4.偲ぶ
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水茶屋を出た琴乃と斎藤は宿屋に向かって歩いていた。
「いつもご馳走して頂いてすみません。 ありがとうございました」
「…ああ」
「………」
「………」
「…あの……斎藤様は…江戸に詳しいのですか?」
斎藤は立ち止まり 振り返った。
「……俺は元々…江戸で産まれた――…」
「!?」
琴乃は目を見開いて驚いた。
お酒が入り 少し饒舌になっていた斎藤は、十九歳の時に旗本と口論になって斬り殺してしまった事、父親の友人のもとで身を隠す為に京都に行き そこで道場の師範代を務めた事、そして 後に新選組に加入した事、自分の過去を全て話してくれた。
琴乃は瞳を伏せた。
「……そんな過去があったんですね…」
「まぁな…」
琴乃ははっとして 斎藤を見た。
「じゃあ お家の方へは…!」
「今更 必要ない」
琴乃は斎藤の前に立ち塞がった。
「どうして 会われないんですか!?」
斎藤は立ち止まった。
「…俺は京都に行った時点で姓を変えている」
「……そんな…」
「お前が気に病む事はない」
「……でも…」
琴乃は瞳を伏せた。
「…本当の家族がいるのに…会わないなんて…」
「………」
斎藤は微笑した。
「お前は優しいな」
そして 琴乃の頭を撫でた。
ある日の夜、夜の巡察のみ屯所でお留守番をしている琴乃は、屯所が騒がしくなって目が覚めた。
琴乃は直ぐに髪を結って 部屋を出た。
その時 向こうから山崎が走ってきていた。
「山崎さん!」
「!」
「何かあったんですか?」
「…実は斎藤さんが斬られまして…」
「っ!?」
「傷は浅…って 琴乃さんっ!」
琴乃は山崎が話している途中で、急いで斎藤の部屋に向かった。
斎藤様―――っ!!
その頃、斎藤の部屋では 近藤たちが斎藤から事情を聞いていた。
「…そうか…相手は人斬り抜刀斎か……」
「赤い髪に左頬に十字傷がある男だったよな…」
「俺 直接会った事ないけど…、斎藤君に一太刀浴びせるなんて…」
「ああ。 腕は立つようだな」
【斎藤様っ!?】
その時、琴乃が勢いよく斎藤の部屋の襖を開けた。
「「「!」」」
斎藤を囲む様に座っていた近藤たちが一斉に琴乃を見た。
「!」
「…なんだ 騒々しい」
「…斎藤様……え…あの……」
琴乃はやって来た山崎を見た。
「…山崎さんから、斎藤様が斬られたと聞いて…」
琴乃は斎藤に視線を戻した。
「…心配して駆けつけてきたんですが……」
「……確かに斬られたが、これくらい かすり傷程度だ」
「…そうだったんですね…。 …よかった」
安心した琴乃は崩れ落ちそうになった。
「おっと! 琴乃 大丈夫か?」
崩れ落ちそうになった琴乃を 永倉が支えてくれた。
「すみません。 ありがとうございます」
その後、山崎は斎藤の傷の手当てをした。
「山崎、琴乃をあまり心配させるなよ」
「…すみません。 私は、いつも斬られる事などない斎藤さんが斬られましたが、傷は軽傷である旨をお伝えしたかっただけで…」
「……私の方こそ すみません…。 私が山崎さんの最後の言葉も聞かずにここへ駆けつけてしまったから…」
「全く 夜更けだと言うのに 大声を出して、迷惑と言うものも考えろ」
「……すみません」
「まぁまぁ斎藤さん、琴乃さんは斎藤さんを心配してくれてたんですから」
「……フン」
「斎藤君 本当は嬉しいくせに」
斎藤は藤堂を睨みつけた。
「何か言いましたか 藤堂君?」
「ひっ! 何も言ってないよっ!?」
近藤たちは笑い出し、琴乃も微笑した。
その後、近藤たちは部屋を出ていき、斎藤の部屋には琴乃だけが残っていた。
「…あの…本当に傷の方は大丈夫なのですか…?」
「…何度も言わせるな」
「……すみません」
琴乃は瞳を伏せた。
琴乃は自分の右手を左手で握り締めた。
斎藤様に万が一の事があったらと…
琴乃の瞳に涙が浮かんだ。
「………」
斎藤はため息をついて 琴乃の手に自分の手を重ねた。
「! …斎藤様…?」
「……心配かけて悪かったな…」
斎藤は琴乃の頬に触れた。
「…だから 泣きそうな顔をするな」
「っ!」
琴乃の瞳から涙が流れ落ちた。
「……言ったそばから 泣く奴がいるか…」
「…すみません…っ…」
琴乃は涙を拭ったが、涙は次々に溢れてきた。
斎藤は微笑し 琴乃を抱き寄せた。
「阿呆が――…」