4.偲ぶ
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それから数日して、琴乃は十四歳の誕生日を迎えた。
…が、琴乃にとって 育ててくれた両親が亡くなった日の印象が強く、一年で一番最悪な日と考える様になってしまっていた。
その為、近藤たちは毎年、毎年 琴乃の為に色々企画したが 失敗に終わり、今年も失敗で終わろうとしていた……
宴会場と化している広間から抜け出した琴乃は一人、縁側に座り 舞っている雪を見ていた。
【主役が抜け出して何してる?】
「!」
琴乃は驚き 声の主を見た。
そこには琴乃と同じく 宴会場と化している広間から抜け出してきた斎藤が立っていた。
琴乃は雪が降り積もっている庭を見た。
「……少し…疲れてしまって…」
「……そうか」
「………」
「……お前は雪が好きだな…」
「……え…」
琴乃は斎藤を見上げた。
斎藤は舞っている雪を見ていた。
琴乃も舞っている雪を見た。
「……そうかもしれません」
琴乃は掌を出した。
「舞っている姿は…汚れもない純白で とても綺麗…」
舞っている雪は琴乃の掌に落ち そしてすぐに溶けた。
「…でも すぐ消えてしまう……」
「………」
「…とても儚いですけどね…」
そう言って 琴乃は斎藤に笑いかけた。
「…形ある物は何れ朽ちる…」
「………」
琴乃は瞳を伏せた。
その時 琴乃に布が被った物が差し出された。
「……これは…?」
琴乃は受け取り 斎藤を見上げた。
「開けてみろ」
琴乃は布を開けると そこには柄と鍔が純白でできたとても綺麗な小太刀が入っていた。
「お前へのお返しだ」
「!」
斎藤は柱に背を預け 腕を組んだ。
…まぁ あれは俺には不要な物かもしれんがな…
「……綺麗…」
「抜いてみろ」
「…いいんですか?」
「お前の物だ」
右肩をまだ使えない琴乃は左手で刀を抜いた。
「!」
その刀は刃も純白だった。
「“白夜”と言う名の名刀だ。 大事にしろよ」
「…“白夜”…」
琴乃は斎藤を見た。
「ありがとうございます! 大切にします!」
斎藤は穏やかな顔をしていた。
その日から、琴乃にとって 誕生日は素敵な思い出のものになった―――…
――それから ふた月が経った…慶応三年 三月二十日、伊東が結成した、孝明天皇の陵を守るための組織 “御陵衛士”として、斎藤と藤堂たちは新撰組を分離していった。
それは、体調を崩し 寝たきりになっていた琴乃には何も知らされておらず、斎藤自身も何も伝えていなかった。
琴乃が斎藤たちがいなくなった事を知らされたのは、時間が経ってからの事だった。
琴乃は近藤と土方に斎藤を追いたい旨を伝えた。
だが、新撰組と御陵衛士の間では、それぞれの隊への移籍を望む者があっても許可しないとの合意がなされており、新撰組から御陵衛士に移籍を望むことはそのまま脱走と判断され 切腹となる事を言い返されてしまった。
その後、琴乃は部屋にこもる様になり、再び 体調を崩した。
【琴乃 起きてるか?】
斎藤がいなくなり、永倉が琴乃の面倒を見てくれていた。
「………」
【琴乃】
「………」
【開けるぞ】
永倉が琴乃の部屋に入って来た。
「Zzz…」
琴乃は布団で眠っていた。
「琴乃」
永倉は琴乃の体に触れた。
「……ん…」
琴乃は目を覚ました。
「……永倉さん…」
「おはよ。 具合はどうだ?」
「…だいぶ 良くなりました…」
「それは良かった。 近々 屯所を移動する事になった。 体調がいい時に 荷物の整理をしておいてくれ」
「……わかりました」
そして、慶応三年 六月十五日、新撰組の屯所を西本願寺から不動堂村へ移転した。
――それから間もない、慶応三年 六月二十二日、銭取橋にて 五番隊組長 武田 観柳斎が暗殺され、斎藤が暗殺に関わったとされた――…