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面食いと美丈夫

「あらうぐちゃん! お茶っ葉いいの入ったのよ」
「ああ、ありがとう」
「うぐ様、うちの漬物持っていってくれませんか?」
「この前言っていた大根のかな、是非貰おう」
「あ、うぐ様!」
「うぐちゃん!」
「鶯丸様ー!」

「……てことがあったんだけど」
 加州に事の次第を告げられて、報告書を書いていた大包平はそれがどうした、と返事をした。
「や、どーしたじゃなくて……あんなにモテてるのに、不安にならないの? 一応付き合ってるんでしょ」
「一応、ではない」
「なんかさあ、老若男女から声かけられてて……万街歩くの大変だったくらいなんだけど、いいの?」
「別にあいつが好かれることに対して、どうこう言うつもりはない」
 鶯丸は美しい。なら、人がそれに惹かれるのは至極当然のことだ。
「……やせ我慢……には、見えないな」
「本心からそう思っているからな」
「ね、なんでそんなどっしり構えていられるわけ? 鶯丸ってちょっと何考えてるかわかんないところあるし、他のところ行っちゃうかもって思わないの?」
「ない」
 大包平はボールペンを置いて、加州に向き合った。
「鶯丸が愛しているのはこの大包平ただひと振り。それを疑ったことなど、ただの一度もない」
「……さっすが、横綱名乗るだけあるね」
「話はそれだけか」
「いや、鶯丸がさ、茶屋に寄りたいっていうから先帰ってきたんだけどそこの店員だいぶ体格のいい美丈夫だったから、一応おせっかい」
「なっ!?」
 大包平は立ち上がって、加州に近づいた。
「その茶屋はどこだ!」
「万街の……疑ったことないんじゃないの?」
「それとこれとは話が別だ! ええいくそ、その男はどれくらい美丈夫だった!?」
「んーと、結構いい感じの男だった。身長大包平よりちょっと小さいくらいで、硬派だけど愛想はよさそう」
「っ……、あいつの好みではないか!」
「それ、自分がそうって言ってる?」
「俺は茶屋に行く。情報感謝する!」
 大包平は大股で廊下を駆ける。鶯丸の愛情を疑ったことはないが──それでも、彼から美丈夫に近づいたのは度し難い。
「俺以上の美丈夫などいてたまるか!」
 大声のひとりごとは、すれ違った静形薙刀を驚かせてしまった。

「鶯丸!」
 茶屋に着くと、鶯丸はひとりで茶を啜っていた。
「大包平か、そんなに急いでどうした」
「はあ、はあ……は、お前が……美丈夫につられて茶屋に寄ったと……」
「美丈夫? 俺は茶を飲みたかっただけだぞ」
「……は?」
「俺が美丈夫につられるような男だと思っていたのか、大包平」
「……面食いなところは否定できないだろう」
「はは、そうだな、否定はしない」
 隣に座って息を整える。茶を飲んでいる姿すら、絵に残せるほどの美しさだ。
「……俺を翻弄するのなど、お前くらいのものだ」
「誉め言葉として受け取っておく。ほら、お前も茶を飲んだ方がいい」
 大包平の心配も知らずに、鶯丸は楽しげだ。
 困ったものだと思いながら、大包平は安堵と疲れの入り混じったため息を吐いた。
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