4.偲ぶ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【総司 いるか?】
琴乃が植木職人の柴田 平五郎の家で暮らす事になってから少しして、沖田が療養している部屋に原田がやって来た。
「原田さん!?」
「琴乃ちゃん!? 久しぶりだな!」
琴乃は近藤の死を知らない沖田を部屋に残し、別の部屋で ここにいる経緯を原田に話した。
「…辛い思いさせたな……」
原田は琴乃の頭を撫でた。
「…いえ…。 …原田さんがいるという事は、新撰組は江戸へ戻って来たのですか?」
原田は首を横に振った。
「……そうですか…」
斎藤様に会えると思ったのに……
琴乃は瞳を伏せた。
近藤と意見が合わなくなった原田は、永倉と共に新撰組を離脱して 靖共隊を結成した事、今は理由があって 靖共隊を離れて、彰義隊に加入した事を言った。
「……そんな事があったんですね…」
「…ああ。 俺がまだ新撰組…甲陽鎮撫隊にいた時、斎藤は元気だったよ。 ま 斎藤の事だ、心配はねェだろうよ」
そう言って 原田は琴乃の肩に手を置いた。
「…原田さん…」
「だろ?」
原田は片目を瞑ってみせた。
「…はい!」
琴乃は笑った。
「…斎藤の強さは新撰組の中でも認められていたと言う事でござるな」
「…はい。 ……そんな優しかった原田さんでしたが…、会うのはその日が最後となりました……」
琴乃は瞳を伏せた。
「…慶応四年 五月十五日の上野戦争にて負傷し、十番隊組長 原田 左之助さんは帰らぬ人となりました――…」
原田の死は琴乃だけに告げられた。
琴乃は声を殺して 涙を流した。
しばらくして、琴乃は沖田の部屋に戻った。
「…お帰りなさい」
「………」
「……琴乃さん…?」
「! ごめんなさい…」
「…何かありましたか?」
琴乃は首を振って 沖田に笑いかけた。
「……何もありませんよ」
沖田は弱々しく笑いかけてくれた。
…きっと 沖田さんは気づいてしまっているんだろうな……
…それでも…沖田さんには辛い思いをして欲しくない……
…できるだけ…いい思い出だけを覚えていて欲しいから―――…
そんなある日、いつも眠っていた沖田が 急に目を覚ました。
「…どうかされましたか?」
「…琴乃さん…」
「!」
沖田さんの呼吸 少し乱れてる……
「…新撰組のみんな…元気かな……?」
「沖田さん あまり喋らないで…」
「……近藤さん……今…何してるんだろう……?」
沖田は琴乃の注意を無視して 話し続けた。
「! ………」
琴乃は瞳を伏せた。
「……僕は…役に立ったかな……ゴホッ…ゴボッ」
沖田は吐血した。
「沖田さん!?」
「……大丈夫ですよ。 今日は…喋りたい気分なんです……」
琴乃は沖田の口に付いた血を拭いてあげた。
「…ありがとうございます……。 …琴乃さんには…感謝しきれませんね……」
「…そんな事 気にしないでください。 それより もう寝ましょう」
琴乃は沖田の掛け布団を直そうとした。
が 沖田に手を止められた。
「……もう…少しだけ……」
「………」
琴乃は沖田の布団の横に座り直した。
自分の最後を悟った沖田は、少しずつ 思い出話をした。
それに伴い 沖田の呼吸は少しずつ 乱れていった。
琴乃は話すのを止めずに 沖田の話を聞いてあげていた。
が、琴乃の瞳に少しずつ 涙が浮かび、琴乃は涙が沖田に見えないように顔を伏せて 思い出話を聞いていた。
「…また…みんなに会いたいな……」
「…きっと…また会えますよ…」
「………」
「………」
「……琴乃…さん…」
「……何でしょう?」
「……斎藤…さんと……祝言…挙げる…時……僕…も…………」
「………っ!」
言葉が続かない事に 嫌な予感がした琴乃は顔を上げた。
沖田は安らかに眠っていた。
「……沖田さん……?」
琴乃は沖田の体を揺すった。
…が 無反応だった。
「…沖田さんっ…! 逝っちゃ嫌です!」
琴乃は涙を流し 沖田の手に触れた。
「…斎藤様と祝言を挙げる関係になるかなんてわかりませんし…っ! “僕も” の続きは何なんですか…っ!? …沖田さん…っ!!」
琴乃は沖田の胸元に顔を付けた。
…沖田さん――――っ…
慶応四年 五月三十日、一番隊組長 沖田 総司は局長 近藤 勇の死を知らないまま、琴乃に看取られながら 静かに息を引き取った―――……