親愛度があがらない
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こうなったら、直接のりこんで愛想でも何でも振りまいてやる。システム上それで親愛度があがるとは思えないが、もはや手段も可能性もこれくらいしか思い浮かばない。
宿舎のオスマン部屋を訪ねる。ノックをしてドアをあけると、三人は絨毯に腰をおろし、床置きにした皿からオヤツをつまんでいるところだった。
「ああ、マスター」
先ほどの軋轢などカラリと忘れた様子で、マフムトが笑顔をむけてくる。
「エセンから聞いたよ。マスターは砂糖を知らないそうだね」
語弊があるが、砂糖三キロマンからしたらあのキャンディなど石ころも同然だろう。
「意地悪だなどといって悪かったね。エセン、マスターにお菓子の味を教えておあげ」
「はい」
エセンが小皿に取りわけてくれたのは、たっぷりのシロップに浸かったバクラヴァだった。サクサクした黄金色の生地に、ピスタチオの緑がうつくしい。
誘われるように口へ……運んだ瞬間、噴いた。甘い。甘いというよりえぐい。これが砂糖三キロの威力か。
「下品な食い方をするな」
不機嫌まるだしの顔をしながらもアリ・パシャは美味そうにバクラヴァをかじっている。
同じくバクラヴァを頬張っていたマフムトが小首をかしげた。
「おや、マスターは手が止まっているね。甘さが足りないのかな。エセン、もっとシロップをかけておやり」
結構です。言う間もなくシロップを注がれる。もはやバクラヴァというより蜜そのものだが、マフムトがニコニコしているのを見ると投げだすわけにもいかない。嫌がる舌を抑えこみ、無理やりに口へ詰めこむ。
甘い。死ぬほど甘い。生地にくるまれたクルミもヘーゼルナッツもアーモンドも死んでいる。シロップからほのかに香るローズも甘さの前には死ぬしかない。死の味。とにかく死。
死をとおりこして無になりながら視線をふらふらさせていると、マフムトのオッドアイと目があった。本当に嬉しそうに細められた瞳からは、親愛の情があふれだしている。
首をめぐらせてみれば、皿を空にしたアリ・パシャはクッションに背をあずけてくつろいでいるし、そこへお代わりを乗せるエセンの手つきもごくなごやかだ。かたわらの鍋ではトルココーヒーがふつふつと煮え、午後の陽光におだやかな香りを漂わせている。
肩の力がふっと抜けた。飴だの親愛度だの、そんなものはどうでもよかったのだ。ただこうしてともに過ごすだけで、絆は自ずから深まっていく。
「おい、きさま。その気色の悪い笑みをひっこめろ」
言ったアリ・パシャの顔がさほど嫌そうでないのは、きっと気のせいではない。
さらにニヤニヤしていると、アリ・パシャはチッと舌打ちをしてそっぽを向いた。彼のカップにエセンが鍋のコーヒーを注ぐ。
「マスターもどうぞ」
カップを差しだすエセンの手つきもまた優しい。白い湯気と軽やかな香りがたつカップへ口をつける。
噴いた。
予想外の味にむせながら、エセンを睨む。
彼は素知らぬ顔で、空のシュガーポットを振ってみせた。
宿舎のオスマン部屋を訪ねる。ノックをしてドアをあけると、三人は絨毯に腰をおろし、床置きにした皿からオヤツをつまんでいるところだった。
「ああ、マスター」
先ほどの軋轢などカラリと忘れた様子で、マフムトが笑顔をむけてくる。
「エセンから聞いたよ。マスターは砂糖を知らないそうだね」
語弊があるが、砂糖三キロマンからしたらあのキャンディなど石ころも同然だろう。
「意地悪だなどといって悪かったね。エセン、マスターにお菓子の味を教えておあげ」
「はい」
エセンが小皿に取りわけてくれたのは、たっぷりのシロップに浸かったバクラヴァだった。サクサクした黄金色の生地に、ピスタチオの緑がうつくしい。
誘われるように口へ……運んだ瞬間、噴いた。甘い。甘いというよりえぐい。これが砂糖三キロの威力か。
「下品な食い方をするな」
不機嫌まるだしの顔をしながらもアリ・パシャは美味そうにバクラヴァをかじっている。
同じくバクラヴァを頬張っていたマフムトが小首をかしげた。
「おや、マスターは手が止まっているね。甘さが足りないのかな。エセン、もっとシロップをかけておやり」
結構です。言う間もなくシロップを注がれる。もはやバクラヴァというより蜜そのものだが、マフムトがニコニコしているのを見ると投げだすわけにもいかない。嫌がる舌を抑えこみ、無理やりに口へ詰めこむ。
甘い。死ぬほど甘い。生地にくるまれたクルミもヘーゼルナッツもアーモンドも死んでいる。シロップからほのかに香るローズも甘さの前には死ぬしかない。死の味。とにかく死。
死をとおりこして無になりながら視線をふらふらさせていると、マフムトのオッドアイと目があった。本当に嬉しそうに細められた瞳からは、親愛の情があふれだしている。
首をめぐらせてみれば、皿を空にしたアリ・パシャはクッションに背をあずけてくつろいでいるし、そこへお代わりを乗せるエセンの手つきもごくなごやかだ。かたわらの鍋ではトルココーヒーがふつふつと煮え、午後の陽光におだやかな香りを漂わせている。
肩の力がふっと抜けた。飴だの親愛度だの、そんなものはどうでもよかったのだ。ただこうしてともに過ごすだけで、絆は自ずから深まっていく。
「おい、きさま。その気色の悪い笑みをひっこめろ」
言ったアリ・パシャの顔がさほど嫌そうでないのは、きっと気のせいではない。
さらにニヤニヤしていると、アリ・パシャはチッと舌打ちをしてそっぽを向いた。彼のカップにエセンが鍋のコーヒーを注ぐ。
「マスターもどうぞ」
カップを差しだすエセンの手つきもまた優しい。白い湯気と軽やかな香りがたつカップへ口をつける。
噴いた。
予想外の味にむせながら、エセンを睨む。
彼は素知らぬ顔で、空のシュガーポットを振ってみせた。
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