1.番い
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斎藤は折れた刀で牙突の構えをした。
そして 剣心に向かっていった。
「相変わらず 新撰組の男は引く事を知らんな」
「新撰組隊規 第一条、“士道に背くあるまじき事”!」
斎藤は刀を剣心目掛けて投げた。
「敵前逃亡は士道不覚悟!!」
剣心は左手の甲で弾いた。
「命より新撰組としての誇りを選ぶか…それも まあいいだろう」
斎藤は拳で剣心を殴ろうとし、剣心は刀で切りかかろうとした。
だが、斎藤は制服の革帯で剣心の腕を弾き 剣心の手から刀を放させた。
「もらった!!!」
微笑した斎藤は拳打を数発入れ、制服の上着を脱いで 剣心の首を絞め上げた。
剣心は力が抜けていく中、刀の鞘を上にあげ 斎藤の首元を弾いた。
その隙に剣心は斎藤の腕から脱出した。
「「ハァ…ハァ」」
「……これが 幕末の闘い…」
「「ハァ…ハァ…ハァ…」」
その頃、琴乃たちを乗せた大型馬車は神谷道場の目先にあった。
「あの建物だ! 急げ!」
「頼む。 間に合ってくれ…」
「……っ…」
……どうしよう……もし……
…もし――…
琴乃の体が震え出した。
斎藤も剣心ももう余力が残っていなかった。
「そろそろ…終わりにするか」
斎藤は拳を鳴らした。
「……そうだな」
剣心は刀を握った。
「「おおお!!」」
斎藤と剣心はお互いに向かっていった。
「いやあああ!!!」
神谷道場に薫の悲痛の叫びが響き渡った。
「やめんか!!」
「「!!」」
その時、川路の一言により 斎藤と剣心の動きが止まった。
「正気に戻れ 斎藤!! 抜刀斎の力量を測るのがお前の任務だったはずだろう!!」
「………」
斎藤は微笑した。
「今 いいところなんだよ。 警視総監と言えども 邪魔は承知しないぜ」
【君の新撰組としての誇りの高さは私も十分に知っている。 …だが 私は君にも、緋村にも こんな所で無駄死にして欲しくないんだ】
大久保が神谷道場の中に入ってきた。
「……そうか。 斎藤 一の真の黒幕はあんたか…。 元・薩摩藩維新志士、明治政府内務卿 大久保 利通」
恵は大久保を知らない弥彦の為に説明した。
大久保は自分の後ろに隠れている琴乃を見た。
「お嬢さん 斎藤君は無事みたいだよ」
「!」
…まさか…
「……っ…」
琴乃は大久保の背中から顔を出して 斎藤を見た。
「…ぁ…」
琴乃の瞳から涙が流れ落ちた。
斎藤は微笑した。
「は 一様…っ!」
琴乃は斎藤の胸に飛び込んだ。
「血が付くぞ」
「…構いません…っ」
「…そうか」
そう言って 斎藤は震えている琴乃を抱きしめ返した。
「怖い思いをさせた様だな」
琴乃は頷いた。
その頃、神谷道場のすぐ外では赤松が様子見をしていた。
赤松は渋海に報告をするために去っていった。
斎藤はそれに気づいた。
「フン…」
斎藤はしゃがんで 制服の上着を拾い、肩に担いだ。
そして 琴乃の腰に手を添え 扉に向かって歩き出した。
「…一様?」
「久々に熱くなれたって言うのに 途端に白けちまった。 決着はまた次の機会に後回しだな」
「命拾いしたな」
「お前が な」
斎藤は横目で剣心を見た。
「斎藤!」
「任務報告! 緋村 “剣心”の方は 全く使い物にならない。 …が、緋村 “抜刀斎”なら そこそこいける模様――以上」
そう言いながら 斎藤は神谷道場から出て行った。
琴乃は頭を下げて 斎藤のあとを追っていった。
「ったく あの男は…。 腕は警視庁密偵No.1なのだが……、どうも壬生狼の考えている事はようわからん!」
剣心が正気に戻った頃、琴乃は下を向いたまま 無言で斎藤の後を歩いていた。
どこへ行くんだろう…?
琴乃は前を歩いている斎藤をちらっと見て すぐに地面に視線を戻した。
…一様は今…何を考えているんだろう……?