彼女の薔薇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
作戦のない日の基地は、まるで陽向だ。空は澄み、土は温かく、井戸は清らかで、食堂の火は穏やかに燃え盛る。
衛生室にもまた、平和が流れていた。
レオポルトが顔をだしたとき、衛生兵は乳鉢で軟膏を作っているところだった。鮮やかな紫をしたそれは、薬草の青っぽい匂いと、植物油の芳ばしい香りを漂わせている。
見事な手つきを眺めていると、やがて彼女は顔を上げた。
「おっと、邪魔をしてしまったかな?」
衛生兵は、微笑んだ顔を小さく左右へふった。
「傷が痛みますか?」
「いや、そうではないんだ」
いつも以上に丁寧に櫛を入れた髪を掻き掻き、レオポルトは言いよどんだ。どう切り出したものかわからない。しかし、忙しい彼女の手をいつまでも止めさせておくわけにもいかないだろう。
つんのめるように、レオポルトは言った。
「その、衛生兵くんは……オペラに興味はあるかな?」
「オペラ……ですか?」
不思議そうな顔をした衛生兵に、レオポルトは慌てて言いつくろった。
「グレートルがオペラのペアチケットをくれてね。本人は興味がないらしく、だれかを誘えとせっつくんだ。カールと行こうかとも思ったが、彼にもそんな気はないようでね」
滑る言葉に、レオポルトは冷や汗をかいた。女性一人を誘うのに、こうみっともない言い訳をさらすとは、なんとも情けない。
彼女は嬉しげに目を細めたあと、ふと視線を落とした。
「嬉しいです。でも、わたし……オペラに行くような服を持ってなくて」
「私も似たようなものだよ。なに、小さな劇場だ。そのままの服で構わない」
「でも……」
言いよどむ衛生兵に、レオポルトは小さな包みを手渡した。
「開けてみてくれないか」
控えめにかけられたリボンを、彼女の指が遠慮がちにといた。
「素敵な手袋……」
レースに縁どられたレモン色の手袋を手にとり、衛生兵は目を丸くした。
レオポルトは口ひげを引っ張った。
「この間、街へいったときに見つけてね。きみに似合うと思ったんだ。よかったら……オペラにつけてきてもらえないかな?」
「こんなキレイな手袋をわたしなんかがつけて、本当にいいんでしょうか?」
「もちろんだよ。なにせこれはきみの」
――きみのことを思って、探したんだ。
言いかけて、レオポルトは慌てて口をつぐんだ。
一瞬、首を傾げた衛生兵だったが、すぐに花のような笑顔を見せた。
「ありがとうございます。オペラ、ご一緒させてください」
年甲斐もなく、レオポルトは踊りあがりたくなった。
衛生室にもまた、平和が流れていた。
レオポルトが顔をだしたとき、衛生兵は乳鉢で軟膏を作っているところだった。鮮やかな紫をしたそれは、薬草の青っぽい匂いと、植物油の芳ばしい香りを漂わせている。
見事な手つきを眺めていると、やがて彼女は顔を上げた。
「おっと、邪魔をしてしまったかな?」
衛生兵は、微笑んだ顔を小さく左右へふった。
「傷が痛みますか?」
「いや、そうではないんだ」
いつも以上に丁寧に櫛を入れた髪を掻き掻き、レオポルトは言いよどんだ。どう切り出したものかわからない。しかし、忙しい彼女の手をいつまでも止めさせておくわけにもいかないだろう。
つんのめるように、レオポルトは言った。
「その、衛生兵くんは……オペラに興味はあるかな?」
「オペラ……ですか?」
不思議そうな顔をした衛生兵に、レオポルトは慌てて言いつくろった。
「グレートルがオペラのペアチケットをくれてね。本人は興味がないらしく、だれかを誘えとせっつくんだ。カールと行こうかとも思ったが、彼にもそんな気はないようでね」
滑る言葉に、レオポルトは冷や汗をかいた。女性一人を誘うのに、こうみっともない言い訳をさらすとは、なんとも情けない。
彼女は嬉しげに目を細めたあと、ふと視線を落とした。
「嬉しいです。でも、わたし……オペラに行くような服を持ってなくて」
「私も似たようなものだよ。なに、小さな劇場だ。そのままの服で構わない」
「でも……」
言いよどむ衛生兵に、レオポルトは小さな包みを手渡した。
「開けてみてくれないか」
控えめにかけられたリボンを、彼女の指が遠慮がちにといた。
「素敵な手袋……」
レースに縁どられたレモン色の手袋を手にとり、衛生兵は目を丸くした。
レオポルトは口ひげを引っ張った。
「この間、街へいったときに見つけてね。きみに似合うと思ったんだ。よかったら……オペラにつけてきてもらえないかな?」
「こんなキレイな手袋をわたしなんかがつけて、本当にいいんでしょうか?」
「もちろんだよ。なにせこれはきみの」
――きみのことを思って、探したんだ。
言いかけて、レオポルトは慌てて口をつぐんだ。
一瞬、首を傾げた衛生兵だったが、すぐに花のような笑顔を見せた。
「ありがとうございます。オペラ、ご一緒させてください」
年甲斐もなく、レオポルトは踊りあがりたくなった。
4/4ページ