5.夢現つ
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「巴…」
視覚が回復した剣心は涙を流しながら、自らの手で斬ってしまった巴の上体を抱き起こした。
「巴…なんで…どうして…」
涙を浮かべた巴はそっと剣心の左頬に触れ 弱々しく笑いかけた。
これで良いんです……だから泣かないで下さいな…
「――と…も…え……巴ェ!!」
そんなはずはない…
これで良いはずがない…
死ぬならむしろ 人斬りのこの俺!
なのに 君が死んで良いはずがない!
剣心は安らかに息を引き取った巴を抱きしめて涙を流した。
巴………
何も手に付かないまま 年が明け、一週間…二週間と経った――…
剣心は巴の日記帳に気づき 内容を見た。
…そして、剣心が以前惨殺した男である清里 明良が巴の許嫁で会った事を知り、自分が巴の幸せを奪ってしまった事に気づいた。
――それから…
剣心は“遊撃剣士”となり、新しい時代の為に再び刀を振るい……
そして 今に至る――――…
沈黙………
言葉を発する者は誰一人なく、一刻程後 その場は散会となった――…
夜遅くなった琴乃は泊めてもらう事になり、用意してもらった部屋で横になっていた。
「………」
愛する人の為に死ねる人生……
巴さんはきっと幸せだったんだろうな……
…でも……
愛する人を残して死んでしまう……
きっと とても辛い気持ちでもあったんだろうな……
琴乃は瞳を伏せた。
…そして…
…それは残される方も同じ……
琴乃の瞳から一筋の涙が流れ落ちた。
…一様―――…
その後、いつになっても眠れそうにない琴乃は、剣心が気になり 剣心の部屋の前にいた。
「………」
部屋の前に来てみたのはいいけど…
何て話しかければいいのかな……?
琴乃はうろうろしていた。
【…琴乃殿でござるか?】
「!」
琴乃は驚き 剣心の部屋の方を見た。
「……すみません。 お邪魔をするつもりは……」
【………】
「……失礼します…」
琴乃は背を向けて 自分の部屋の方へ向かって歩き出した。
【…構わないでござるよ】
「!」
琴乃は立ち止まって 振り返った。
【………】
「……あの…部屋に入ってもいいですか?」
【………】
少しして 襖が少し開いた。
「……お邪魔します」
琴乃は剣心の部屋に入った。
「………」
「………」
…部屋に無言で招き入れられた琴乃だったが、結局 お互いに無言だった――…
永い一日が明け、琴乃たちは道場で朝食を取り、食後のお茶で一服していた。
その時、恵が言った “巴さんの言葉”でハッとした薫は巴の日記帳の事を思い出した。
剣心は巴の日記帳は京都にある事を言った。
薫は誰が日記帳を取りに行くかを考えたが、今ここにいるメンバーは無理だった。
頼めるとしたら……!
薫は琴乃を見た。
琴乃は頷いた。
その後、琴乃と薫は協力して、蒼紫と操に手紙を書いた。
――数日後、琴乃と薫からの手紙を読んだ蒼紫と操は、巴の日記帳を持って 東京へ向けて新・葵屋を出発した。
――そして、九日目…
決戦の日まであと一日
この八日間、琴乃は神谷道場で寝泊まりして 奇襲に備えていたが、その気配は全くなかった。
琴乃は小国診療所の署長のもとを訪れていた。
「具合はどうですか 署長さん」
「琴乃さん! 小国先生や高荷先生のお蔭で だいぶ良くなってきました」
「それは良かったです。 これ よかったら召し上がってください」
そう言って 琴乃は桜餅を差し出した。
「ご丁寧にありがとうございます」
署長は桜餅を受け取った。
「あ これ、美味しいお店のやつですね」
「……え…」
「以前 藤田君から頂いたことがあって…」
「……そうなんですね…」
琴乃は瞳を伏せた。
「あ すみません。 そんなお顔をさせるつもりは…」
「……いえ…」
「………。 …そんなに心配しなくても帰ってくると 私は思いますよ?」
「…え?」
琴乃は顔を上げて 浦村署長を見た。
浦村署長は笑いかけた。
「こんなに可愛い奥さんが待っているんですから、きっと 帰らないと罰が当たってしまいます」
「……署長さん…」
「…だから 信じて待っていてあげてください」
「……はい!」
そう言って 琴乃は笑った。