4.偲ぶ
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斎藤に巡察に連れて行ってもらう許可をもらった琴乃は毎日、ご機嫌だった。
また、稽古もより身が入った。
――元治元年 七月十八日、禁門の変が起きた。
琴乃は左腕を負傷している山南と額に怪我を負った藤堂、そして 体調が優れない沖田と共に屯所に残っていた。
…が、禁門の変における新撰組の活躍というのは全て 後手に回る形になり、これといった活躍はなかった。
――元治元年 十月、江戸で北辰一刀流の道場を開いている 伊東 甲子太郎が、山南よりも上席の参謀の地位につく形で新撰組に加入する事になった。
琴乃は廊下を歩いていた。
そして 曲がり角を曲がった。
「!」
その時 人とぶつかった。
「おっと 大丈夫ですか?」
「…すみません… !」
琴乃が顔を上げると 目の前に伊東がいた。
「…貴女とお会いするのは初めてですね。 伊東 甲子太郎と申します」
「…初めまして 藤田 琴乃と申します。 よろしくお願いします」
琴乃は頭を下げた。
伊東は笑みを浮かべた。
「貴女の様な可憐な方によくお似合いのお名前ですね」
「……え…」
伊東は琴乃の髪に触れて 顔を近づけた。
「…だって 貴女…女せ… !」
その時 伊東の体が後ろに引っ張られた。
伊東は驚き 後ろを見た。
そこには斎藤が立っていた。
「伊東さん うちの組の隊士に何かご用ですか―――?」
伊東が立ち去った後、琴乃と斎藤は 琴乃の部屋にいた。
「伊東と何をしていた?」
「……曲がり角でぶつかってしまって…」
「………」
斎藤はため息をついた。
「…あいつとあまり関わるな」
「…え……?」
「……あいつから…嫌な臭いがする―――…」
その時、そう言った斎藤だったが、後に斎藤は伊東と共にいる日が増えていくのであった―――…
隊士は二百人を超え、琴乃は斎藤と共に巡察や稽古の日々を送っていた。
「琴乃ちゃんの剣術 見違える程上達してるね」
「そりゃあ 斎藤君が付きっきりで教えているからね」
「そうだな。 …だが それを良しとは思わない輩もいるようだ――…」
斎藤との稽古を終えた琴乃は縁側で休んでいた。
「藤田さん」
「!」
琴乃は顔を上げた。
「お手合せ…お願いできますか―――?」
琴乃は話しかけてきた、腕が立つであろう 新人隊士と向き合い 木刀を構えた。
「では」
隊士は琴乃に向かってきた。
木刀のぶつかり合う音が響いた。
だが、琴乃の剣術は圧倒していた。
「…っ!」
隊士は倒れた。
「…勝負あり…ですね?」
琴乃は木刀をしまった。
「…ありがとうございました」
隊士は頭を下げた。
琴乃は微笑み 背を向けた。
「…って言うとでも 思ったか!」
「!」
琴乃が直ぐ振り返ると 真剣を抜いた隊士が目の前にいた。
間に合わない…っ!
その瞬間、琴乃は体を包まれた。
【…仲間とは言え 油断はするな】
斎藤が隊士の刀を指で掴んでいた。
「! ……斎藤様」
斎藤は微笑した。
「どうして そいつだけ! そいつだけ 組長から一対一で教えてもらえるんですか!?」
琴乃を狙った隊士は声を荒らげた。
斎藤は鋭い目つきで隊士を見た。
「……言いたい事はそれだけか?」
「っ!?」
隊士は斎藤の目つきに恐怖し 崩れ落ちた。
その後、琴乃を狙った隊士は斎藤たちに連れて行かれていった。
琴乃は縁側に座り込んでいた。
【怪我はないか?】
琴乃は顔を上げた。
「…斎藤様」
琴乃は瞳を伏せた。
「……はい。 …助けてくださって ありがとうございました」
「……ああ。 …怖い思いをさせて悪かった…」
「…斎藤様のせいでは…。 …私が未熟だっただけですから……」
「………」
斎藤は琴乃の隣に座った。
「…差し入れだ。 元気出せ」
「……わらび餅?」
「永倉さんに頂いた。 恐らく 島田さんが買ってきたものだろう」
「…ありがとうございます。 いただきます」
琴乃はわらび餅を受け取り 食べた。
「…美味しい」
琴乃は笑顔になった。
「甘いものが好きな島田さんのおすすめのお店らしい」
「! 島田さんって甘いもの好きなんですか?」
「ああ。 永倉さんによると甘いものに目がないらしい…」
「そうなんですね。 …意外でした」
「まあ あの顔だからな…」
「…顔で判断するのは失礼だと思いますよ?」
「……フン」
斎藤は立ち上がった。
「…斎藤様も食べてくださいよ? 頂いたのは斎藤様なんですから」
琴乃は斎藤にわらび餅を差し出した。
斎藤は琴乃を見た。
「…俺が甘いものを食べる顔をしているか?」
「………」
琴乃は微笑した。
「いいえ」
「……フッ」
斎藤も微笑し、琴乃に差し出されたわらび餅を食べた。