彼女の薔薇
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森は静かだ。風も人も遠いそこは、基地の賑わいとは程遠い。ただ、ときおり樹間を横切るリスだけが、小さな葉音をレオポルトの耳へ届けていた。
かじかんだ指で楽譜をめくる。想像上のメロディが臨場感をもって体を包む。
小枝を踏み折る音で我に返った。
「あ……レオポルトさん」
籐籠をさげた衛生兵が、咎めるような声音でレオポルトの名を呼んだ。
「こんな寒いところで何をなさってるんですか? 予後に冷えは大敵ですよ」
「そう責めないでくれ」
レオポルトは困って、口ひげを掻いた。
「これを静かな場所で読みたくてね」
手に持った楽譜を掲げてみせる。
「Il pomo d'oro――黄金の林檎の楽譜なんだ。レオポルト一世の結婚式のために作られたオペラでね。彼同様、私もオペラを愛しているんだよ」
「それでも、ここはいけません」
「いやはや、手厳しいね」
目尻にシワを寄せて、レオポルトは苦笑いをした。彼女の籐籠へ視線を移す。
「ところで、衛生兵くんは何をしに来たんだい?」
「薬草を摘もうと思っているんです。この間の大敗で、医薬品が不足してしまって」
初めて会った夜、彼女がハーブの薬を飲ませてくれたことを、レオポルトは思い出した。
「きみの治療への情熱には、マスターくんも顔負けだね」
褒めたつもりだったが、衛生兵の顔は曇った。
「マスターさんはすばらしいメディックです。とてもわたしなんかじゃ及びません」
沈んだ顔を隠すように、彼女は軽く頭を下げた。
「お楽しみのところをお邪魔しました」
「なに、構わないよ」
楽譜をたたみ、レオポルトは立ちあがった。
「さあ、いっしょに薬草を探しにいこう」
「でも……」
上げられた彼女の顔に、レオポルトは微笑みかける。
「迷惑かな?」
「とんでもない!」
「では、決まりだ」
彼女の手から籠を取り、レオポルトは先に立って歩きだした。
後ろからやってくる彼女が隣に並ぶ寸前、こっそりと苦笑を浮かべる。
「やれやれ、こんなおじさんが、まさかね」
この強引さが何によるものなのか。黄金の林檎を思い浮かべ、レオポルトはまた苦笑した。
かじかんだ指で楽譜をめくる。想像上のメロディが臨場感をもって体を包む。
小枝を踏み折る音で我に返った。
「あ……レオポルトさん」
籐籠をさげた衛生兵が、咎めるような声音でレオポルトの名を呼んだ。
「こんな寒いところで何をなさってるんですか? 予後に冷えは大敵ですよ」
「そう責めないでくれ」
レオポルトは困って、口ひげを掻いた。
「これを静かな場所で読みたくてね」
手に持った楽譜を掲げてみせる。
「Il pomo d'oro――黄金の林檎の楽譜なんだ。レオポルト一世の結婚式のために作られたオペラでね。彼同様、私もオペラを愛しているんだよ」
「それでも、ここはいけません」
「いやはや、手厳しいね」
目尻にシワを寄せて、レオポルトは苦笑いをした。彼女の籐籠へ視線を移す。
「ところで、衛生兵くんは何をしに来たんだい?」
「薬草を摘もうと思っているんです。この間の大敗で、医薬品が不足してしまって」
初めて会った夜、彼女がハーブの薬を飲ませてくれたことを、レオポルトは思い出した。
「きみの治療への情熱には、マスターくんも顔負けだね」
褒めたつもりだったが、衛生兵の顔は曇った。
「マスターさんはすばらしいメディックです。とてもわたしなんかじゃ及びません」
沈んだ顔を隠すように、彼女は軽く頭を下げた。
「お楽しみのところをお邪魔しました」
「なに、構わないよ」
楽譜をたたみ、レオポルトは立ちあがった。
「さあ、いっしょに薬草を探しにいこう」
「でも……」
上げられた彼女の顔に、レオポルトは微笑みかける。
「迷惑かな?」
「とんでもない!」
「では、決まりだ」
彼女の手から籠を取り、レオポルトは先に立って歩きだした。
後ろからやってくる彼女が隣に並ぶ寸前、こっそりと苦笑を浮かべる。
「やれやれ、こんなおじさんが、まさかね」
この強引さが何によるものなのか。黄金の林檎を思い浮かべ、レオポルトはまた苦笑した。