壱の譚__唐傘
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氷菓を融かしたような爽やかな空が広がって居る。
色とりどりの着物が行き交う十字路を、三度笠を被った若い女が歩いて行く。その凛とした顔立ちは美しく、通り掛かった男達がちらちらと振り返っては彼女__アサを見ていた。
「もし、榛の羽織のお嬢さん」
ふと声が聞こえ、アサは立ち止まる。ぐるりと辺りを見回すと、少し離れた場所に少女が佇んでいた。
淡黄色が多分に混じる、濡羽色のおかっぱ頭。今紫色の頭巾を被り、随分と重そうな木箱を背負っている。びっしりと抽斗がついたそれは、背丈の半分以上はあるだろうか。
「大奥へは、どの道を行けば良いのでありんしょう」
ゆっくりと首を傾げる。その顔には隈取にも似た煌々緋と赤銅色の派手な化粧が施され、額には花鈿が描かれていた。飴色の髪をした美女はその奇怪な少女をまじまじと見詰め、薄く唇を開いた。
「大奥……ですか?」
「ええ。城下でお聞きした道順が、どうにも読めないのでありんす」
少女は困ったように眉を下げ、折り畳んだ紙を差し出した。書き殴られたような文字と線が紙いっぱいに描かれている。不安定な場所で書いたのか潰れている字も多く、これでは彼女が読めないのも当然だった。所々にある門の番に訊きながら此処まで来たのだろう。七つ口へ行けば良いと聞きんした、と少女は大きな藍鼠の眼を瞬かせて紙を覗き込む。良く見れば幼く可愛らしい顔立ちをしていた。
「私も七つ口へ向かう所です。宜しければ、一緒に行きましょうか」
「まあ……それは有り難い。宜しゅうお頼み申しんす」
からころと高下駄を鳴らし、少女はアサの横を歩く。隣に来ると尚更幼げで、三つか四つは歳下だろうか。アサも十七とは思えないと父やその友人等に散々言われてきたものだが、彼女の佇まいからは見た目相応の幼さなど一欠片も感じられないような、常軌を逸するものがあった。
「私は、アサと言います。今日から大奥勤めです」
「スイと申しんす。見ての通り……薬の行商をしておりんす」
人混みに流されるまま歩きながら、スイはにっこりと笑う。背中の箱に商品を入れているのだろう。大きく重そうな木箱から、微かに揺れるような音がするのをアサは聞いた。
色とりどりの着物が行き交う十字路を、三度笠を被った若い女が歩いて行く。その凛とした顔立ちは美しく、通り掛かった男達がちらちらと振り返っては彼女__アサを見ていた。
「もし、榛の羽織のお嬢さん」
ふと声が聞こえ、アサは立ち止まる。ぐるりと辺りを見回すと、少し離れた場所に少女が佇んでいた。
淡黄色が多分に混じる、濡羽色のおかっぱ頭。今紫色の頭巾を被り、随分と重そうな木箱を背負っている。びっしりと抽斗がついたそれは、背丈の半分以上はあるだろうか。
「大奥へは、どの道を行けば良いのでありんしょう」
ゆっくりと首を傾げる。その顔には隈取にも似た煌々緋と赤銅色の派手な化粧が施され、額には花鈿が描かれていた。飴色の髪をした美女はその奇怪な少女をまじまじと見詰め、薄く唇を開いた。
「大奥……ですか?」
「ええ。城下でお聞きした道順が、どうにも読めないのでありんす」
少女は困ったように眉を下げ、折り畳んだ紙を差し出した。書き殴られたような文字と線が紙いっぱいに描かれている。不安定な場所で書いたのか潰れている字も多く、これでは彼女が読めないのも当然だった。所々にある門の番に訊きながら此処まで来たのだろう。七つ口へ行けば良いと聞きんした、と少女は大きな藍鼠の眼を瞬かせて紙を覗き込む。良く見れば幼く可愛らしい顔立ちをしていた。
「私も七つ口へ向かう所です。宜しければ、一緒に行きましょうか」
「まあ……それは有り難い。宜しゅうお頼み申しんす」
からころと高下駄を鳴らし、少女はアサの横を歩く。隣に来ると尚更幼げで、三つか四つは歳下だろうか。アサも十七とは思えないと父やその友人等に散々言われてきたものだが、彼女の佇まいからは見た目相応の幼さなど一欠片も感じられないような、常軌を逸するものがあった。
「私は、アサと言います。今日から大奥勤めです」
「スイと申しんす。見ての通り……薬の行商をしておりんす」
人混みに流されるまま歩きながら、スイはにっこりと笑う。背中の箱に商品を入れているのだろう。大きく重そうな木箱から、微かに揺れるような音がするのをアサは聞いた。
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