4.偲ぶ
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――そして、新期隊士の募集で二百人を超える大所帯となった新選組は屯所の移転をする事にした。
近藤は、尊王攘夷色が濃い西本願寺に屯所を移し、将来禍根となりうる芽を摘んでしまおうと考えだったが、山南はこれに強く反対した。
…が、近藤や土方は山南の意見を全く取り合わなかった―――…
そして…
これが引き金となり、山南 敬助は新選組を脱走した。
――だが…追手として差し向けた、試衛館以来 山南と親しかった沖田により 屯所に連れ戻された。
永倉は山南に再度の脱走を勧めた。
既に死を覚悟している山南は首を横に振った。
「…山南さん どうしですか……っ!?」
「…そんなに悲しそうな顔をしないでください 琴乃さん」
「……でも…っ」
「…私は覚悟を決めて戻ってきました。 …だから…」
山南は琴乃の顔に触れた。
「…どうか 泣かないで…笑ってください―――」
――元治二年 二月二十三日…
山南 敬助 切腹
介錯は山南の希望により、沖田が務めた――…
涙を流している琴乃は縁側に座っていた。
【…琴乃さん】
「………」
琴乃はゆっくり顔を上げた。
そこには沖田が立っていた。
「……辛い思いさせちゃいましたね」
「……いえ…」
琴乃は沖田を見た。
「…本当に辛いのは…沖田さんの方なのに……すみません…」
「……いいえ」
沖田は正面を見た。
「……山南さんも……脱走は切腹と…わかっていた事ですし……」
「……でも…」
琴乃は瞳を伏せた。
「……仲間だった人を…戸惑いもなく切腹させてしまうなんて……」
「……決して 戸惑いがないわけではないですよ。 …僕同様 近藤さんたちも山南さんとの付き合いは長いですから…」
「……なら…!」
琴乃は沖田を見た。
沖田は首を横に振った。
「……たとえ総長であろうと 異例の処置を取るわけにはいきません…。 一度異例の処置を取ってしまえば 局中法度の意味が無くなり、隊のまとまりが無くなってしまう…」
「………」
沖田は空を見上げた。
「……だから…仕方がない事なんです。 …これからの“新撰組”の為にも―――…」
「………」
琴乃は沖田の横顔を無言で見ていた。
その横顔は泣いているようだった―――…
そして 山南が切腹してから間もない、慶応元年 三月に新撰組の屯所を西本願寺に移転した。
また、その頃になると 赤い髪に左頬の十字傷…人斬り抜刀斎が有名になっていた。
――慶応元年 四月、琴乃は斎藤たちと共に、隊士募集の為に江戸を訪れていた。
「……ここが…江戸……」
琴乃は江戸の街を見ていた。
【琴乃ー! ぼさっとしていると置いてくぞー!】
「あ! すみません…!」
琴乃は江戸の街に視線を戻した。
「………」
なんでだろう……
初めて来た街のはずなのに……どこか懐かしい―――…
「………」
斎藤は横目で 少し離れた所で立ち止まっている琴乃を見ていた。
江戸に滞在している間、琴乃は浮かない顔をしていた。
「琴乃 大丈夫かな…?」
斎藤たちは琴乃の事を心配して 話し合っていた。
「……何か思い詰めた顔をしておられますからね…」
「斎藤」
斎藤が土方を見ると 横目でこちらを見ていた。
「……わかりました」
江戸に滞在する最後の夜、斎藤は琴乃を連れて江戸の街を歩いていた。
「………」
「………」
「………」
どこへ行くつもりなんだろう――…?
斎藤に連れられてこられたのは水茶屋だった
琴乃は俯きながら 桜餅を食べ、斎藤はお酒を飲んでいた。
「………」
「………」
斎藤はお猪口を置いた。
「…甘いものが好きだったんじゃないのか?」
「!」
琴乃は顔を上げた。
「…そうやって無言で食べられては 美味いものも不味くなる…」
「……すみません」
斎藤はお酒を一口飲んだ。
「俺が知っている限り、江戸で一番美味い桜餅のはずなんだがな…」
斎藤の目つきが鋭くなった。
「江戸に来てから 何を考えている?」
「! ………」
琴乃は瞳を伏せた。
「……私の本当の両親の事を…」
「……四乃森家の事か?」
琴乃は頷いた。
「…江戸に来てから どこか懐かしさを感じて……、…まるで…江戸が私の産まれた場所な気がして……」
「…探してみたのか?」
琴乃は首を横に振った。
「…養子として送り出した娘が帰ってきたら、迷惑かなぁと考えてしまって…。 江戸が私の産まれた所なのか 確証もありませんし…」
琴乃は笑いかけた。
「それに…今は新撰組の皆さんが家族の様に感じてますから」
「…そうか」
「はい!」
琴乃は格子から空を見上げた。
ごめんなさい…本当のお父さん、お母さん…
私は今、“新撰組”と言う家族の中で 幸せに暮らしています
…だから…心配しないで下さい―――…