入隊希望者とその親族関係の明記を。
あなたを守ること 沖田
入隊希望者名簿
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時は流れ、文久四年正月中旬――
障子を開けると清々しい朝の空気が流こんでくる。
空は厚い雲におおわれていて、ふく風もいつもより強い。
「今日は少し肌寒いかもしれないね」
『確かに』
二人が新選組の屯所で暮らしはじめて早くも一週間が過ぎようとしている。
二人には基本的に自由な生活と専用の部屋が与えられていた。
殺される寸前であったことを思えば、今の待遇は涙が出るほどありがたいものだ。
「だけど……」
『ずっと男装したままっていうのは不便?』
「うん…」
『女として屯所にいればよくない勘繰りが生まれるかもしれない。千鶴や私も狙われる可能性がある。』
「仕方ないか…」
新選組預りが決まったあの日。
女として屯所に置く訳には行かない。
新選組に匿われている女がいるなんて話が広まれば良くない勘繰りをする輩も出てくる。
噂を聞いて綱道を狙っている人達が千鶴まで狙い出す可能性もある。
もちろん進の娘である鶴姫も、父親や兄絡みで狙われる可能性がない訳では無い。
不確定要素が多い現状で迂闊な行動をとる訳にはいかない。
それ故に男装を続けなければならないのは仕方の無いこと。
『あとは、その気はなくても隊内の風紀を乱しかねないからね。男ってそういう生き物だし、特に千鶴は言葉遣いやしぐさからすぐにばれそうだし』
「鶴姫ちゃんはバレてなかったもんね」
仮に姿を見られたときは、隊士たちには会津侯から派遣されてきたということで、屯所では隊士たちと関わることはしなくていいと言われた。
二人でひとつの部屋を用意するから引きこもっていろと。
しかし
「あれ、おかしいなあ。この子、誰かさんの小姓になるんじゃなかったですか?それに、鶴姫ちゃんは僕の小姓なんですけど」
「……いいか、総司。てめぇは余計な口出しせずに黙ってろ」
そんな感じで現在に至る。
屯所で個室を持っているのは幹部のなかでも限られているのに、入ってきてすぐさま二人でひとつの個室とはいえ、心苦しい。
千鶴は小太刀に手を触れる。
『小さな頃からずっと持ってるんだっけ』
「うん。雪村家に代々伝わるとても大切な小太刀なんだって。おかげで剣術の道場に通わされ、人並みに刀を扱えるようになったと思うけど」
『刃物は苦手?』
「人を傷つけるもの……でもあるんだけど、小さい傷なら翌日には治ってしまうの」
『私も。割と深いものでも明後日にはすっかり綺麗になってる事ない?』
「ある!」
『体質……とも思えないんだけど、よく分からないよね』
「物心着くようになってからは普通じゃないと気づいたの。父からは天からの授かりものだから、人には言わないようにと」
ちょっとした怪我が翌日にはきれいさっぱりなんて、普通の人からしたら気味悪がられるに決まっている。
「だから、できるだけ怪我をしないようにと刃物はちょっと苦手になって」
『家族以外の人との生活はそっちの方が気になるよね』
「でも、気が重くなる理由はほかにもあって」
『隊士たちの目が何となく冷たい?』
「そう……」
『ま、いきなり来て幹部でもないのに個室あたれられてるの見たらね。何かの役に立てればと思うけど、隊内のことも屯所のこともわからないし』
「そもそもできるだけ部屋から出ないように言われてますし」
隊士からは、幹部の人達が何かにつけて二人のことを気にかけているのが、懇意にしているように見えるのだろう。
ただ二人を見張っているだけとはいえ、傍目からはそのような事情は見て取れないし、見張る理由を勘ぐる輩も出てくる。
「本当は早く父様を探しに行きたい」
二人とも同じ気持ちではあるが、結局のところまだ屯所から外に出してもらえていない。
許可をこうにも土方は大坂に出張していて不在だ。
「でも立場が立場だし土方さんのいいつけは守らないと駄目よね」
『それも一理あるけど、私は誰かに頼んでみるよ』
そう言って鶴姫は人の姿を探して中庭へ行ってみた。
一般の隊士がいると困るため物陰に隠れながら様子を伺ってみる。
『あ……』
今日は運が向いてるようだ。
中庭にいたのは沖田と斎藤だけだった。
『沖田さん、斎藤さん、おはようございます』
「おはよう」
鶴姫が挨拶をしながら近づくと、沖田はもちろん、斎藤も驚いた様子もなく答える。
「おはよう、鶴姫ちゃん。明るいような暗いような、微妙な顔してるね」
『そうですか?』
「なにか思うところがある、という様子だ。俺たちになにか用があるならいうといい」
『そろそろ父や兄、千鶴ちゃんの父を探しに外にだしてもらえませんか?』
「それは無理だ。お前たちの護衛に割く人員は整っていない。」
斎藤がくれたのはとりつく島もない却下の言葉。
しかし、諦めるわけにはいかないと鶴姫は次の言葉を発する。
『……なんとかなりませんか?別に遠出したい訳じゃないんです。ちょっと屯所のまわりだけでも。千鶴に関しては護衛がいるものと思われますが、私に関しては護衛はいりませんから』
「んー。そうはいってもね。そのまま脱走されても困るし。まあ僕たちが巡察に出掛けるとき、同行してもらうのが一番手っ取り早いかな」
思わぬ方向からの助け船が来たとすこし喜んだ直後。
「でも、巡察って命がけなんだよ?僕たちが下手を打てば死ぬ隊士だって出る。浪士に殺されたくないなら最低限、自分の身くらい自分で守ってもらわないとね」
そう言って沖田はすこし意地悪な笑い方をする。
『誰に仰ってるんですか?私道場の跡取りとして育ったんですよ』
とは言うものの、正直なところをいうと、人が死ぬ様子なんて二度とみたくないのが本音だ。
しかし、その気持ちは、父親を探さない理由にはならない。
例え危険だとしても本当なら今すぐに父親と兄を探しに行きたいのだ。
「鶴姫ちゃんの相手は僕がしたいな~」
「どちらでも構わん」
「じゃ決まりだ。」
そう楽しそうに笑うと沖田は鶴姫と向かい合う。
その時、沖田はあることに気づく。
「鶴姫ちゃんの、それは太刀だよね」
『はい。数百年も昔から穐月家に伝わっているものです』
「鞘も柄も、装飾以外は全部白いんだ」
『珍しいですよね』
「……なんだか鶴姫ちゃんに似てるね」
『……脇差の方に変えます』
何を言い出すんだこの男はといわんばかりの目線に、沖田はいつもと変わらないにこにこ笑顔。
斎藤は咳払いをひとつ。
「総司、そのようなことは後にしてくれぬだろうか」
「ごめんごめん。じゃいつでもどうぞ」
『では──』
しばらく二人とも動かない時間があったが、さきに動いたのは鶴姫だった。
二人とも互角とも言える太刀筋に、斎藤も驚いている。
「へー、すごいじゃない」
『ありがとうございます』
「でもこれはどうかな」
次々と攻撃に転じていく沖田だが、それに対応して受け流しながら自身も攻撃する鶴姫。
真剣の触れる音が中庭にこだまする。
だが、さきに身を引いたのは鶴姫だった。
「鶴姫ちゃん?」
先程まで攻撃していた鶴姫の動きが急に止まる。
それを心配して沖田が鶴姫の近くに歩み寄る。
「どうしたの?」
『目が……』
「目?見せて」
手合わせの時には気づかなかったが、顔をあげたときの鶴姫の瞳は紅い色をしていた。
それはすこし時間が経つともとの黒い瞳に戻っていく。
それがなんなのかは、この場にいる誰もわからなかった。
「見えることには見えるの?」
『はい。見えるのですが、痛みがあったので……』
「そっか。まあ鶴姫ちゃんの剣の腕は見れたし、体調にも問題ないみたいだね。」
『では…』
「外出禁止令を出した人が許可するならいつでも連れて行ってあげるんだけどね?」
「副長が大坂出張から戻るまで、今しばし待たせることになる。……済まないな」
『斎藤さんが気にすることではありません。ありがとうございます』
斎藤はそういう鶴姫にばつが悪そうに目をそらした。
「巡察に同行できるよう、俺たちから土方副長に進言しておこう」
「だから、もうすこしだけ大人しくしててね。遊び相手くらいになら、なってあげるからさ」
ね、と沖田は鶴姫をみる。
えらく気に入られたものだと斎藤はその様子を見ている。
『僕と遊んでほしいの間違いではありませんか?』
「うわ、もうそんなこと言えるようになったの」
『ふふ』
それから部屋に戻った鶴姫。
千鶴はというと、鶴姫が出ていってから近藤が部屋に来てしばらく二人でお茶をしていたという。
相変わらずのようで、無断で女子の部屋に立ち寄ってしまったと慌てていたらしい。
近藤は千鶴が土方の小姓と聞いていたことから、千鶴の部屋は土方の隣部屋だと思っていたという。
どうやら土方と沖田が二人を小姓として扱っていないことを知らされていないよう。
その近藤は、茶菓子の棚から金平糖があったからと持ってきてくれたらしく、二人でつまんでいたという。
「土方さん、昔から他人の世話をしないではいられない性分だそう」
『だと思った』
近藤の言うことだ、間違いはないだろう。
今回の件も自分たちのことを思ってのことだと近藤は説明してくれたという。
間違いなく切れ者であるから、そんな人が時期早尚と判断するのだから従っておいて損はない。
近藤も自身から土方に伝えておくことを約束してくれた。
沖田や斎藤も土方に伝えておいてくれるという。
味方が増えたような気がし、一歩前進したような気もした。
空を見やると灰色の雲が途切れ、鮮やかな晴れ間が覗いていた。
夕方になると、夕陽の差し込む部屋で、二人はただぼんやりと過ごす。
「いつまで、こんな生活が続くんだろうね」
『許可がおりるまで……かな』
「いつになれば外出許可が降りるのかも、出張中の土方さん頼みか………」
『今はとにかくその機会を待つしかない。きっといい方向に向く。気長に待とうね』
鶴姫は落ち着いていた。
考えても解決しないことを考え続ける限り、千鶴の不安は増していくばかりだと心配していってくれたのだ。
「救いなのは、みんなが良くしてくれること。根はいい人たちだって言っていたし」
「君さ、騙されやすい性格とか言われない?」
「!!!!?」
千鶴は驚きすぎて声もでない。
慌てて降り返ると、そこにはなぜか沖田がいる。
「ど、どど、どうして沖田さんがっ!?」
「あれ、もしかして気づいてなかったとか?この時間帯は僕が君たちの監視役なんだけどなー」
「………」
『ふふ。私たち監視されてるんだよ?』
そう言って鶴姫は笑っている。
もちろん気配で気づいていたし、監視されていることも忘れていない鶴姫は沖田がいることを知っている。
『私たちの話、聞かれてるかも…』
鶴姫は一応上司である沖田の意地悪癖がうつったのか、千鶴に悪戯を仕掛けて遊んでいる。
「ん?何か言ってたの?」
沖田は輝く笑顔で二人を見つめている。
千鶴が声にならない悲鳴をあげたとき、なぜか障子の影から斎藤が現れた。
「総司。無駄話はそれくらいにしておけ」
「……………斎藤さんも聞いてたんですか──!?」
「……つい先程来たばかりだが」
「良かった……!」
ホッと胸を撫で下ろしたような千鶴はいきなり叫んだことを謝罪する。
「気にするな。……そもそも今の話は聞かれて困るような内容でもないだろう。」
「!!!やっぱり聞いてたんですね……」
『それより、なにかご用ですか?』
「夕飯の支度ができたんだが、……邪魔をしただろうか?」
『邪魔ではありません。それよりも夕飯の支度とは?』
そう鶴姫が質問をすると、ばたばたと駆け込んできた藤堂は千鶴や鶴姫を見ると頬を膨れさせた。
「あのさ、飯の時間なんだけどー」
「すまん平助、すぐいく」
「ああ、千鶴も鶴姫さんも急げって。早くしねえと食うものなくなっちまうからさ」
「ごめんなさい、藤堂さん。すぐにいきます」
『……藤堂さん、いつまであの戦争続くのでしょう?』
行きかけた藤堂が立ち止まって、困ったような顔で口を開いた。
「あー、その【藤堂さん】ってやめない?みんな【平助】って呼ぶからそれでいいよ」
「で、でも……いいんですか?」
「歳も近いからその方がしっくりするし、鶴姫さんに関しては俺よりも年上なのにさん付けはおかしいだろ?」
『私は千鶴と同い年です』
「え!?」
『なんですか……』
「いや、絶対年上だと思ってたから。んじゃなおさらじゃん。平助でいいよ。あと、そのですますもやめようぜ」
「じゃあ、私は平助君で」
『では、私は平助と呼ばせてもらうね?私のことは鶴姫でいいよ』
「お、おおおおう!」
二人の美女に微笑みかけられて平助の顔は赤くなる。
先に歩いていく千鶴と平助のあとに鶴姫も続こうとしたとき、沖田に腕を掴まれた。
『……沖田さん?』
「君、男のときは僕のこと沖田って呼んで女の子のときは沖田さんって呼ぶけど、総司ってよんでくれないの?」
『出会ってまだ日も浅いですから…』
「平助のことは平助なのに?」
『彼は自分からそう言っていましたし』
「ふーん」
『何故そこまで呼び方にこだわるのですか?』
「そうだね。……平助は自分と年が近いからそれで許可したけど、僕は鶴姫ちゃんからなら呼び捨てがいいな」
『上司を呼び捨てにするなど、烏滸がましいと思うのですが……』
「僕は別に気にしないよ?鶴姫ちゃんなら」
隊士の前では男だから沖田さんでいいけれど。と付け足した。
相変わらずにこにこ楽しそうに笑っている。
『わかりました。隊士の前以外では総司、と呼べばいいのですね?』
「そういうこと。あと話し方も固いからもっと柔らかくていいからね。じゃ僕たちもいこうか」
満足したように笑った沖田は鶴姫を置いて歩き出す。
最初の頃と比べてすこし見方が変わった沖田に、鶴姫は少し笑った。
「ようやく来たか」
「遅ぇよ」
広間についた二人を永倉と原田が迎える。
「おめえら遅えんだよ。この俺の腹の高鳴りどうしてくれんだ?」
「新八っつぁん、それってただ腹がなってるだけだろ?困るよねえ、こういう単純な人」
「お前らが来るまで食い始めるのを待っててやった、俺様の偉大な腹に感謝しやがれ!」
「新八、それ寛大な心だろ……。まあ、いつものように自分の飯は自分で守れよ」
これを皮切りに、突撃隣の晩御飯が始まった。
千鶴は原田と永倉の間、鶴姫は斎藤と沖田の間に座らされた。
それからは賑やかなもので、藤堂が永倉からおかずを狙われていた。
「毎回毎回こんなんですまねぇな」
「慣れましたから」
『道場でも似たようなことありました。懐かしいです』
「慣れとは恐ろしいものだな…このおかず、俺がいただく」
『あ!』
鶴姫の隣にいた斎藤は鶴姫の膳からおかずを一つ奪っていった。
最近驚いたことは、斎藤が意外にも人様のおかずをとるということ。
ほぼ定位置のようになってきている座りかたで、鶴姫も毎度おかずの攻防を繰り広げている。
『沖t「鶴姫ちゃん」……総司はもう終わりですか?』
「うん、あまり腹一杯食べると馬鹿になるしね」
「おいおい馬鹿とは聞き捨て……だが、その飯いただく!」
「どうぞ。僕はお酒をちびちびしてればいいし」
「んじゃ、俺も酒にするかな」
「鶴姫ちゃんと千鶴ちゃんはただ飯とか気にしないでお腹一杯食べるんだよ」
あえてただ飯という言葉を使ったことに、気にせずにはいられなくなった二人。
「……わ、わかってます。すこしは気にします!」
「気にしなくてもいいが……自分の飯は自分で守れ」
『また私のところから…!』
「目をそらしたのが悪い」
『といいつつ、隙を見せる斎藤さんも脇が甘い!』
「…………」
されてばかりでは気がすまないようで、鶴姫も反撃に出ていた。
無口な斎藤とも少しづつ距離が縮まってきた。
食の力とはすごいもの。
自然を人を笑顔にする力があるし、悪魔にする力もかねそなえている。
『ふふ……』
「千鶴も鶴姫も、最初からそうやって笑ってろ。俺らも、お前らを悪いようにはしないさ」
千鶴と鶴姫を交互にみる原田は、満足げに目を細めていた。
「特に鶴姫の方は年齢以上の話し方するからもっと砕けてもいいんじゃねえか?」
『癖のようなものです。ずっと弟弟子たち達を見ていましたから』
「いや、それならもっと砕けててもいいんじゃないの?」
『そうですね……父がこのような感じで指導していましたから自然と……』
「そっか」
「まあ、無理にとは言わねえさ」
とそのとき突然、広間に井上が入ってきた。
「ちょっといいかい、皆」
その声はいつものように穏やかではあったが、井上の目は真剣そのもの。
和やかだった空気が、一瞬で硬いものへ変わる。
「大坂にいるトシさんから手紙が届いたんだが、山南さんが隊務中に重傷をおったらしい」
「え!?」
「何があったの?」
「ああ……二人が尋ねる大坂の呉服屋に浪士たちが無理やり押し入ったらしい」
『それで、山南さんはどうなったのですか?』
「駆けつけたトシさんと山南さんが何とか浪士たちを退けたらしいが、その時に斬られたそうなんだ。相当の深手だと手紙にかいてあるけど、傷は左腕とのことだ。剣を握るのは難しいが、命に別状はないらしい」
「良かった……!」
命に別状はないと言われて、千鶴は思わず胸を撫で下ろした。
しかし、みんなは厳しい表情のまま押し黙っている。
「数日中には屯所へ帰りつくんじゃないかな。……それじゃ私は勇さんと話があるから」
井上はそういって皆に背をむけた。
この重苦しい沈黙を破ったのは、斎藤と鶴姫の冷静な声音だった。
「剣が握れないほどの深手か……腕の筋まで絶たれているかもしれん」
『刀は片腕で容易に扱えるものではありませんから、最悪、山南さんは二度と真剣を振るえない可能性がありますね』
その瞬間、千鶴は皆の憂うものがなにかわかった気がした。
山南の命は助かったかも知れない。しかし、剣を握れない山南は武士として死んでしまったのだ。
「片腕で扱えば、刀の威力は損なわれる。そして、つばぜり合いになれば確実に負ける」
「……はい」
両手で刀をもつ人が相手なら、そう簡単に片腕で押し勝てるはずがないのだ。
「薬でもなんでも使ってもらうしかないですね。山南さんも納得してくれるんじゃないかなあ」
「総司。……滅多なこというもんじゃねぇ。幹部が羅刹になってどうするんだよ?」
「……え?」
『【らせつ】とは……もしかして』
そう鶴姫が尋ねると、平助は説明しかける。
「ああ、羅刹ってのは、薬を飲んだら怪我も治っちまう――」
to be continue