彼氏と会う約束をしていたが、昨日の夜電話でケンカをしてしまい、お互い謝ることなく通話が終わってしまった。その結果、デートの約束までもなくなってしまったのだ。
未だに彼から連絡はなく、自分から謝るのも悔しくて、モヤモヤとした気持ちで学校を終えた。
放課後1人で過ごすことがなんだか寂しくて、帰り支度をしている螢子に声をかけた。

「螢子ー!今日原宿寄ってかない?
行きたい洋服屋さんあるのー」

「あ、ごめん、今日約束あって」

「そっかー、じゃあ駅まで一緒行こ!」

「うん」

今の気持ちを螢子に聞いてもらいたかった思いもあり、少し残念に思う。


「螢子は今日どこか行くの?」

「うん、映画見に行くの」

「へー!いつもの幼なじみ君と?」

「そうっ」

「螢子を独り占めにできる男がこの世にいるなんて!
幸せものだなー」

「なにそれっ」

ははっ、と笑う螢子を見て加奈子は、
やっぱり螢子は美人だ、と思った。
容姿端麗でスタイルも良く、さっぱりとした性格で先生からも評判も良い。友達からも信頼されておりクラスの委員長をつとめている。勉強もできてスポーツもできて、とパーフェクト人間だと思っていた。
しかし、彼女から「幼なじみ君」とのエピソードを聞くと、彼女も1人の女の子だと言うことを実感する。
いつも、「ケンカをしてきてはけがばっかりして心配かけさせる」だとか「謝罪の言葉は毎回同じで結婚してくれで芸がない」だとか。螢子はため息をつきながら言ってくるけれど、それって他人が聞いたら惚気というものではないのだろうか?
それさえも無意識なところがとても螢子らしい。


「いいなーデート」

「加奈も良くしてるんじゃない」

「んー、実は昨日ケンカしちゃって」

「珍しいわね、いつも仲良い話しか聞かないのに」

「そうかな?ホント些細なことなんだけど言い合いになっちゃって」

「そうなんだ、ケンカしたあと連絡は?」

「来てないし私からもしてない。
なんか自分から連絡するの悔しくて!」

わかるわかる、と相槌をうってくれる姿を見て彼女もそういう思いをするんだ、と意外だった。
螢子ほどの美人と言い合いになる男が本当にいるのか?と疑問にも思う。

恋する女の子は
みんな平等に同じ気持ちを抱くんだなぁ。



校門を出ると

「おいっ」

後ろから知らない男に声をかけられた。
螢子は聞き知れた声なのか、すぐに後ろを振り返った。

「幽助!」

私もつられて後ろを見ると、そこには
見るからになんだかヤンチャそうで、幼さの残る顔つきの青年が立っていた。

「ったく、おっせーぞ」

「な、なんでココにいるのよ?」

「なんでって、迎えに来たから決まってるじゃねーか」

「頼んでもないのに?
…雨でも降らないと良いんだけど」

「なんだとー!せっかく迎えに来てやったのに素直に、ありがと♡って可愛く言えねーのかよ」

「はいはい、ありがとう」

螢子の心がこもっていない感謝に、思わず吹き出してしまう。

「かーっ、可愛くねー女!」

「あんたに可愛いなんて思われてもなんの得にもならないわよ」

「んだとー!メスゴリラ!」

「なによ、単細胞バカ!」

目の前には、今までに見たことない螢子がいた。
まるで小学生同士のケンカなのかと思うほど幼く可愛らしい言い合いが繰り広げられている。


「あっ、加奈ごめんね。
コイツが幼なじみの幽助」

「は、初めまして、
螢子の友だちの加奈、って言います」

2人の勢いに少しびっくりしてどもってしまった。

「おー、螢子がいつも世話になって」

「あんたに言われるとなんかシャクだわ」

「いちいち突っかかってくんなよ!
説教ババア!」

一言、二言喋るだけで一触即発。
聞いてるこっちがドキドキしてしまう。
でも、こんなにも螢子が強めの口調で話している姿が新鮮で面白い。
そしてあの学校のマドンナ・雪村螢子をゴリラやババア呼ばわりするなんて、恐るべし幼なじみ。

「ババアとはなによ、もう2度と起こしに行かないわよ」

「ゔっ…ゴメンナサイ」

「うん、よろしい。」

ユウスケくんが即座に謝った。
それほど困ることなんだね。
でも螢子言ってたよね、
毎日幼なじみ起こしに行って一緒にご飯を食べるっていう当たり前の日常が幸せかも、って。
起こしに行けなくなって寂しくなるのは螢子も一緒なんじゃないのかな、なんて。

2人を見ていたら、
とても温かい気持ちになってきた。

「噂の幼なじみ君に会えて良かった!」

「噂?おい螢子、お前なんか変なこと言ってんじゃねーのか?」

「そんなんじゃないよ!
幼なじみのユウスケが大大大好きって話」 
 
「!」

「ちょっ、加奈!
あたしそんなこと一言も…!」

「言葉じゃなくて、表情にでてるのよ!」

否定する螢子の顔は真っ赤で、それに対してユウスケくんも同じく真っ赤っかだった。
2人揃って赤い顔しちゃって。
さくらんぼみたい。

「じゃっわたしお邪魔なようだから帰るね、
ユウスケくん、螢子のことよろしくねー!」

「お、おー…」

「螢子も、また明日話聞かせてねー!
ばいばーい」

「う、うん。ばいばいっ」

ユウスケくんも螢子も手を振ってくれた。

数メートル、駅までの道を先に歩くと、後ろの2人が気になって一度振り返ってみる。
2人はお互いがチラリと見合って、目が合うとそっぽを向く。
するとユウスケくんから螢子の手を握った様子が見えた。ユウスケくんの方が少し大人なのかな?
きっと螢子はまだ真っ赤な顔で歩いているのだろう、
そう思うと笑みが溢れた。  




そして私は、彼に電話をかけることにした。    

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