刀とメカクレと巻き込まれた刀工
バーソロミューの自室で、パーシヴァルは彼を後ろから抱き締めていた。バーソロミューはというと、パーシヴァルに身体を預けながらスマートフォンを操作している。
それだけならば、パーシヴァルは何も言わない。だが、今日は部屋に来てからほとんど会話をせずにずっと彼はスマートフォンに向かっている。それを寂しいと思ってしまうのは、己が未熟である証だ。どうやら彼はゲームをしているようだ。彼の趣味を邪魔したくはないが、そろそろ構ってほしい気持ちもある。
「バート、話しかけてもいいかな」
「ん? ああ、もちろんだとも」
「それは何のゲームなのかな。すまない、画面が見えてになってしまって」
「ふふ、興味があるのかい? じゃあ教えてあげよう」
そう言ってバーソロミューは画面をパーシヴァルに見せてくれた。画面に映っているのは現代風の衣装に身を包んだ、日本刀を持っている青年の姿。
「このキャラクターたちは人間じゃないんだ。いわゆる付喪神っていうやつでね。刀の付喪神なんだよ。それも、日本刀の」
「付喪神……ああ、物を長い間使っていると神が宿るという、あの」
「そう、それでプレイヤーは刀剣の……まあ槍とか薙刀とかもいるんだが、とにかく付喪神たちを使役して、歴史を改変しようとする敵と戦うんだ。なんだが親近感が湧くだろう?」
「それは、確かに面白そうだね」
ようやく彼と話ができたのが嬉しい。細い腰をきゅうと抱き締めて、後頭部に口づけをひとつ落とした。
「貴方が好きな付喪神は、やはりメカクレなのかな」
「もちろんだとも! 特にこの子は前髪で隠れている上にゴーグルを付けていてね!? 彼の瞳を見れるのは許された人間だけということさ! たまらない……! しかも歌って踊れるんだ、すごいだろう!?」
「刀が……歌って踊る……?」
言葉の意味がよくわからないが、歴史を守る以外にもアイドル活動をしているのだろうか。
「他にもメカクレはいるんだ! こっちは源義経の刀と伝わっている子、この子は日本の皇室が所有する刀、あとはほら、この子は眼帯なんだ! メカクレがいすぎて困っててしまうよ! いや困ることなんてないけれどね!」
バーソロミューはハアハアと息を荒げている。彼がいわゆるオタクモードを全開にしてくれるまで随分と時間がかかったものだが、もう彼はパーシヴァルにその一面を隠すことをしない。
それが嬉しい反面、あまりにも愛情を注ぐその姿を見て、狭い心がざわついてしまうのもまた事実。
「……バートが楽しいようで、とても嬉しいよ」
口から出たのは半分本気、半分取り繕った言葉。パーシヴァルは自分の器の小ささが本当に情けない。
「ふふ、最近は刀そのものにも興味を持ってしまってね。パーシーが刀を持ったらどうなんだろうなんて考えてしまうんだ」
「……私?」
「ロンギヌスを擬人化するのも面白そうだけれど、日本刀を振るう君もクールでなかなかいい。ああ、きっと体格がいいから大太刀だって振るえるはずだ。君専用の刀があったらきっと私好みの、君そっくりのかっこいい付喪神ができるはずさ」
ただの妄想だけどね、と言いながら、バーソロミューは振り返ってパーシヴァルの頬に口づけを落とす。
ゲームをしている間でも、パーシヴァルのことを想ってくれていたなんて。彼の愛情が嬉しくて、彼をいっそう強く抱き締める。
「わ、パーシー?」
「……貴方が望むなら、このパーシヴァルは全身全霊でそれを叶えてみせよう」
「え? いや今のは妄想の話で……」
「少し待っていてくれ!」
そう言ってパーシヴァルはバーソロミューをベッドの上に置いて部屋を飛び出した。向かったのは食堂。マスターに目当ての人物の居場所を聞こうと思ったが、その人物はタイミングよくそこにいた。パーシヴァルは彼に向かって早歩きをする。
「お、パーシヴァルじゃねえか、どうした?」
千子村正。刀を作ることに関しては超一流のサーヴァントだ。彼ならば付喪神が宿るほどの刀を打てるはずだ。
「頼みがあります!」
パーシヴァルはバーソロミューと共に見たアニメで見たDOGEZAを村正に向かってする。日本ではこれが最上級の腰の低さを示す行動だと学んだ。
「付喪神になったらメカクレになりそうな私だけの日本刀を作っていただきたい!」
「はぁ!?」
意味の分からない注文を受けて村正がたじろぐ。巨躯が土下座をしている様は一瞬で食堂中の注目を集めた。
「おいパーシヴァル、土下座止めろ! メカクレの刀ってなんだ!?」
「バートの望みなのです! できれば扱い方も教えていただきたく! 彼に刀を振るう姿を見せて惚れ直してほしいのです!」
食堂中に響き渡る声。キャスター・アルトリアがオムライスを持ちながら村正なんか巻き込まれてる! とツボに入っている。
「~~~~っ、メカクレはわからんが刀はいくらでも作ってやるから、爺を色恋に巻き込むんじゃねえ!」
村正の心からの叫びが放たれる。それからすぐにパーシヴァル専用の日本刀が作られ、それを元に新刊のモデルを条件に葛飾北斎と刑部姫がキャラクターを描き起こし、バーソロミューの好みが百パーセント反映されたオリジナル付喪神が作成された。
村正は鍛刀中、げっそりとした表情で、「メカクレの刀ってなんだ……」と悩み続けていたという。
1/1ページ