ずるいって、そういうこと
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食堂へ着くと、タバティエールはさっそくキッチンへ向かった。
マスターも続く。
「マスターちゃんはゆっくりしててくれよ。じゃないと、おれが叱られちまうだろ」
そう言われても、彼だけにティータイムの準備をさせておくわけにはいかない。湯を沸かす彼の隣で、ガラス瓶に飾られたドライラベンダーへ手を伸ばす。
「――ッ!」
背後で小さな悲鳴があがった。
振り返ってみると、シンクのそばでカトラリーが指を押さえている。半分はらわたを抜かれた魚に、赤い血がぽつぽつと滴っていた。
「おっと、大変だ」
タバティエールは手早く棚から救急箱を取り、カトラリーの指へ包帯を巻いていく。
カトラリーがうつむいて、ポツリと言った。
「タバティエールさんって、なんでぼくなんかに構うの?」
「おれは放っておけない性格でね」
「それだけじゃないでしょ」
タバティエールが一瞬ギクリとしたように、マスターには見えた。
「なんで構うか……か」
目をそらしてから、タバティエールは頬をかいた。そして、少しだけさみしそうな顔をした。
「おれはずるい大人だからな」
「なにそれ。意味わからないんだけど」
「わからないなら、そのほうがいいぜ。幸せってのは、そういうもんだ」
「ぼく、べつに幸せじゃないけど」
「不幸じゃなけりゃ幸せだ。ってことで、色々知ってるおれも、立派に幸せだ」
「なんかそうは見えないね」
「そうか?」
煙に巻かれて口を尖らせるカトラリーに、タバティエールは、ははは、と声をたてて笑った。しかし、明るいはずのその笑顔は、なぜか気まずそうに見えた。
「おっと、レモングラスが切れちまってるな。ちょーっくら補充してくるわ」
パントリーへ消えた彼をじっと見送っていたカトラリーが、独り言のように言った。
「あの人って、たまにああいうふうになるよね。マスター、追いかけてあげたら? ま、ぼくには関係ないけど」
マスターも続く。
「マスターちゃんはゆっくりしててくれよ。じゃないと、おれが叱られちまうだろ」
そう言われても、彼だけにティータイムの準備をさせておくわけにはいかない。湯を沸かす彼の隣で、ガラス瓶に飾られたドライラベンダーへ手を伸ばす。
「――ッ!」
背後で小さな悲鳴があがった。
振り返ってみると、シンクのそばでカトラリーが指を押さえている。半分はらわたを抜かれた魚に、赤い血がぽつぽつと滴っていた。
「おっと、大変だ」
タバティエールは手早く棚から救急箱を取り、カトラリーの指へ包帯を巻いていく。
カトラリーがうつむいて、ポツリと言った。
「タバティエールさんって、なんでぼくなんかに構うの?」
「おれは放っておけない性格でね」
「それだけじゃないでしょ」
タバティエールが一瞬ギクリとしたように、マスターには見えた。
「なんで構うか……か」
目をそらしてから、タバティエールは頬をかいた。そして、少しだけさみしそうな顔をした。
「おれはずるい大人だからな」
「なにそれ。意味わからないんだけど」
「わからないなら、そのほうがいいぜ。幸せってのは、そういうもんだ」
「ぼく、べつに幸せじゃないけど」
「不幸じゃなけりゃ幸せだ。ってことで、色々知ってるおれも、立派に幸せだ」
「なんかそうは見えないね」
「そうか?」
煙に巻かれて口を尖らせるカトラリーに、タバティエールは、ははは、と声をたてて笑った。しかし、明るいはずのその笑顔は、なぜか気まずそうに見えた。
「おっと、レモングラスが切れちまってるな。ちょーっくら補充してくるわ」
パントリーへ消えた彼をじっと見送っていたカトラリーが、独り言のように言った。
「あの人って、たまにああいうふうになるよね。マスター、追いかけてあげたら? ま、ぼくには関係ないけど」