ずるいって、そういうこと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次にタバティエールと会ったのは、宿舎の廊下でだった。
破れかかった窓から三時の陽が差しこんで、古い床板を金色に輝かせている。
「よ」
今朝と同じように片手をあげる。逆の手には、煙草ではなくティーカップが握られていた。
「ん、これか? シャスポーに持っていってやろうと思ってさ。あいつ、昼前からブッ続けで書類に目とおしてて、疲れてるっぽいんだよ。顔にはださねぇけど。……おっと、そうだ」
タバティエールは、カップをマスターに手渡した。レモングラスの香りが漂う。
「マスターちゃんが代わりに持っていってやってくれよ。その方があいつは喜ぶからさ」
タバティエールの親切を横取りしたくはない。
マスターがカップを返そうとしたとき、後ろから声がかかった。
「マスター」
振り返ると、書類を抱えたシャスポーが、ほくろのある口元をほころばせていた。
「ちょうどよかった。この書類を恭遠へ出したら、マスターのところへ行こうと思ってたんだ」
「そりゃあ、ナイスタイミングだ」
マスターの代わりに返事をしたタバティエールを、シャスポーが睨みつけた。
タバティエールは慣れたもので、砕けた笑みでこたえる。
「ちょうど、マスターちゃんがおまえにハーブティを持って行こうとしてたところだ」
手柄を押しつけられて、マスターは焦った。
シャスポーはまるで気づかず、顔を輝かせる。
「ありがとう。ねえ、マスター。ぼくといっしょにお茶をしよう? ……タバティエール、マスターにハーブティを用意してくれ」
「はいはい」
命令じみた言葉に、タバティエールは平気……どころか、ますます飄々とした顔をした。
シャスポーは名人芸のようにころころ変わる笑顔を、マスターへ向けた。
「待っててね、マスター。この書類を置いたら、すぐに食堂へ行くから」
シャスポーは再びタバティエールを見た。
「マスターを待たせるなよ」
「わかってますって。おまえこそマスターちゃんを待たせないよう、早く行ってこいよ」
「うるさいな、わかってる」
シャスポーを見送りながら、マスターは横目でタバティエールを見つめた。手柄を譲ったうえ、あんな指図をされて、平気でいる彼の気持ちがわからなかった。
尋ねると、タバティエールは何度目かの苦笑いを漏らした。
「おれには、こういう立場が似合いなんでね」
やはり彼がわからない。
しかし今度は、タバティエールが答えることはなかった。
破れかかった窓から三時の陽が差しこんで、古い床板を金色に輝かせている。
「よ」
今朝と同じように片手をあげる。逆の手には、煙草ではなくティーカップが握られていた。
「ん、これか? シャスポーに持っていってやろうと思ってさ。あいつ、昼前からブッ続けで書類に目とおしてて、疲れてるっぽいんだよ。顔にはださねぇけど。……おっと、そうだ」
タバティエールは、カップをマスターに手渡した。レモングラスの香りが漂う。
「マスターちゃんが代わりに持っていってやってくれよ。その方があいつは喜ぶからさ」
タバティエールの親切を横取りしたくはない。
マスターがカップを返そうとしたとき、後ろから声がかかった。
「マスター」
振り返ると、書類を抱えたシャスポーが、ほくろのある口元をほころばせていた。
「ちょうどよかった。この書類を恭遠へ出したら、マスターのところへ行こうと思ってたんだ」
「そりゃあ、ナイスタイミングだ」
マスターの代わりに返事をしたタバティエールを、シャスポーが睨みつけた。
タバティエールは慣れたもので、砕けた笑みでこたえる。
「ちょうど、マスターちゃんがおまえにハーブティを持って行こうとしてたところだ」
手柄を押しつけられて、マスターは焦った。
シャスポーはまるで気づかず、顔を輝かせる。
「ありがとう。ねえ、マスター。ぼくといっしょにお茶をしよう? ……タバティエール、マスターにハーブティを用意してくれ」
「はいはい」
命令じみた言葉に、タバティエールは平気……どころか、ますます飄々とした顔をした。
シャスポーは名人芸のようにころころ変わる笑顔を、マスターへ向けた。
「待っててね、マスター。この書類を置いたら、すぐに食堂へ行くから」
シャスポーは再びタバティエールを見た。
「マスターを待たせるなよ」
「わかってますって。おまえこそマスターちゃんを待たせないよう、早く行ってこいよ」
「うるさいな、わかってる」
シャスポーを見送りながら、マスターは横目でタバティエールを見つめた。手柄を譲ったうえ、あんな指図をされて、平気でいる彼の気持ちがわからなかった。
尋ねると、タバティエールは何度目かの苦笑いを漏らした。
「おれには、こういう立場が似合いなんでね」
やはり彼がわからない。
しかし今度は、タバティエールが答えることはなかった。